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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 訪れる変化の時
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第73話 「私はAAI」

 オーディンとヤーパンとエルテリア。

 元々協調関係にある三国だが、今回正式に同盟調印が行われる事となり、その記念式典が行われるのだ。


 ふわふわとした素晴らしい乗り心地に感動しながら、前後を警備の車両に挟まれた俺とアルテミスが乗る黒塗りの車が、華やかに装飾された式典会場へと到着した。

 エルテリア軍の儀仗ぎじょう服を着た兵士にドアを開けて貰い、車から降りると素早く反対側のドアの前に移動する。

 開かれたドアの前に手を差し出すと、白いレースに包まれたしなやかな手が重ねられた。

 凛とした表情に微笑みを湛えたアルテミスが、美しいドレスに包まれたその身を露わにする。

 所作を徹底的に訓練され、感情を表情に出す事はもちろん、要人に視線を合わせる事すら許されないはずの儀仗兵が、アルテミスのあまりの美しさに思わず見惚れているのが分かる。

 アルテミスが手を離したタイミングで腕を差し出すと、そっと手が添えられた。


 会場内に向けて歩き始めると、周囲の視線が一斉に注がれる。

 オーディンの儀仗服はいまだに似合っている気がしないが、皆の視線はアルテミスに集まっているだろうから余り気にならない。


「……リオン。ほら、もっと胸を張って。皆さんに笑顔で会釈を……」


「……はいはい……」


 微笑みを絶やさないアルテミスが、皆には聞こえない声量で注意してくる。

 イーリスから会場に到着するまで、ずっと式典での所作についてお説教をされていたのだ。

 いつもとは違い、美しいドレスをまとったアルテミスは本当に綺麗だと思う。

 でも、中身はやはりいつものアルテミスだ。


「……うるしぇえ、クショババア……」


 口を開かずに呟く。


「……何か言いましたか?」


「……痛っ……」


 僅かに痛む程度だが、添えられた手で腕を抓られた。

 絶対に聞こえない声量で呟いたつもりだったが、しっかりと聞き取られていたのだ。

 アルテミスは聴力も尋常じゃない事を思い知らされる。

 今更だが、騎士になった際に「アルテミスの全ての忠告や助言を受け入れるから、これからも遠慮なく接して欲しい」と伝えた事を若干後悔していた。




 アルテミスと共に会場に入ると、先ずは可愛らしい笑顔が出迎えてくれた。

 床に付きそうな長い袖が特徴的な、ベージュのふわりとしたドレスを身に纏った少女。


「イツラ姫」


「リオン殿、ご無沙汰しております。騎士就任おめでとうございます」


 イツラ姫は軽く会釈をしながら微笑んだ。全ての所作が柔らかく洗練されている。

 自分よりも年下の少女とはいえ、やはりヤーパン国の皇女として身に付けて来た立ち振る舞いは優美で、俺とは大違いだ。

 でも、その視線はアルテミスを捉えてキョロキョロと興味深そうに動いている。この辺の少女らしさは相変わらず可愛らしい。


「リオ兄……エホン……リオン殿。こちらの美しい女性をご紹介頂けますか」


「え、あ……」


「イツラ・インペリアルプリンセス・オブ・ヤーパン。お初にお目に掛かります。天位の騎士リオン・フォン・オーディンのパートナー、アルテミスでございます」


 こちらも流れる様な所作でアルテミスがイツラ姫に会釈する。

 再び美しい所作で会釈を返したイツラ姫が、微笑んだまま俺に視線を戻した。

 だが、俺を見つめるそのアーモンド色の瞳は、驚いた様に大きく見開かれている。


「り、リオ兄……。パートナーという事は……この美しい女性は、まさかお妃……」


「えっ?」


 イツラ姫の質問の意味が分かっていなかった。アルテミスのインペリ何とかの下りが気になり、聞いていなかったのだ。


「これは皇女様、失礼致しました。わたくしはAAIでございますので、その様な事はございません。騎士をサポートするパートナーでございます」


「は、はぁ。AAIでございますか?」


「ええ。そのお話は後ほど皆さまの前でさせて頂きます」


「そうですか。良く分かりませんが、お妃様では無いのですね」


「はい、もちろんでございます」


 アルテミスが屈託のない笑顔でイツラ姫に返答している。

 どうやら、イツラ姫はアルテミスを俺のお妃様だと勘違いした様だ。

 ──ところで、インペリ何とかって何の事なのだろう……。


「安心しました」


「わたくしがリオンの妃ではないと、皇女様が安心されるのでございますか」


「えっ、いや、その……」


 アルテミスの質問にイツラ姫が変な動きをし始めた。どうしたのだろう。


「あ、あ、あの。そ、そうですわ! セシリアが悲しまなくて良かったと言う意味での安心でございますのよ。オホホ」


 イツラ姫が目を細めて微笑んでいる。

 でも、セシリアさんと言えば……。


「イツラ様、セシリアはこちらに控えておりますが。何かおっしゃいましたでしょうか」


 実はセシリアさんは会場に到着してからずっと、俺とアルテミスの後ろに付いていたのだ。

 俺を挟んでアルテミスとは反対側に歩み出ると、ビシッと背筋を伸ばし自国の皇女であるイツラ姫に敬礼した。


「せ、セシリア中尉」


「イツラ様、小官は少尉でございます」


「ごめんなさ……これは失礼。セシリア少尉もご一緒だったのですね」


「はい。騎士殿のヤーパン軍専任派遣武官として、ひと時も離れずに任務に勤しんでおります」


