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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【オーディンの騎士】 白の騎士リオン
64/123

第64話 「オーディンとGD」

「アルテミス。あれがオーディンの衛星なの」


「はい。あの衛星を拠点にしながら、訓練用の機体を使った戦闘訓練が始まります」


 惑星軌道上に浮かぶオーディンの衛星。モニターに映るその姿が徐々に大きくなった来た。 

 とれも人工物とは思えない巨大な建造物。距離が近づくにつれて、その大きさに圧倒されてしまう。


「あ、アルテミス。何だか凄い衛星だね」


「ええ。オーディンの中枢といえる設備ですから。オーディンに関する全ての情報や資源がここに集積されます」


「ねえ、やっぱりここにも人は居ないの?」


「はい。説明した通りオーディンに人はいません。騎士と騎士見習い、そして訪れる事を許された者しか居ないのです」


 アルテミスから聞かされたオーディンの真実は衝撃的だった。

 人類の為に人が残した英知。オーディンは全てがAIによって成り立っているコミュニティだったのだ。それがオーディンの真の姿……。

 生誕の星から宇宙へと開拓を始めた人類は、セントラルコロニー政府が他のコロニー群を従属的に従えながら、その支配宙域を広げていた。

 そんな中、移住可能な新たな惑星や宙域を探索するという目的の為に旅立った者達が居たそうだ。

 非常に優秀な知識と技術を習得していた者たちが集められていたそうだが、とある宙域で行方不明となり、結果事故死として扱われ人々の記憶から忘れ去られてしまった。

 しかし、彼らはセントラルコロニー政府の影響が遠く及ばない惑星へと密かに辿り着き、彼らの目指すコミュニティを創り、開拓を進めていたらしい。それがオーディンの始まりという事だった。


 幾つかの隔壁を越え巨大な格納庫に着艦すると、見慣れた白のイーリスと赤いイーリスが停泊しているのが見えた。赤い方はアリッサ達が乗っていた艦艇だろう。

 オーディンの地に到着した際に、イーリスは衛星に行くと言っていたけれど、衛星とはここの事だったのだ。イーリスはこれまでの戦闘データや収集した情報を報告しに来ているらしい。


 衛星のCAIからシャルーアを降ろす様に指示され、格納庫内へ移動させてコクピットを出るとアルテミスも降りて来ていた。

 機体から離れると、赤と白の二機のシャルーアはハンガーに吊られて何処かへと運ばれて行く。


「アルテミス。シャルーアは何処に行くの」


「戦闘データのオーディンへの報告を終えると、オーディンに蓄積されたデータによる最新のカスタマイズが施されます」


「騎士仕様のシャルーアになるという事?」


「はい。プラクティス機ではなくなります。ですが、乗る機会はそれほどないと思います」


「ど、どうして?」


「騎士になられたら、その騎士に相応しい機体に乗る事になります。先ほどお伝えした色の事に深く関わってきますが……」


 アルテミスの説明では、彼女には二色の騎士を育てる権限が有るそうだ。

 他のCAAIは一色だけ。例えばアリッサのアポロディアスであれば赤の『深紅の騎士』という事になる。

 もちろん、パイロット自身の騎士としての能力の高さは変わらないけれど、CAAIそれぞれの持つ特色とパイロットの特性が機体の動きに現れるので、機体もそれに合わせてカスタマイズされるそうだ。

 アポロディアスであれば、苛烈な攻撃と剣タイプの近接武器での戦闘を得意としている。アリッサの特性そのものだ。

 黒騎士は漆黒の機体で、グーテンベルクというCAAIと共に、堅固な防衛と正確無比な攻撃、そしてやり型の近接武器での戦闘を得意としている。

 そして、アルテミスは高い演算能力で戦闘宙域全体を把握しつつ、状況に合わせた戦闘介入を得意としていて、いかなる状況であったとしても対応できるよう、騎士には攻守にわたり高い判断能力が要求されるそうだ。

 銀色より白色の方が更に高い能力を必要とされ、白は特別な色らしい。でも、その詳細については後日と言われてしまった。


「今から運ばれて来る機体が、リオン達が乗る騎士訓練用の機体です」


「そっか、訓練はシャルーアじゃないんだね」


「ええ、全く違う次元の機体での訓練になります」


 アルテミスと話をしていると、艦艇が何隻も着艦できる様な巨大な格納庫の奥から、クレーンの爪に吊られた機体が運ばれて来た。

 最初は遠近感がおかしくなったかと思ったけれど、目の錯覚ではなく、俺とアリッサの目の前にシャルーアの倍近くあるグレーの機体が現れた。

 全体の雰囲気自体はシャルーアと同じく古代の甲冑騎士の様な姿だけれど、あまり細かな造作は施されてなくて簡素な感じがする。

 でも、付いているブースターやスラスターのサイズや数も凄いし、各所の剛性は見るからに高そうだ。

 そして何よりも機体の持つ存在感に圧倒される。


「アルテミス。この大きさは……」


「ええ、ディバス卿のグングニールと同じサイズになります」


「もしかして、黒騎士が特別じゃなくて、騎士はこの大きさの機体に乗るという事なの」


「はい、その通りです」


「騎士の機体は巨大なGWなんだね」


「いいえ、GWではありません。オーディンの騎士の機体はGD。『ギャラクシードール』と呼ばれる機体になります」


「ギャラクシードール? そんな名称は初めて聞いたよ」


「ええ、オーディンでしか製造されていませんし、オーディンにより付けられた名称ですので」


「これが、オーディンの機体……ギャラクシードール……」


 ────


 破壊されたコロニーの内部に漆黒の機体が浮かんでいる。

 大きく破損したコロニーの内部に空気はなく、生きている人の姿は見当たらない。

 外郭がいかくには無数の穴が開いて破損しているものの、コロニーの筐体は分裂せずにその形を留めている。円柱の筐体は今も回転を続けており、グングニールの前を無人の街が通過して行った。


「グーテンベルク、この状況をどう思う」


「はい。破壊された建物やコロニー本体の粒子レーザー痕を見る限り、大型艦艇の艦砲射撃の痕の様に見えますが」


「だが、大型艦艇ではこの狭い場所には入って来られないな」


「はい。コロニーの筐体に空いている穴のサイズでは、小型艦艇しか内部には入って来られません」


「という事は、強力な粒子レーザー兵器を備えた艦艇ではない何かが、この宙域にいたドロシア軍の艦艇を全て撃沈し、コロニー内部に駐屯していた軍も消し去ったという事だな」


「はい。その様に推察されます」


「それが出来るのは、単機ではない複数のGDギャラクシードールクラスの機体……」


「ディバス様、どうされますか」


「うむ。オーディンに伝えたいが、パナフィックコロニー領域に加え、セントラルコロニー領域を探る方が先だな」


「懸念されていた事の調査を続けられるのですね」


「ああ、恐れていた事態なのかも知れない。情報収集を急ごう」


 黒騎士の漆黒の機体がコロニーに穿(うが)たれた穴を潜り抜け、ブーストの光を灯しながら黒いイーリスへと帰艦して行く。

 

「小僧……アルテミス……。今こそ、その力が必要とされる時かも知れぬ。頼んだぞ……」

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