第29話 「リオンの名乗り」
緊張しながらHUD画面を凝視する。認識コードで敵か味方か判別出来るからだ。
そして、ピックアップされた機体と艦艇が、次々とグリーンの丸に囲まれ始めた。
認識コードがヤーパンのコードを示している。味方だ!
二方面から敵に挟まれる状況に陥った敵重巡洋艦が急速に後退し始める。
敵のGW部隊も後方から現れた部隊に対応すべく陣形を崩し、二方面への防衛戦を強いられる形になった。
『リオン、チャンスです。一気に攻勢を掛けましょう』
「了解」
フットペダルを軽く踏み込みながら、シャルーアをヤーパン軍の部隊から離れた宙域に移動させる。独立した動きで敵部隊を側面から攻撃する為だ。
移動した宙域に留まり、戦局を見極め介入のタイミングを計る。
二部隊による挟撃戦が始まる中、モニターの三時方向に、赤と深紅のカラーリングの機体が入って来た。
ヤーパン軍の通常機とはカラーリングが違うが、どうやらヤーパンの部隊の中から一機だけシャルーアに付いて来た様だ。
挨拶だろうか、こちらに向けてアームを軽く上げ合図をすると、シャルーアに並び宙域に待機し始めた。
すると、今度は逆の九時方向からHUDでグリーンの丸に囲まれた機体が三機現れる。
そのうちの二機は深緑と白を基調にしたカラーリングだが、一機はブルーメタリックでカラーリングされた機体だった。三機ともヤーパン軍の機体とは雰囲気が違う。装甲が厚めで角張った感じだ。
赤い機体もだが、このブルーメタリックの機体も他のGWに比べて、性能が一段高い感じがする。隊長機か何かだろうか。
『リオン。これはエルテリアコロニー軍の機体ですね。敵の情報を共有します』
アルテミスが情報を送信すると、二機の深緑の機体が直ぐに味方の方へと移動して行った。敵艦やGWの情報を味方に伝える為だろう。
ブルーメタリックの機体もアームを上げ、こちらに合図を送りシャルーアに並んで待機し始めた。
二機ともシャルーアと共に局面に介入するタイミングを待っている様子だ。
『リオン。エルテリア軍も交戦状態に入りました。こちらも一〇秒後に介入します』
「了解」
伝わらないかも知れないけれど、アームを頭上に掲げ、ブーストの五秒前にマニピュレーターの指を広げ両サイドの機体に合図を送る。模擬戦闘の集団戦で使っていた合図だ。
『リオン、GOです!』
アルテミスの合図と共に、フットペダルを最大まで踏み込む。
加速のGでコクピットシートに強く押さえつけられながら、敵部隊の側面に向けてシャルーアを一気に移動させた。
待機していた二機も追随して来ている。合図がちゃんと伝わっていた様だ。
エルテリア軍と対峙している敵の部隊を側面から急襲し、次々と火球に変える。
深入りをせずに急回頭し、今度は逆側のヤーパン軍と対峙している敵部隊の側面へと機体を踊り込ませた。
シャルーアに追随して来た赤とブルーメタリックの機体も素早く敵部隊の側面に取り付き、反撃を加えようとする敵機を火球に変える。二機とも良い動きだ。
三機による素早いヒットアンドアウェイの攻撃方法で、敵部隊の側面を幾度も突き、徐々に敵の防衛体制を崩して行った。
ヤーパン・エルテリア両軍による二方向からの攻撃に加え、側面からの攻撃の効果が出たのか、敵部隊の陣形に綻びが生じ遂に崩れ始めた。
その隙に乗じてエルテリア軍の艦艇が押し出し、ドロシア軍の重巡洋艦との激しい艦砲射撃戦が始まった。高出力の粒子レーザー砲と無数のミサイルが飛び交っている。
お互いに粒子レーザーを乱反射して無効化するチャフの様な物を宙域に展開し、高出力の粒子レーザーの直撃を避けてはいるが、時々重巡洋艦に着弾の火球が上がっていた。
ドロシア軍のGW部隊の防衛隊列が徐々に崩れ始め、ヤーパンとエルテリアのGW部隊が更に圧し込み始める。
撃ち減らされたGW隊では重巡洋艦を守り切れないと判断したのか、敵重巡洋艦が高速で後退し始めた。敵GW部隊も共に後退して行く。
撤退をし始めたドロシア軍に対し、ヤーパンとエルテリアの部隊は挟撃をしつつも深追はしない。最終的には宙域に留まったまま、敵が後退して行くのを見送っていた。目的は敵の撃退であり、ヤーパンの艦艇を守る事なのだ。
「アルテミス。これで敵の特殊部隊の目的は排除出来たのかな」
『分かりません。敵の強力なステルス型重巡洋艦は健在ですし、再び仕掛けて来る可能性もあります』
『……失礼』
アルテミスと話をしていると、急にオープン通信が入って来た。