 セシリアさんの発言を聞いて、アルテミスが俺の顔越しに微笑んでいた。


「ええ。セシリア少尉には素晴らしいサポートを頂いております。公私の区別なくしっかりと」


「あら、アルテミス様。何か含んだ言いようですけれども。何か?」


 今度はセシリアさんが顔越しにアルテミスを覗き込んでいる。


「いえ、特に何も含んではおりませんが」


「セシリア、そうなのですか? 任務を逸脱してはいないでしょうね」


「失礼ですが、その様なお話はイツラ姫には、少し早すぎるかと存じます」


 理由は良く分からないが、微笑みを湛えたまま三人の女性の目線が幾度となく交差していた。でも、誰も目が笑っていない……。

 何となく話題を変えた方が良さそうなので、さっきから気になっていた事を聞いてみた。


「と、ところでさぁ。さっきアルテミスがイツラ姫に言っていた、インペル何とかってどういう意味?」


「「「ヤーパンの皇女って意味です!」」」


 三人が一斉に答え。その大きな声に会場の視線が一斉に集まる。

 会場は適温のはずなのに、背中に汗が流れて来た。


「あ、はい。ごめんなさい……勉強不足でした」


 誰にという訳でもなく、取り敢えず頭を下げた。


「全くです。リオンはもっと学ばないと駄目ですよ」


「あら、リオンちゃん。知らない事は私が何でも教えてあげるわよ」


「リオ兄。私の名前の事でしたら、後でゆっくりとお話しましょう」


「あ、え、あ、はい」


 三人の圧力に耐えかねていると、救いの手が差し伸べられた。


「麗しき女性陣の皆様。皆が三人の美女が参加される式典の開始をお待ちでございます」


 エルテリア軍の儀礼服を身に付けたエドワードさんが、深く会釈をしながら手を伸ばし、席の方へと促す様な所作をしていた。

 三人の女性は、その時初めて皆から注目されている事に気が付いたみたいで、慌てて歩き始めた。

 アルテミスと歩みを進めながら、エドワードさんに感謝の念を込めて会釈をすると、エドワードさんは何故か面白そうに笑っていた。


「これにエルテリアの女性陣も参戦するのか。こりゃ楽しみだな」


 そのひと言で、席に向かっていた女性陣が振り返り、笑顔のエドワードさんをにらみつけていた……。


 ────


「わたくしの名前はアルテミスと申します。オーディンの騎士であるリオン・フォン・オーディンのパートナーAAIでございます」


 白い美しいドレスを(まと)ったアルテミスが、式典後に迎賓館げいひんかんの一室に集まったヤーパンとエルテリアの高官に会釈する。


「一部の方々は噂程度にお聞きになられた事が有るかも知れませんが、Automata(機械人形) AIとは、いわゆるアンドロイドの事です」


 輝く様な美しさのアルテミスがアンドロイドであるという発言に、その事を知らなかった者達から一斉に騒めきが起こる。


「先ずはオーディンと私達AAI。そしてGDギャラクシー・ドールとControl(機体制御)AAIに付いて話を致します。我々オーディンは……」


 アルテミスによるオーディンやCAAIの説明を受け、迎賓館に集まった人々は口々に驚きの言葉を発していた。

 確かめる様にアルテミスを凝視する者、信じられないと言った素振りで首を横に振る者など様々だ。

 

「……そして、オーディンがこれまで秘匿して来た、私達CAAIの事を公表するのには理由がございます。現在、この世界に迫っている脅威に付いて、私が姿をお見せしてCAAIの存在が事実である事をお伝えしなければ、それがどれ程の危機であるのかをご理解頂けないと考えたからでございます」


「アルテミスさん……で、宜しいですか」


 話を聞いていたエルテリアの軍務省長官が問いかけると、アルテミスは頷いた。


「貴女が言われている危機とは、現在行われているセントラルコロニーとドロシア共和コロニーとの戦争に関する事なのですか」


「はい。そのセントラルコロニー軍に関する事になります」


「ふむ。我々が入手している範囲でしかありませんが。セントラルコロニー連合であるCUPは連戦連敗で、ドロシア共和コロニー連合のDRE側が圧倒している。それなのに、セントラルコロニー軍が脅威になるという事なのですか」


「はい。いまだ確証を得られている訳ではありませんが、我々オーディンの騎士とそのGD、そしてCAAIがセントラルコロニー領域で行方不明になっております。オーディンはセントラルコロニー軍に鹵獲ろかくされたと考えています。それだけではなく、鹵獲された機体とAAIの技術を入手されたという結論を導き出しました」


「それがいつの事なのかは分からないが、それならば何故セントラルコロニー軍は連敗が続いているのですか」


「セントラルコロニーの前線部隊が極めて脆弱ぜいじゃくなのは、GWのベテランパイロットや精鋭の艦隊が、量産化されたGDとその運用部隊として本国近辺へと集められていたからだと分析しています。前線には新兵や旧型の艦艇が中心の部隊が展開させられていたと考えれば、状況に納得頂けるかと思いますが」


「なるほど。だが、確証も無いままに……」


「それについては、私が説明致しましょう」


 突然の発言者の声に皆の視線がそちらの方を向く。

 エルテリアの軍人が警備に立っている扉が開け放たれ、そこには黒衣を纏った男が立っていた。


「ディバス卿」


 黒騎士と呼ばれている男は、室内の一点を見つめながら歩き始め、アルテミスの横に座っている者の前に来ると躊躇ちゅうちょなくひざまずいた。


「天位の騎士リオン・フォン・オーディン殿。就任式にも参加できず遅参致しましたこと、お詫び申し上げます」

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