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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 訪れる変化の時
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第75話 「いつも傍にいる存在」

 アリッサが初めて顔を合わせてから、なぜ俺に敵意を向けるのか不思議だったのだが、彼女の発言で何となく理由が分かってきた。


「だって、オーディンの騎士は天位の騎士に従属する。如何なる命令にも従わなければならない。求められれば、すすんでその身を捧げなければならない……って、あんたに脱げって言われたら、脱がないといけないんでしょう。本当に最低」


 アリッサの発言を横で聞いていたアルテミスが、慌てて話に入って来た。


「アリッサ殿。その文言自体は間違ってはいません。ですが、その言葉が求めている騎士像は、貴女が言っている様な内容ではありませんよ」


「だって騎士訓練が始まる前からそう聞いていたわよ」


「それは、どなたが説明したのですか」


「あいつ」


 皆の視線がアリッサの指さす方へと一斉に向けられた。そこには真っ赤な髪に端正な顔立ちの男性が立っていた。


「アポロディアス……」


 周りの参加者の女性に笑顔を振りまいている彼の元に、アルテミスが穏やかな足取りで近づき、アポロディアスと共に会場の外へと姿を消した。アリッサの事で何か話でもするのだろうか。

 そもそも、俺も天位の騎士と他の騎士達の関係性については、まだ捉え切れてはいない。

 皆の前でディバス卿にひざまずかれた時は、どう対応すれば良いのか分からず、アルテミスに助け舟を出して貰った程なのだ。

 ──いきなり他の騎士達に命令をするなど出来もしないし、ましてや嫌がる事を強要するとか……。

 そんな事を考えていると、アルテミスがフラフラになったアポロディアスを引きずりながら連れて戻り、アリッサの前へと突き出した。

 会場で話し合いをしていた人達も異変に気が付き、話を止めてこちらに注目している。


「……ちょっとした遊び心でした。反省しています」


 アポロディアスの謝罪で、天位の騎士の説明が極端に歪曲されていた事を知り。アリッサが複雑そうな顔をしていた。


「でも、リオン殿。天位の騎士である貴方の指示に誰も逆らえないのは事実ですよ。もし貴方がそう望んだら、アリッサは……」


「えっ」


 アポロディアスの変な発言に、俺を見るアリッサの青い目に怒りが満ちる。

 こういう時は何か洒落た言葉でも返せれば良いのかもしれないけれど、動揺で言葉が出ない。

 そうこうしているうちに、アリッサは俺を睨みながら鼻先に指を突き出して来た。


「アルテミス様。もしも、こいつがそんな事を言い出した時は宜しく頼むわね」


 鋭い眼差しを向けているアリッサの口の端が「殺してやる」と言わんばかりに吊り上がっている。

 アリッサの迫力にたじろいでいると、アルテミスが割って入った。

 助かったと思ったが、アルテミスの続く発言に唖然としてしまう。


「はい。例え天位の騎士といえども、オーディンの名に於いて、アポロディアスと同じ様に仕留めて差し上げます」


「えっ」


「あら、アルテミス様。貴女の手を煩わせずとも、このセシリアが仕留めて差し上げますわよ」


「ええぇ……。俺、何も悪くないよね? 何だこれ」


「いや、リオン殿が悪いです」


「ちょっと待ってアポロディアス! そもそも君の発言が原因だろう。その君が……」


「はっはっは! 若いもんは楽しそうだな」


 俺が困り果てていると、傍に居るディバス卿が笑い始めた。

 そして、事の成り行きを見守っていた人達もつられて笑い出し、そのまま会場が笑い声に包まれる。

 アリッサは小さく舌を出し、おどけた様な表情をしていた。睨んでいる時とは違い笑顔の時は可愛らしい。

 思わず苦笑いをしながら皆を見ていると、ディバス卿に強く肩を掴まれた。


「偉ぶらず、この様な時に皆を笑顔に出来るのも、リーダーの大切な資質だ。流石にリオン殿は良いものを持っておられる」


 ディバス卿の発言に、アルテミスが嬉しそうに頷いていた。


「いえ、周りの皆が俺を笑顔にしてくれるんです」


 厳しい現実が差し迫っているけれど、皆の笑顔を見ていると乗り越えて行ける気がしてくる。

 いや、必ず乗り越えてみせる。皆のこの笑顔を守るために……。


 ────


「俺はドロシア軍のヴィチュスラー大佐に現状を伝え。その後セントラルコロニー軍の最初の侵攻先と言われているユーロンコロニー領域へと状況確認に行く。アリッサはドロシア共和コロニー領域、ディバス卿は今一度セントラルコロニー領域での情報収集をお願いしても宜しいですか」