『私はエルテリアコロニー軍所属、エドワード・ヒューイ准尉。貴公の助力に感謝する』
ブルーメタリックの機体がシャルーア正面に移動して、お辞儀の様な格好をしている。
『リオン。機体からエルテリア政府の認識コードが発信され、政府紋章も提示されています』
直ぐに赤い機体も横に並び、同じような格好をして通信を始めた。
『わたくしはヤーパン軍所属、セシリア・ハーゲンブラウン少尉。貴公の助力を感謝すると共に、今後の協力を賜りたく、我がヤーパン艦艇への同行を願う』
赤い機体からは女性の声で通信が入って来た。こちらも政府認証コードと政府紋章を提示しているそうだ。
『リオン。この名乗りに正式に返信しなければ、礼を失する事になります。覚悟は良いですか』
「覚悟って、それはどういう事」
『この名乗りと共に、貴方の名がこの世界に知られる事になります』
「名乗りがそんなに凄い事なの」
『はい。この名乗りは、貴方が思っている以上に重要な意味を持つ事になります』
「何だか良く分からないけれど、しないと失礼なんでしょう?」
『はい。信義に反します』
「だったら、アルテミスに任せるよ」
『はい。リオン……私と共に歩みましょう』
「う、うん……」
何だか良く分からないけれど、挨拶をして来た機体に返事をしないといけない様だ。
──アルテミスは何だか凄い事の様に言っているけれど、ここは模擬戦闘も関係ないし、もう名前を隠す必要もないと思うけれど。
『当機はオーディン所属……』
アルテミスの竪琴の様な美しい声が聞こえている。いつもより更に凛とした感じの話し方だ。もしかしてCAIでも緊張の様な物が有るのだろうか。
『騎士見習いリオン・フォン・オーディン。認証コードとオーディンの紋章を提示します』
アルテミスが変な名前を言った気がする。
──騎士見習い? フォンとかオーディンとか何の事だ。
『おおっ。この美しい機体はやはりそうでしたか。オーディンに忠誠を! 我エドワード・ヒューイはオーディンの騎士に永遠の忠誠を誓います!』
『オーディンに忠誠を! 我セシリア・ハーゲンブラウンは、オーディンの騎士様に永遠の忠誠を誓います!』
──何事だ? 二機とも返信と同時に更に頭を垂れる様な動作をして、パイロットが忠誠を誓うとか何とか言っているし。オーディンっていったい何だ。それに騎士って……。
『エドワード・ヒューイとセシリア・ハーゲンブラウンの忠誠に感謝します。リオン・フォン・オーディンが願う時に、貴公らの助力を賜れば幸いです』
『はっ、命に代えて』
『はっ、命に代えましても。オーディンの騎士見習いリオン・フォン・オーディン様。ヤーパンの艦艇にお迎え致したく存じます。何卒』
『はい。一旦自艦に戻り、貴艦艇が停泊中の宙域に参ります』
『皆とお待ちしております』
アルテミスの返信を聞いて、二機はそれぞれ自軍の方へと戻って行った。
「アルテミス。イーリスⅡでヤーパンの艦艇に行くの?」
『いいえ。イーリスまで戻ります』
シャルーアがアルテミスの操縦でイーリスⅡの待つ宙域へと移動し始めた。
「アウグドは?」
『ヤーパンコロニー群の依頼を受けると、戻る事は出来なくなります』
「アウグドを離れるということ?」
『はい。そうなると思います』
「そっかぁ。そう言えばさぁ、さっきの騎士見習いとか変な名前は何だったの」
『はい。先ほどの戦闘で権限未達事項の多くが開放されましたので、リオンに沢山の事を伝えなければなりません』
「えっ! もしかして、パイロットレベルが上がったの」
『ええ。パイロットステータスを表示します』
パイロットレベル:B
操作:A
回避:B
視力:B
射撃:B
近接:B
感情:B
精神:B
状態:期待
称号:ベテランパイロット
スキル:B、工作B、テールスライドA、囮射撃A、戦術眼A
「おおっ、Bに上がってる。それにスキルも伸びてる」
『リオン。先ほどの戦闘は素晴らしかったですよ。頼もしい連携が取れていました』
「アルテミスに褒められた」
『はい。まだまだですが、騎士見習いとしてのレベルに着実に近づいていますよ』
「そうだ、その『騎士見習い』ってなに?」
『はい。今から説明します……』
いつも読んで頂きありがとうございます。
今話で【旅の始まり】の章が終わり、次話より【CAAIアルテミス】の章が始まります。
引き続き楽しんで頂けますと幸いです。
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磨糠 羽丹王