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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【旅の始まり】 修練の始まり
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第26話 「迎撃」

 敵からのミサイル攻撃を知らせるイーリスⅡCAIの通信と同時に、アルテミスから出撃の声が掛かる。

 フットペダルを強く踏み込み、フルブーストの状態でディーグルを船外へと弾き出した。

 砂漠と赤茶けた岩山の景色の中、HUDに三機の機体が小さくピックアップされ、イーリスⅡに迫るミサイルの軌跡が赤色で示されている。

 赤く囲まれたミサイルの数は一二発。

 迎撃されない様に不規則な軌道を描きながら、イーリスⅡへと迫っている。


「アルテミス! ミサイルの迎撃は必要?」


『岩山の陰になる九時方向の三発を迎撃して下さい。他はイーリスで対応可能です』


 アルテミスの指示に即座に反応し、胸部機銃で九時方向から迫るミサイルを迎撃する。

 『銃器使用有り』の模擬戦闘で幾度も経験したミサイルの迎撃だ。実戦といえども落ち着いて対応できる。

 三発のミサイルが跡形も無く消え去り、残りのミサイルをイーリスⅡの機銃が全て迎撃した。


『リオン。このまま敵機の迎撃を』


「了解」


 ディーグルはここ数日で軍用装備に切替えてある。

 レーザー粒子兵器は、大気中では威力の減衰が激しいので、装備は基本的に実弾型の銃器だ。

 右のアームにはバズーカ砲タイプの銃器が、左のアームには盾が握られ、ショルダー部に回転式の大型速射機銃が取り付けられている。

 各部の装甲も実戦用に取り付けられ、ディーグルはガンメタリックの重厚な機体になっていた。さながら、輝く鎧を纏った重騎士といった感じだ。


 HUDにピックアップされた敵の機体は、ホバリングではなく無限軌道型の高速クローラーで移動している。

 ホバリングやブースターに比べれば、移動時に舞い上がる砂煙がかなり少ない。

 機動力はホバリングの方が勝るけれど、細かい移動や攻撃精度は高速クローラーに分がある。

 しかもこの手の機体は単純な戦車の様に見えるが、状況に応じて機体上部が可変できるタイプが多い。

 模擬戦闘でも幾度か対戦した事がある型だが、実はホバリングの機能をも備えている機体が多く、動きが多彩で手を焼いた記憶がある。

 対峙している機体は軍の特殊部隊が使用している機体。その能力はかなり高いはずだ。

 しかも三対一の状況の中で、イーリスⅡには取り付かせずに、こちらが優位に立てる状況に持ち込まなければならない。

 頭の中に模擬戦闘で経験した戦い方が駆け巡り、最も効果的と思える攻め方を導き出した。勝負だ。


「イーリス! 五秒後に敵前面に弾幕展開。チャフと煙幕弾も混ぜて」


『了解……ミサイル発射。一〇秒後に着弾。チャフによるピックアップ妨害時間は五秒と推測されます』


 考えた作戦の遂行には五秒姿を消せれば十分だ。後はディーグルの姿が隠れる直前まで、相手にこちらの位置を認識させればいい。


「アルテミス。七秒後にデコイと追尾型ミサイルを三機に向けて発射。軌道は任せる」


『了解』


 イーリスⅡから発射されたチャフと煙幕弾が着弾する直前にフットペダルを強めに踏み込み、前方へとブーストをかける。


『アルテミス。デコイ及び追尾ミサイル発射カウントダウン開始……三……二……発射』


 発射直後にイーリスの放ったミサイルが着弾し、チャフと煙幕がディーグルと追尾型ミサイルの動きを隠す。予定通りだ。

 着弾と同時にフットペダルを最大に踏み込みながら、足を前後に組み替える。

 チャフと煙幕による遮蔽効果が展開されている間に、ディーグルを敵の想像もつかない位置へと移動させなければならないのだ。

 進行方向を急激に変えるフル出力のターンを行い、体が軋む様なGを受けながらディーグルを九時方向の岩山の裏へと滑り込ませた。

 模擬戦闘の訓練前であれば到底耐える事など出来かった激しいGを、全身の力でねじ伏せる。

 飛びこんだ岩山の陰をフルブーストで敵の背後を目指して突き進んだ。


 敵機はチャフの影響が消えた時、煙幕でディーグルが視認できない状態。

 相手のHUDには、追尾型ミサイルの軌道と、煙幕の先にデコイがピックアップされ、それをディーグルとして誤認したまま突き進んでくるはずだ。

 こちらの一連の動きに釣られていれば、先ずは追尾型ミサイルの迎撃に注意を払い、その後ディーグルを三機で囲む様に展開する。

 相手がデコイに気が付くまでの間が、最大のチャンスになるのだ。


 フルブーストによる高速移動の状態で岩山の裏を回り込み、相手の背後を狙いフットペダルを踏みこんだまま再び足を前後に組み替える。

 壁にぶつかる様な急激な方向転換で強烈なGに襲われ、息が出来なくなるほど体全体が座席に押し付けられる。

 ──ここを耐え抜けば……行けー!


