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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【CAAIアルテミス】 ヤーパンへの道
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第41話 「敵と人」

 セシリアさんと共に損傷した艦での救助活動を始めようとした時だった。

 アルテミスが通信を遮り話し掛けて来たのだ。


「アルテミス。どうしたの」


『恒星方向へと向かっている重巡洋艦の事です』


「うん」


『繰り返し救難信号が発せられています。衝突で艦内は酷い状況になっていると思われますが、生存者が居ると言うことです』


「……」


 ──あの重巡洋艦は敵だ。これまでの戦いでもヤーパンやエルテリアの人が大勢戦死した。この衝突でも沢山の乗員の命が奪われたはずだ。でも、恒星に向かっている重巡洋艦の艦内には、怪我人や救助を待っている人が居る。俺はどうすれば良い……どうするべきだ。


『リオン。救うのであれば時間が有りません。恒星との距離が限界点に達します』


「……分かった。行こう」


『了解です。至急イーリスへと帰艦して下さい』


「分かった。通信を戻して」


『はい』


「セシリアさん。自分は救難信号を出している重巡洋艦の救助に向かいます」


『分かったわ。こちらは任せて頂戴。気を付けてね』


「はい。セシリアさんも」



 

 着艦と同時にイーリスが回頭して、重巡洋艦の航跡を追い始めた。

 恒星に向けてフル加速するイーリス。モニターでは恒星が真正面に見えて、強度のフィルターを掛けても眩しい。

 段々と近づいて来る重巡洋艦は、衝突の勢いで回転しながら宙域を恒星方向へと突き進んでいた。艦体制御のスラスターすら焚けない状態の様だ。しかも、かなりの速度で恒星へと向かっている。間に合うだろうか。

 直近まで追い付くと、イーリスがスラスターを焚いて艦艇との相対速度を合わせた。


『リオン。このままでは救助が出来ません。シャルーアを出して、艦の回転を止めます』


「了解。時間は」


『長時間はイーリスもシャルーアも危険です』


 シャルーアを艦外へと出し、回転を続ける重巡洋艦に合わせて周囲を回る。

 速度が揃った所で取り付き、回転を止める方向へと最大ブーストをかけた。

 ──この巨大な艦艇の回転を、シャルーアのブーストで止めるなど本当に出来るのか……。


 艦体に押し付けられるような状態で回転とは逆方向にブースターを焚き続けているシャルーア。恒星に照らされて、また陰になってという状態が続く。艦と共にぐるぐると回っているのだ。これで本当に回転が止まるのだろうか。

 フルブーストを続けるシャルーアのブースターの燃料は、既に半分以下に減っていた。


「アルテミス。燃料が……」


『ええ。でも、確実に回転スピードは落ちています。大丈夫です』


「了解」


 そのままフルブーストを続けるうちに、照らされる時間と影になる時間が徐々に長くなって来た。アルテミスの言った通り、艦の回転スピードが落ちているのだ。


 そして、シャルーアのブースター燃料が残り僅かになった時、重巡洋艦の回転が遂に止まった。


「聞こえるか! 艦の影側に艦艇を寄せるから、脱出してくる場所を教えてくれ!」


 オープン回線で呼び掛けるが、通信機器が破損しているのか、艦内からは通信による返事はない。

 それでもイーリスを重巡洋艦の影側に移動させ反応を待った。

 何か反応がないかモニターを見渡すが、何も変化が無いまま時間だけが過ぎて行く。

 艦の回転は止めたが、恒星に突き進むスピードはそのままだ。あとどれくらいの時間が残されているのだろうか……。


「アルテミス。もしかして、もう誰も……」


 そう呟いた時だった、重巡洋艦の格納庫辺りの隔壁が爆発で吹き飛び、中から黒いGWが飛び出して来たのだ。

 思わず身構えるが、GWはアームを開いた状態で敵対しない事を示している。

 シャルーアを寄せて機体に触れると通信が飛び込んで来た。


『ありがとう。艦艇の隔壁が何処も開かない状態だ。隔壁を破壊出来る場所に生存者を集めて、脱出用のランチに乗船させているところだ』


『リオン。十五分が限界です』


「了解。時間は十五分が限界です」


『承知した。戻って皆に伝える』


 黒いGWが吹き飛ばされた隔壁の隙間から艦内へと戻って行く。

 待っていると、更に二箇所の隔壁が吹き飛び脱出用ランチが数隻漂い出て来た。

 直ぐにイーリスの物資搬入用のゲートを開き、格納庫へと避難させる。

 再び艦外に出て待っていると、一隻のランチと共に黒いGWが戻って来た。


「あとどの位の人が残っていますか」


『これで最後だ』


「えっ? これだけですか」


『ああ、衝突で多くの者が死んでしまった。酷い怪我を負ってはいるが、運が良かった者だけが生き残った感じだ』


「そうですか……」


『でも、皆死を覚悟していたよ。操舵が出来なくなってから、小惑星に衝突するか恒星の熱で燃え尽きると思っていたから。まさか救助して貰えるとは思っていなかった……感謝する』


