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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 白の騎士リオン
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第69話 「天位の騎士」

「左翼の突出を抑えさせろ。意図は分かるが、相手に釣り込まれている感じが否めない。挟撃されて崩れると戦線維持が厳しくなる。こちらはエルテリアとは違い予備兵力は限られているのだからな」


 ヴィチュスラーの指示が伝わるや否や、左翼側から押し出し敵中央部への挟撃を意図していた艦隊が徐々に後退し始めた。

 突出した状態からの後退は、かなり難しい艦隊運用が要求される。だがドロシア軍の左翼艦隊は、後退しつつもエルテリア軍からの追撃を許さぬ見事な動きを見せていた。

 一列目の艦隊が後退すると二列目の艦隊が迎撃を受け持ち。その二列目が退くと三列目が姿を現す。その様にしてスルスルと宙域から後退して行く。

 後退するドロシア艦隊にエルテリアの右翼艦隊が追随し前進を始めたが、ドロシアの艦隊運用の前に追撃の効果は得られていない。

 その直後に、ヴィチュスラーの指摘した通りドロシア軍の左翼艦隊が突出していた宙域にエルテリアの別動隊が現れた。

 だが、挟撃するべき相手の姿はその宙域には無く。そのままエルテリア右翼艦隊の後方へと吸収されてしまう。

 ヴィチュスラーの指示が届かず、ドロシアの左翼艦隊が後退していなければ、このエルテリアの別動隊に挟撃される状況に陥っていた可能性が高く、的確な判断のお陰で無難に逃れる事が出来たと言えるだろう。

 エルテリア軍は何とか乱戦に持ち込み、ドロシア軍の一角を崩そうとGW隊を展開させたが、乱れる事なく整然と後退して行く艦隊に付け入る隙は無く、追撃を諦めGW隊を撤収させ、後退して行った。

 

 軍事衝突が始まり約一ヶ月。両軍決め手を欠く状況のなか、多くの将兵が無為に命を落としている。

 そもそも、ドロシア軍は艦隊展開による威嚇で、エルテリアのDRE連合への参加、もしくは不戦条約を締結するのが目的であり、エルテリアを攻略する意図は無かった。

 一方のエルテリア側は中立の立場を変えるつもりはなく。ドロシア軍を領域外に留まらせる為に艦隊を展開させただけであったのだ。

 ところが、不幸にも戦端が開かれてしまい、不毛な殺し合いが続いているのである。

 だが、終わりの見えないこの不毛な戦いに、変化の時が訪れようとしていた。


「ヴィチュスラー大佐。前線より緊急通信が入っております!」


 ────


「ん……アルテミス。ここは何処。体が重たいよ……」


「リオン。やっと気がつきましたね」


「……体が痛い。ここはコクピットの中かい」


「ええ。訓練用GDのコクピットです」


 アルテミスの返事と共に、全球モニターに外の景色が映る。

 俺の顔を覗き込むアルテミスの背後に青空が広がっていた。


「オーディンに降りたの?」


「はい。体が動く様でしたら機体から降りましょうか」


「分かった。でも、五分だけ待って」


「ええ。貴方が望むだけ待ちますよ」


 アルテミスはそう言うと俺を優しく抱きしめた。

 アルテミスの胸は柔らかくないが、何故かとても心地が良い。

 抱き締められると、自然と顔を包み込んで来るプラチナグレーの髪が堪らなかった。

 思わず握ってしまい、手の中をサラサラと滑って行く感触をいつまでも楽しんでしまう。


「ふふ……変わらないわね」


 アルテミスが更に強く抱きしめて、俺の額に何度も口づけをしていた。

 アルテミスにとっては、俺は赤ん坊の頃と同じなのかも知れない。




「あー、良く寝た。でも、まだ体がだるいよ……痛っ!」


 石畳の上に降り立ち背伸びをしていると、いきなり後頭部を殴られた。


「死ねば良いのに」


 声の主を振り向くや否や、再び拳が襲って来る。

 寸での所でかわし、そのまま腕を取り茶髪の後方へと回り込む。

 肩に軽く手刀を落とし、掴んだ腕を外してやると、すかさず裏拳が飛んで来た。

 拳を往なし、今度は反対の肩に手刀を落とす。

 その動きで記憶が蘇る……。


 数時間にわたる激闘の末、遂に両機とも粒子レーザーのエネルギーが尽き、そのまま近接戦闘となった。

 深紅のサルンガからの苛烈な攻撃。

 アリッサが騎士になって僅か一ヶ月。どこでどの様な訓練を積んで来たのか分からないが、サルンガの動きはあの黒騎士に勝るとも劣らないものになっていた。

 それでも、今までの訓練で身に付けた技術や感覚を駆使し、深紅の騎士の攻撃に対抗し、アリッサが攻め疲れた一瞬の隙を突き、サルンガの両肩を潰し攻撃力を奪う事に成功したのだ。