「了解よ」


「承知した。だが、ヴィチュスラー殿との面会には同行させて頂きたい。儂が一緒に行った方が話が早かろう」


「それは助かります。お願いします」


「では、出発の準備を整えておこう」


 三国による調印も無事に終わり。いよいよ侵攻に対する作戦行動が始まった。

 ヤーパンの代表団はイツラ姫と共に急ぎ国へと戻り。エルテリアの人達も慌ただしく動き始めている。

 アリッサとディバス卿が部屋から出て行くのを見送ると、俺の周りにはいつものメンバーが集まっていた。


「リオン。エルテリアからは、俺の他にメカニックが三名、艦橋オペレーターと砲術担当が合わせて三名、それとコックが二名乗艦する。まあ、この前一緒だった連中だ」


「コックの方も一緒なんですね! 嬉しいなぁ」


「だろう! やっぱりイーリス任せよりも、人が作った料理の方が美味しいからな」


「ええ」


「リオンちゃん。ヤーパンからはヤスツナ軍曹達メカニックが四名。オペレーターが三名よ」


「はい。七名ですね」


「八名よ。私の事はわざわざ言わなくても良いわよね」


「あ、はい。そうでした」


 いつも当たり前の様に傍に居てくれるセシリアさん。一緒に行くのが普通だと感じている事を少し反省した。セシリアさんはヤーパン軍からの派遣武官なのだ。


「皆さんありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ重要な作戦に同行させて貰えて感謝だよ」


「いえ、皆さまからのご厚意。本当に有難く思います」


 俺と並んでいたアルテミスが前に出て、集まった人達に胸に手を当てながら会釈をしている。

 洗練された所作に加えて、ドレス姿というのも有るけれど、今日のアルテミスは本当に綺麗だと思う。


「イーリスはオーディンの機体に対し攻撃が出来ないようプログラムが組み込まれています。ですので、セントラルコロニー軍のGDと戦闘状態に陥った時に、それが発動するようでしたら、攻撃システムの権限をイーリスから切り離し、皆さんに対応頂かねばなりません」


「アルテミスさん、大丈夫ですよ。エルテリアもヤーパンも、イーリスのシステムを知る一流のオペレーター達が参加していますから」


 イーリスに同乗するメンバー達は、エドワードさんの言葉に答える様に、親指を立てたり、胸を叩いたり、可愛らしく手を振ったりしている。

 皆で何処かに遊びに行くみたいな雰囲気を作ってくれているが、実際は死地に飛び込む危険な任務なのだ。皆の覚悟と思い遣りに胸が熱くなる。


「取り敢えずイケメンのヴィチュスラーに会いに行こうか。まあ、リオンと一緒にエルテリアの美女たちと遊ぶ時間がなかったのが本当に心残りだがな」


「うっ……うん! そんな時間は永遠に訪れないわよ。リオンちゃん行くわよ!」


「え、あ、は、はい……」


 セシリアさんに引きずられながらアルテミスと共に部屋を出ると、部屋の中から笑い声が聞こえて来た。

 ヤスツナさんの「なあ、うちの少尉殿……ありゃ本気なのか?」という問い掛けに、エドワードさんが何か答えていたが、声が小さくて聞き取れなかった。何の話だろう。

 そのまま会場の出口に向かっていると、セシリアさんが振り返り俺の表情を探る様に見ていた。

 何で見られているのか良く分からなかったので、首を傾げるとセシリアさんは顔を赤くして直ぐに前を向いてしまった。


「……もう。可愛いんだから……」


 そんな呟きが聞こえて、何が可愛いのか考えていた時だった。


「あっ」


 横を歩いていたアルテミスが転びそうになったのか、急に俺の腕を掴んだのだ。

 アルテミスが転倒しない様に腕に力を入れる。


「大丈夫?」


「え、ええ。ちょっとドレスのすそを踏んでしまっただけです。お気遣いなく」


「そっか、アルテミスでもそんな事が有るんだね」


「ふふっ。失礼しました。ありがとうございます」


 アルテミスは腕から手を放し、笑みを見せながら直ぐに歩き始めた。

 俺はこの時、その事を特に深く考えずに他の事に想いを馳せていた。

 高い演算能力と凄まじい身体能力をもつアルテミスが、つまずく事なんて有るはずもないのに……。

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