 結局、避難して来たのは脱出ランチ五隻で四〇名。GWは三機だった。

 直ぐにランチとGWを格納庫に固定し、イーリスがフルブーストで宙域を離脱する。

 モニターの中で、恒星を背に徐々に小さくなっていく重巡洋艦の影から爆発光が見えた。衝突で破損した箇所が、照り付ける恒星の熱で内部爆発を起こしたのだろう。本当にギリギリのタイミングだった。


 そのままヤーパン艦隊を目指して航行していると、重巡洋艦との衝突でメインブースターを破壊された艦艇が恒星方向に漂っていた。この艦もメインブースター付近が恒星の熱で爆発した痕跡が残っている。

 セシリアさん達の事を思い出し心配になったけれど、ヤーパン艦隊は救助を済ませ、安全な宙域へと移動を始めているはずだ。

 ただ、これまで艦隊に多くの被害をもたらした重巡洋艦の乗員を救った事に対して、どの様な反応が待って居るのかが不安だった……。

 

 ──── 


「ドロシア共和コロニー軍所属、グリーンコフ中尉です。今回の人道的配慮に感謝致します」


 エドワードさんに敬礼をしている男の軍服は血で汚れ、頭に包帯を巻き骨折した腕を吊っている。

 重巡洋艦から救助されたドロシア軍の人達は、エルテリアの艦艇に収容されて怪我の手当てを受けていた。

 会話が出来る怪我人の中で、彼が最も階級が高いという事で、救助したドロシア軍人の窓口になっているのだ。


「あなた方の処遇は未だ決まっておりませんが、先ずは怪我を治される事を優先して下さい。さほど快適ではないかと思いますが、なるべく不自由のない様に配慮しますので」


「ご配慮に感謝致します」


 エドワードさんが言った通り、ドロシア軍の人達の処遇をどうするのかは決まっていない。

 俺が心配したような事態にはならなかったけれど、やはり感情的にヤーパンの船に乗せる訳にはいかないという事で、ひとまずエルテリア艦に乗せる事になったのだ。

 攻撃され被害も受けたのだが、ヤーパンもエルテリアもドロシアとは国として交戦状態であるわけではない。

 そうなると、捕虜ではなく軍に被害を与えた犯罪人になるそうだけれど、取り敢えずは救助された怪我人として扱い、その後の処遇をどうするのかを決めている最中なのだ。

 ヤーパン軍に被害を与えた犯罪人として牢に入れ、国に連れ帰り裁判を受けさせるのか、それとも何処かで下船させるのか。下船させるにしてもセントラルコロニー連合の勢力圏だと捕虜となるので、それが正しい行為なのかなど話し合いが行われているのだった。


「それでは俺は先に行きますね」


「ああ、艦隊の補給をどうするのかの話し合いだったな」


「はい。このまま無補給でヤーパンを目指すのか、何処かで補給を行うのかですね」


「わかった、俺も直ぐに行く」


 エルテリア艦の格納庫に戻り、シャルーアをイツラ姫の乗艦リュウグウに向けて発進させた。

 危険な恒星宙域は抜けたが、小惑星帯を抜ける為に使用した燃料や、衝突で失った艦の乗員が他の艦に移った事で、物資不足が懸念されているのだ。

 このままヤーパンに向けて直線的に定速航行が出来るのであれば問題ないが、そうでなければ厳しい状況に陥るらしい。


「アルテミス。補給については何か考えがあるの?」


『はい。この先の宙域には、恒星の光を利用した古い農業用コロニーが散在しています。殆どがセントラルコロニー群のものですが、その中で軍艦であっても中立的な立場で受け入れてくれるコロニーを目指します』



読んで頂きありがとうございます!



『アルテミスの祈り』小話


 話に出て来る宇宙船ですが、凡その速度は高速移動で『時速三〇万キロメートル』くらいが適当かと思っています。

 太陽から土星までの距離が凡そ一四億キロメートル(公転の位置で変化)らしいので、この速度だと約七ヶ月の距離になります。

 物語の中では、恒星の周囲にあるコロニー間の移動が半年とか三ケ月とかですので、このくらいが妥当かと……。

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