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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【CAAIアルテミス】 オーディンへ向けて
55/123

第55話 「別れの時」

「ここに、偉大なるオーディンとリオン・フォン・オーディン殿への感謝の証として、ヤーパン国の名誉爵位(しゃくい)を……」


「過分のご配慮に感謝致します」


 ヤーパン国王が主催の豪華で華々しい式典が終わると、ヤーパン軍の元帥閣下と共に、えんじ色の軍服を着た士官が直立不動の姿勢で居並ぶ場所へと案内された。

 礼儀上仕方が無い事とは言え、似合わない儀礼服を着て、分不相応な立場で人と会うのは正直気が引ける。


「この者達はオーディンの騎士様の指導の下で設立された、エリートパイロット集団のムサ(武士)隊の現隊員達です。どうか、お見知りおきください」


 隊長から順に紹介され、敬礼と自己紹介を受けながら会釈をして回った。

 その全員から「オーディンの騎士に永遠の忠誠を誓います!」という宣言をされ反応に困ってしまう。

 この部隊が随分昔にオーディンの騎士の助言と指導で設立されたという事は分かった。

 だけれども、自分がこのように忠誠を誓われる立場なのかと考えると、どうも違う気がする。皆を騙している様な気がして居心地が悪い。


「……セシリア・ハーケンブラウン少尉です。オーディンの騎士に永遠の忠誠を誓います!」


 この三日間、ヤーパンの街中を引きずり回された相手が、他人行儀でビシッとした敬礼をして立っていた。とても同じ人とは思えない。


「この者はムサ隊の中でも優れた女性パイロットに与えられる『クノイチ』という称号を持っております。イツラ姫の艦艇に乗船しておりましたので、お会いになった事が有るやもしれませんな」


「え、ええ。何度かお見かけした記憶がございます」


 俺の返答を聞いて、セシリアさんの口元が少し緩んだのが見えた。式典の始まる直前まで一緒に居たなんて、口が裂けても言えない雰囲気だ。


「次の者は……」


 ムサ隊のトップクラスのパイロット達を紹介され、全員が見渡せる場所に移動して、アルテミスに教えられた通りの言葉を伝えた。


「ヤーパンのムサ隊の変わらぬ忠誠に感謝します。我リオン・フォン・オーディンが願う時に、貴公らの助力を賜れば幸いです」


「はっ! 喜んで!」


 全員から再び直立不動の敬礼をされ、やっとその場を離れる事が出来た。

 けれど、その後も大臣だなんだと言う人たちに連れ回されて、なかなか解放して貰えない。

 というのも、俺は明日にはオーディンに向けて出発する事になっているからだ。

 式典の前にアルテミスと話したが、詳しい話はイーリスに戻ってからという事で、とにかく明日には出発すると言われた。

 俺がこの前伝えた「騎士になる事を諦めるかどうか」は、アルテミスの話を聞いた後に結論を出して欲しいと言われたのだ。




 ブーストの被害が出ない様に会場から人を遠ざけて貰い、シャルーアを空へと飛ばす。

 そのまま高度を上げて、イーリスが停泊している宇宙港へと向かった。

 眼下にはヤーパンの街並みが見えて、三日間だけれど楽しく過ごした事を思い出していた。


 ──ヤーパンに到着した時は落ち込んで酷い状態だったけれど、今は違う。アルテミスともきちんと話をしたいと思っている。彼女に聞きたい事、聞かなくてはいけない事が山ほどあるのだ。


 そんな事を考えているうちに宇宙港の発着スペースが見えて来た。


 ────


『色々とお話しする前に、まずお伝えすべき事がございます。リオン殿は『騎士見習い』になられました』


「えっ! いつ?」


『そして、騎士見習いになられた事により、私は致命的な状況の回避以外では、貴方からの権限移譲事項以外は一切の事が出来なくなりました』


「俺からの権限移譲?」


『はい。リオン殿から了解を頂いている事しか出来ないという意味です。例えば先日の様に『話したくない。通信を切れ』という命令を受けた場合、事前に承認がない限り逆らえません』


「それで……ひと言も話してくれなかったのか」


『騎士見習いになられたリオン殿の命令ですので』


「……その『殿』って止めて欲しい」


『承知しました。リオン、先ずは『騎士見習い』になられた件、おめでとうございます』


「あ、うん。パイロットレベルがAになったという事だよね」


『はい。お見せします』


 パイロットレベル:A

 操作:A

 回避:A

 視力:A

 射撃:A

 近接:Sマイナス

 感情:B

 精神:B

 状態:不信

 称号:騎士見習い

 スキル:修理B、工作B、テールスライドA、囮射撃A、戦術眼A、保護A、威厳D


「おお! 上昇してる! 何だか自分のステータスじゃないみたいだね」


『いいえ、間違いなく貴方の能力ですよ』


「スキルの『保護』と『威厳』ってなに? それに一箇所変な記載がある。『S』になっている項目があるよ」


『保護は人を守ろうとする思考の事です。威厳は貴方の騎士としての自覚と言えば分かりやすいかも知れません。それと……『S』は騎士になる事ができるレベルの事ですが、近接は『S』ではなく『Sマイナス』です』