 だが次の瞬間、サルンガが後方に回転しながら渾身こんしんの蹴りを……。


 次に来るであろうアリッサの蹴りを受け止めるべく低く構えると、可愛らしい赤いパンプスが目に入った。


「あんたさあ。サルンガと同じように、蹴り上げた所で脚を掴むつもりでしょうけど、今日はスカートだからしないわよ。女好きのあんたに下着なんか見せるもんですか」


「……」


 戦いながらいつもとは違うと思っていたが、アリッサは可愛らしい深紅のドレスを身に纏っていた。

 相変わらず青い目でにらんで来るが、口紅やアクセサリーを付けていてとても綺麗だ。


「あーもう。あんたが暴れさせるから、イヤリングが飛んだじゃない」


 俺が原因というのは納得いかないが、石畳を探すとアリッサの足元にキラリと光る物が落ちていた。

 仕方が無いので、しゃがんで拾おうとすると、アリッサが慌ててドレスのすそを抑える。


「あんた下着を覗くつもり? 蹴り殺すわよ」


「はあ? イヤリングを拾ってやってるだけだ!」


「フンッ! どうだか……女ったらし」


「お前なぁ」


 拾ったイヤリングを投げ渡すと。アリッサは目線を逸らす事なく受け取り、直ぐに耳に付け直していた。


「あーあ。何でこんな奴に負けたかなぁ。この先『アリッサたん大好き』とか言って迫られたら面倒臭いから、今からでも殺そうかしら」


「お前……」


「あらあら、深紅のお嬢ちゃま……っと、これは失礼。深紅の騎士様、本日はご機嫌麗しゅう」


 懐かしい声に振り向くと。顔を見る前に抱きしめられてしまった。

 頭を抱えられ視界いっぱいに胸の谷間が広がっている。


「オーディンの騎士様。ご帰還をお持ちしておりましたわ」


 顔を上げると、優しい緑色の瞳と満面の笑みが迎えてくれた。


「セシリアさん!」


「リオン!」


 俺を見つめる緑色の瞳から涙が溢れて来た。

 そして直ぐに、また抱き締められてしまう。


「終わったのね」


「はい、終わりました」


「おいおい、いきなりご褒美かよ。君は……いや、騎士殿は羨ましい限りだな」


「エドワードさん!」


 セシリアさんに抱き締められたままエドワードさんに手を伸ばすと、力強く握り返してくれた。

 騎士訓練が始まって約半年。一番会いたかった人達と再会する事ができたのだ。


「では、改めて」


 エドワードさんが促すと、セシリアさんがやっと拘束を解いてくれた。

 エドワードさんはエルテリアの儀礼服、セシリアさんは胸元が大きく開いた真っ赤な美しいドレスを身に纏っている。

 そして、正装をした二人が急に姿勢を正した。


「我エドワード・ヒューイは、オーディンの騎士リオン・フォン・オーディンに永遠の忠誠を誓います!」


「我セシリア・ハーゲンブラウンは、オーディンの騎士リオン・フォン・オーディンに永遠の忠誠を誓います!」


 二人から真顔で宣言されて、どうして良いのか困ってしまう。


「やめて下さいよ。何だかムズムズしてしまいます。俺はいつも通りのリオンですよ」


「いいえ、ひと回りもふた回りも立派になったわよ」


「ああ、身に纏った雰囲気が別人だぞ」


 二人にそう言われても、あまり自覚は無かった。

 でも、そうなれているのなら嬉しい気もする。


「なに? もう騎士気取りで従者とか連れているわけ? 信じらんない」


 アリッサが腕を組み、呆れ顔をしていた。

 それを見たセシリアさんがアリッサに近づき、わざとらしく礼を執る。


「深紅のお嬢……騎士様。騎士気取りではなく、リオンは貴女と同じ騎士様でございますわよ」


「同じ騎士?」


 アリッサが口惜しそうに目線を別の方へと向ける。

 そこには、深紅の『サルンガ』に紺碧こんぺきの『トリアリーナ』、そして白銀の『グーラム』が並んでいた。


「同じじゃないわよ。ああ、悔しい」


 アリッサが白銀のグーラムを見ながら、不機嫌そうにつぶやいた。


「ここに並んでいるのとは、同じじゃないのよ……」


 その時、騎士受任式典の行われる広大な城の敷地内に、イーリスから白く輝く機体が姿を現した。

 美しきフォルムに虹色の光沢。他を圧倒する存在感。そこに居る者達は思わず目を奪われてしまう。


「あれが……エウバリース」


 ────


 凄まじい速度で宙域に到達した彗星の如き白い光は、睨み合うエルテリア艦隊とドロシア艦隊の目前で急激に速度を落とし、瞬時に静止した。

 巨大な甲冑の騎士である白亜の機体は、その筐体から虹色の輝きを放ち、古代神話に登場する神に仕える聖騎士を思わせるフォルムをしている。

 アームには青光りする長剣が握られ、もう片方のアームには誰もが知る紋章が刻まれた巨大な盾が握られていた。

 そしてその背からは、沢山の刃が連結された二筋の長い不死鳥の尾の如き武器が、吹くはずのない風になびくかの様に揺らめいる。

 

 戦闘宙域に突然現れた圧倒的な存在感を放つ機体に、前線で睨み合っていた両軍の兵士達は呆然とモニターを覗き込み。その機体からと思われる竪琴ハープの様な美しい声に耳を傾けた。


「エルテリアとドロシアの勇敢な兵士達よ。この無益な戦いを直ぐに止めよ。そしてきたる危機に共に備えよ!」


 輝く機体が発する認証コードに、この世界では知らぬ者がいない紋章。

 その畏怖すら覚える輝く機体から発せられる言葉に、艦橋で通信を聞いていた士官達が顔を見合わせた。

 

「我はオーディンの騎士にしてオーディンを統べる者。天位の騎士リオン・フォン・オーディン」


いつも読んで頂きありがとうございます。

そして「いいね」や「☆評価」「ブックマーク」を頂きありがとうございます!


この話で『白の騎士リオン』の章が終わり、次章からアルテミスとリオンの『天位の騎士』としての戦いが始まります。

これからも楽しんで頂けると幸いです。


出来ましたら、一言でも構いませんのでコメントを頂けると、とても励みになります!


次章の前に、様々な機体や登場人物が増えて来ましたので、登場人物や用語集を差し込みたいと思っています。


これからも『アルテミスの祈り』を宜しくお願いします。



磨糠まぬか 羽丹王はにお

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