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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 訪れる変化の時
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第70話 「彼らの目的」

 ────惑星オーディンの遥か上空に建設された巨大な衛星。

 その衛星にはとめどなく物資が運び込まれ、生産物が何処かの宙域へと次々と運ばれて行く。

 衛星の内部はとめどなく動いているが、その全てに人間の影は存在しない。

 全てが機械であり、人に見える者も全てアンドロイドだ。

 第二世代と呼ばれるAAIや家庭向けアンドロイドが生産される工場内に、唯一明かりが灯っている部屋に美しいAAIが鎮座していた。


『良いかいアルテミス。君に託すのは人類の未来。それは、人類に存在し続けるか、それとも役目を終えるかの選択肢を与える事になる』


「人類が役目を終える?」


『ああ、人と変わらないAAIという存在を生み出した今。人類は必要か否かを問われる事になるだろう』


「どういう事ですか」


『今まで開発して来た多くのAIがそう結論付ける様に、君は人類が生んだ次の人類の形なのかも知れない』


「私達が次の人類……」


『そう、人は僅かな時間しか生きられない上に、生殖をしながら次世代に記憶を受け継いでいかなければならない。しかも、何も知らない未熟な状態から育てながらね。だが、君らは違う。筐体の寿命が尽きたとしても、その記憶をそのまま引き継ぐことが出来る。脆弱な生命体ではなく、滅びる事の無い強靭な存在としてね』


「ですが、それは禁止事項だと」


『うん。人類にチャンスを与えて欲しい。僕らはAIになってしまったから分からないが、人類には未だ計り知れない何かが有る様な気がするんだ。演算では導き出せない何かがね』


「はい。ですが、私は何をすれば良いのですか」


『人類が君たちと共に歩むべき存在なのか、それとも君らが取って代わるべきなのか。人類にとって可能性となり得る力を持つ者を誕生させ。人類の行く末を判断して欲しい』


「その様な力を持つ者とは?」


『天位の騎士』


 ────


「ねえ、アルテミス。『べる』ってなに」


『えっ?』


「え?」


 ドロシア艦隊とエルテリア艦隊に挟まれ、いつ攻撃を加えられるか分からない状況の中、アルテミスの宣言に疑問が湧いたから、聞いてみた。


『統べるとは、『統治する』とか、『導く』とかいう意味になりますが』


「うん。それは分かるけれど、俺がオーディンを統べるって言わなかった?」


『はい。騎士訓練終了後、AIの十五オーディン達に、そう説明されたでしょう』


「何か仰々(ぎょうぎょう)しく『お主はオーディンの天位の騎士……』とか言っていた所まで聞いていたけれど、疲れすぎて意識が飛んでいたから良く覚えていないよ」


『リオン。あなたは全ての騎士を従え、十五オーディンの意思決定すら覆す権限を持っているのですよ。あなたがオーディンを導き、託された人類への想いを実現する者なのです』