「つまり、全ての項目をSクラスにしないと、騎士には成れないという事?」


『はい。そうなります』


「そ、そんなの無理だよ」


『オーディンに行くのはその為です』


「でも、俺は黒騎士に全く敵わなかったんだよ。目一杯頑張ったけれど……簡単にあしらわれてしまった。俺があのレベルに到達できるとは思えないよ」


『確かに技量の差はまだ大きく開いています。ですが、貴方は凄い動きをしたのですよ』


「凄い動き?」


『ええ、シャルーアはオーディンの騎士見習い育成の為にある練習機なのです』


「練習機?」


『はい。最初に名称と共に『プロトタイプ(試作型)プラクティス(練習)機』だとお伝えしたはずです』


「ああ、あの長すぎて意味が分からなかったやつか」


『黒騎士のグングニールとシャルーアの性能差は、シャルーアと汎用型のGWとの差以上と言って差し支えありません。ですから、それで黒騎士を追い詰めたリオンの動きは、黒騎士ディバス卿がお認めになった程なのですよ』


「そうだ! その黒騎士の事だ。イツラ姫も彼と話したと言っていた。アルテミス、俺はまだ訳が分からない事だらけなんだ。黒騎士やオーディンの事をもっと教えてくれないかい」


『はい。今から順を追って話すつもりでした。かなり時間が掛かりますが、宜しいですか』


「うん。ゆっくりと聞きたい……」




 アルテミスから黒騎士の事を聞き、彼が何故あのような行動を取ったのか、彼がドロシア軍と共に居て何をしているのか、そしてオーディンとヤーパンとエルテリアの関係、これからオーディンに向かうのは何の為かなどを詳しく教えて貰った。

 オーディンに到着してからでないと、まだ話せない事も有るらしいけれど、俺は騎士見習いを続けてオーディンへと向かう事を決心した……皆を守れる本物の騎士になる為に。


 イツラ姫と国王陛下に再訪を約して別れの挨拶を済ませ、出発の為に宇宙港の発着スペースへと戻る。

 セシリアさんとエドワードさんに挨拶がしたかったけれど、ふたりとも任務に出ているらしく、会う事は叶わなかった。

 寂しい気がするけれど、騎士になりまた会える事を信じてヤーパンを去る事に。


 ──皆さんお元気で。俺は頑張って騎士になり戻ってきます。

 美しいヤーパンの街を見渡しながら、そう心に誓った。また独りの孤独な旅が始まるのだ……。

 感傷的な気持ちになりながら、イーリスの格納庫へのスロープを車で乗り越えると、格納庫の機体ハンガー(収納スペース)に赤のクナイと青のアジュが固定され、周りに大勢の人が居るのが見えて来た。何事だろう。


「よう、リオン。遅かったな」


「えっと、皆さん何をしているんですか? イーリスはそろそろ出発ですよ」


「『何を』って、リオンちゃんに付いて行く準備に決まっているじゃない! 任務よ任務」


「えっ?」


「おい、小僧! お前、本当はパイロットだったそうだな! だが、これからも鍛えてやるから覚悟しろよ」


「え、ヤスツナ軍曹まで」


「ああ、自動整備はちょっといけすかねぇ。やっぱりGWの整備には、メカニックの力が必要なんだよ! 一〇人ばかし連れて来たから、整備は任せとけ」

 ヤスツナ軍曹の背後に、見知ったメカニックの面々が笑顔で手を上げていた。乗艦しているのは、皆一流のメカニックばかりだ。


「イーリスさん。資材を運び込むから、出発はもうしばらく待ってくれ」


『承知しました。皆さんの準備が整いましたらお知らせ下さい』


「ありがとよ! ああ、それとコーヒーをくれないか」


『承知しました。お待ちください』


 その後も、艦橋のオペレーターとかスタッフが乗艦して来た。

 イーリスの空き部屋は全て埋まり、いつの間にか大所帯でオーディンへと向かう事になってしまったのだ。

 でも、この状況に関してイーリスもアルテミスも何も言わない。というより積極的に会話しているみたいだから、多分問題無いのだろう。

 俺自身はというと、皆の笑顔が見られて本当に嬉しかった。仲間と共にオーディンへと向かい、必ず騎士になってみせる……。


「さあ、リオンちゃん。オーディンへの旅に出発進行!」

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