 スピードを保ったまま機体がテールスライドし、岩山ギリギリの位置をホバリングで突き抜けて行く。

 ──こちらの動きに釣られていれば、相手の背後に出られるはずだ。もし釣られていなければ……その時はその時だ! やれる!


 岩山の背後からフル加速の状態でディーグルを弾き出した。視界が一気に開ける。

 ──敵の位置は……ディーグルに斜め後ろの位置を取られた状態。完全に相手の背後を取った。作戦成功だ!


 照準が合うと同時にトリガーを引くと、瞬時にショルダー部の回転式大型速射機銃が火を噴き、曳光弾えいこうだんを含んだ無数の弾丸が、背後を晒している敵の機体へと吸い込まれて行く。

 直ぐに別の機体に照準を合わせ、即座にバズーカを三連射。

 弾丸の雨に貫かれた一番手前の機体が直ぐに動きを止め、二番目の機体も回頭する前にバズーカ砲の直撃を食らい沈黙。

 三機目が慌てて回頭し対応しようとするが、こちらへの反応が遅過ぎた。

 目前に迫る敵機にモーニングスター・メイスのスピードが乗った重い一撃を叩き込み、機体上部を吹き飛ばす。相対することなく敵機が全て沈黙した。


 模擬戦闘で培った戦術と動き。それを支える訓練の積み重ねを、実戦でしっかりと発揮できた気がする。

 狙った戦術がはまり、三機を瞬時に打ち倒す事が出来たのだ。


『リオン。抜群でした』


「ありがとう。飛び出した時に、相手がデコイに釣られていない場合の事を考えて冷や冷やしたよ」


『その場合は、どうするつもりでした』


「集団戦でやっていた様に、中央突破で何とかしようかと思っていたよ」


『強くなりましたね』


「そうかな。まだそんなに実感は無いよ」


『でも、慢心しない様に』


「はいはい。続けて他の艦艇の援護に向かう?」


『ええ、そうしましょう』


 イーリスⅡへの危険は去ったが、近くに駐機している他の艦艇はまだ危険な状態が続いているかも知れない。

 近隣に駐機している艦艇の位置情報を確認し、一番近い艦艇付近へと移動する。

 どこの経済コロニー群の艦艇かは分からないけれど、共に模擬戦闘を戦う仲間であり、ドロシア軍に襲われていると言う事は、味方と言っても差支えはない。

 敵と誤認されない様に注意しながら援護に入り、艦艇を防衛している機体と連携して敵機を次々と排除した。

 オープン回線で通信しながら、更に他の艦艇の援護に協力してくれる機体と共に、近接エリアで襲撃されている艦艇を援護して回った。


 近接エリアの襲撃者を排除し、次は更に離れたエリアへと向かおうとした時だった、目的の方向から見慣れた機体が他の機体と共に現れたのだ。


『おおっ、その機体はリオンか』


「エドワードさんですね! ご無事で何よりです」


『こっちは片付いた。そっちも排除済みか』


「はい。案外(もろ)かったですね」


『いや、脆すぎる。これは陽動だな』


「陽動?」


 そう答えた途端、遠くで艦艇が飛び立つ姿が確認出来た。排除した敵機が出てきた艦艇だ。


『目的は別にあるな。上がるか……』


 通信機からエドワードさんの呟きが聞こえて来た。


『リオン。エドワード氏の言う通りだと推測されます。対処しますので、至急イーリスⅡへ戻って下さい』


「分かった。エドワードさん、自分はこれで」


『ああ、また会おう』


 アルテミスの指示通り、全速で砂漠を突き進みイーリスⅡへと戻った。


『リオン。アウグドの宙域に上がります。ディーグルをハンガーに固定して、シャルーアに搭乗しておいて下さい』


「シャルーアに? 了解」


 格納庫にディーグルを乗り入れ、直ぐにハンガーに固定する。

 コクピットを飛び出すと、格納庫内の隠し扉が回転し、シャルーアの白亜の機体が姿を現した。

 即座にコクピットに乗り込み、シャルーアを起動させる。


『ディーグルより戦闘データ収集……完了。リオン、良い動きをしたみたいね』


「ああ、さっきもディーグルのアルテミスに褒めて貰ったよ」


『そうですか。慢心しない様に』


「……はいはい」

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