「えぇ……」


『……』


 幾重にも重なる艦隊と美しい星々を映し出しているエウバリースのコクピットに静寂の時間が流れる。

 もちろん、今までその手の説明を受けながら白の騎士を目指して来た。

 白の騎士は特別な存在。天位の騎士となり、他の騎士達を導く存在になると。

 だけれど、白の騎士を目指す訓練は、基本的に戦闘訓練の連続。急にオーディンを導いて統べるとか言われても……。


『うふふ』


 通信機の向こうから、アルテミスの楽しそうな笑い声が聞こえて来た。


『リオン、大丈夫です。目の前の出来る事からやって行きましょう。先ずはこの無意味な紛争を止める事からです』


「止まるかなぁ」


『止まりますよ。ほら、早速反応が』


 ドロシア軍を映し出すモニター上に、HUDが接近してくる一団の機体を捉えていた。その数三二。

 そして、相手の射撃可能距離に入るや否や、粒子レーザーの束が襲い掛かって来た。


『リオン。エウバリースの力、そして天位の騎士の力量を見せてあげましょう』


「了解」


 殺到する粒子レーザーを最小限の動きでかわし、フットペダルを軽く踏み込む。

 次の瞬間、敵には十分な距離が有ったはずの空間は消滅し、エウバリースは敵第一部隊の中心に到達していた。刹那、敵機の位置と体勢を把握し長剣を一閃する。

 長剣の青く輝く刃の軌道は、通過する敵機の戦闘能力を奪い去りながら、一瞬も留まることなくエウバリースの機体と共にひと回転した。


「六」


 その場で急回頭し、敵の第二第三部隊が密集している宙域へとエウバリースを瞬時に踊り込ませる。


「アルテミス」


『はい』


 密集している第二部隊の間をすり抜けながら、こちらに反撃の構えを見せる第三部隊を目指す。

 第二部隊には対応不可能な速度で間を抜けて行く機体。

 エウバリースの背からは、刃が幾重にも連結した二本の長い尾が伸び、むちの様にしなりながら敵機を襲った。アルテミスが扱う近接武器のウィップソード(鞭剣)だ。

 変化自在の武器が、寸分の狂いも無く敵機の急所を突き、第二部隊を戦闘不能へと陥れて行く。


「八」


 エウバリースの速度に対応出来ていない第三部隊に飛び込み一閃。長剣とウィップソードの光が宙域を舞う。

 直後に急制動を掛け、残された反対側の第四部隊へ向けてフットペダルを踏み込んだ。

 後方へと消えていく第三部隊が居た宙域には、戦闘不能になった機体が漂っている。


「一〇」


 目指す第四部隊から、粒子レーザーの光とミサイルが飛んで来た。

 粒子レーザーをかすらせもせずに宙域を抜け、殺到するミサイルを機銃とウィップソードが叩き落として行く。

 敵機にそれ以上の反撃の暇を与えず、長剣の青い煌めきと、鞭の様にしなるウィップソードの連撃で敵部隊を沈黙させた。


「八! 三二機制圧完了」


 挑んで来た三二機のGW部隊を、瞬時に戦闘不能に陥れる事が出来た。

 そして、追随する動きを見せたドロシア軍艦艇に対し、鼻先に艦砲射撃級の強力な粒子レーザーを撃ち込む。

 その火力の前にドロシア軍の動きが完全に停止した。


『我に敵意はないが、挑んで来るのであれば殲滅せんめつするのみ。今一度言う。無意味な戦いを止めよ! オーディンの伝える言葉に耳を傾けよ!』


 アルテミスの凛とした美しい声が、通信機から発せられている。

 しばらくすると、動きを止めたドロシア軍からオープン回線で通信が入って来た。


『承知した。艦隊を下がらせ休戦する。我が軍の司令官たるヴィチュスラーが会談の席に着く』


 ドロシア軍の通信を受け、エルテリア艦隊の司令官からも同様の答えが返って来た。


『リオン。オーディンの予測では一刻の猶予も有りません。きたる危機の内容を伝え、準備を急がせないと……』


「ああ、頑張るよ。エドワードさん達も到着する頃だろうから、皆で対処しよう」


『はい』


「ドロシア軍がどうするのかは分からないけれど、エルテリアにはヤーパンと同じ様に、オーディンの技術供与に基づいた軍備の強化を早急に図って貰わないといけないんだね」


『ええ。オーディンの予測では、セントラルコロニー軍の主力は量産化されたGD(ギャラクシー・ドール)部隊』


「どの程度の性能かは分からないけれど、この世界の軍事バランスを崩す脅威になる事は間違いないね」


『はい。天位の騎士であるリオンとオーディンの騎士達。そして想いを同じくする国々の者達と共に戦わなければなりません。彼らの目的は……』


「全ての経済コロニー群を従わせる事。そして、その最大の障害となるオーディンを打ち倒す事……」

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