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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【旅の始まり】 修練の始まり
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第25話 「特殊部隊の動向」

「お子ちゃまが、のぼせてんじゃないわよ!」


 静かなレストランに平手打ちの音が響き渡る。

 強かに頬を打たれた俺の前から、テーブルの上に置いたコインを掴み取り、セシルさんが怒気を放ちながら去って行った。

 平手打ちの音とセシルさんの声に、他の客からの視線が一斉に集まる。

 姿が見えなくなってから、ウェイターを呼び飲み物を注文。

 平静を装いながら過ごしていると、店は元の落ち着きを取り戻していた。

 頬には叩かれた痛み、てのひらにはセシルさんの胸の感触が残っている……。


 データの入ったコインを渡されてから、ドロシア軍の襲撃の可能性がある三ヶ月目に入った。

 セシルさんに何とかコインを返そうと、最近は二日と開けずにこの店に食事に来ている。

 だが、セシルさんとは会えず、アルテミスから託された返答を渡せずにいたのだ。

 今日も食事を終え、相変わらず煌びやかな夜景を眺めていると、不意に人の気配を感じた。


「あら、僕ちゃん。お久し振り」


 振り向くと、同じテーブルの横並びの席にセシルさんが座っていた。

 今日も華やかな赤いドレスを身にまとい、赤髪から覗く緑色の瞳と、艶やかな赤い唇がとても綺麗だった。思わず見惚れてしまう。


「こんばんは」


「え、ええ」


「どうしたの。私の顔に何かついてる?」


「い、いえ。あ、そうだ!」


 用件を思い出し、慌てて返信が入ったコインを取り出そうとすると、セシルさんに腕を掴まれて制止された。


「……リオンちゃん、慌てないで。監視されているから、落ち着いて行動してね……」


 満面の笑顔で俺の手を握りセシルさんが囁く。

 突然監視されていると言われ緊張してしまう。


「え、あ、はい」


「……しばらく話をした後に、私がウィンクをしたらテーブルの上にコインを置いてね。そして、口説きながら私の胸を触って頂戴。遠慮なく周りから見える様にしっかりと触ってね」


「えっ」


「その後、頬をちょっと叩いてしまうけれど我慢してね」


「どういう……」


『リオン。指示に従って下さい。監視が事実であれば、余計な興味を引く事は危険です』


「りょ、了解」


 その後、何気ない話をしながらセシルさんの合図を待った。

 コインを置いた後に、口説く様な感じで胸を触れと言われたが、本当に良いのだろうか。

 それ以前に、女性を口説いた事など無いから、どうすれば良いのかいまいちピンと来ない。考えを巡らせてみたけれど、答えは見つからなかった。


 そんな俺の状況など関係なしに、しばらくするとセシルさんからウィンクをされた。合図だ。

 震える手でコインを取り出そうとすると、セシルさんに手を握られる。


「……リオンちゃん、しっかり。最後まで落ち着いて自信ありげに行動して……」


 緊張していたけれど、セシルさんの笑顔とささやきで落ち着きを取り戻した。

 自然な感じでコインを取り出し、そっとテーブルの上に置き、セシルさんに体を寄せる。


「セシルは俺にれてんだろ。今から付き合えよ」


 言った事も無い言葉を吐き、彼女の胸に手を伸ばした……。




 窓の外には鮮やかなサーチライトの光の柱が空へと伸びている。

 セシルさんにたれジンジンと熱い頬を時々撫でながら、ウェイターが運んで来たジンジャーエールに口を付け、しばらく時間を潰した。


 その日からは、アルテミスの指示で模擬戦闘へのエントリーは行わず、イーリスⅡの船内で待機する事になった。

 周りに停泊していた船の動向も様々だが、いずれにしても普段と違う動きをしているのは、恐らく情報を掴んでいる経済コロニー群の軍関係の船舶だと言われた。

 そして、ここ数日でアウグドに降り立った船が数隻あり、それがドロシア共和コロニー軍の特殊部隊ではないかとにらみ、動向を監視していたのだ。


「アルテミス。セシルさんは無事かなぁ」


『恐らく大丈夫でしょう。芯の強そうな方でしたし、万が一の時は関係している経済コロニーの軍が守ってくれるでしょうから』


「そっか。何だか危険が差し迫っている様な感じだったから、気になって」


『ええ。でも、危険を冒してでも、こちらからの返答を受け取らなければならない状況ですから』


「戦争の事?」


『はい。リオンにもいずれ話さなくてはなりませんが、エルテリアとヤーパンコロニー群にとって、オーディンの立ち位置はそれほど重要な事なのです』


「そうなんだ。オーディンの立ち位置が戦争に影響するんだね」


『はい。リオンの権限が更に開放されたら、詳しい話を伝える事になります』


 ──権限未達の事項がまだまだあるけれど、俺が目指している『オーディン』とは、いったいどんな力を持っている経済圏なのだろう。


「ねえ、アルテミス。新たに停泊した艦艇は、本当にドロシア共和コロニー軍の特殊部隊の艦艇なのかな」


『恐らく間違いありません。この周辺で戦闘に巻き込まれる事が予想されます』


「戦闘はこの周辺だけで起こるの」


『いいえ。恐らく富豪の家族の誘拐も狙うでしょうから、丘の上の住宅街でも起こる可能性があります』


「でも、アウグドで敵対行為をしたら、他の経済コロニー群が許さないと聞いたけれど、それはどうなの」


『何があっても証拠は残さないでしょう。むしろ他の経済コロニー群の仕業に見せかける工作を仕掛けて来るでしょうね……』


「戦争なんだね」


『ええ……』


『警告! 監視中の船舶周辺に複数のGDW系の機体確認。こちらにも向かって来ています』


 警告音と共にイーリスⅡのCAIの声が格納庫に響いた。

 監視していた船舶から、重力下運用のGDW系の機体が出てきた様だ。

 直ぐにディーグルに乗り込み機体を起動させる。いよいよだ。


『リオン。出撃はシビアなタイミングになります。先に手を出すと、私達がアウグドで敵対行為を行った事になります。まずは周囲に分かる様に警告を行い、その上で敵が攻撃を仕掛けて来た瞬間に反撃に出ます』


「了解。待機する」


『イーリス。オープン回線で警告を発して下さい』 


 周りに停泊している艦船にも分かる様に、近づいて来る機体へ向けて、イーリスのCAIがオープン回線で警告を発した。ほぼ同時に、周りの艦船からも警告が発せられている。


『……こちらはアウグド政府査察隊。貴艦及び貴艦の有する機体に重大な軍事規約違反が疑われる為、貴艦内の査察を行う。武装解除の上、当査察隊の受入れを要求する。査察拒否の場合、即刻攻撃対象と見做す』


 なかなか上手な嘘を付いて来る。情報を持っていない民間船であれば、慌てて従ってしまうかも知れない。


『アウグド政府を名乗る貴機体に、政府の認識コード及び政府紋章が確認できず。提示が無い限り、申し入れは拒否する』


 他の艦艇からも同様の返信が飛ぶ。

 つまりこの周辺に駐機しているのは、他の経済コロニーの軍部艦艇ばかりという事だ。

 このまま戦闘が始まった場合、敵味方がどうなるのか見当が付かないが、やるしかない。

 模擬戦闘で多くの修練を積んで来た。戦う準備は出来ているつもりだ。


『敵対行動確認。敵ミサイル接近。迎撃します』


『リオン、GOです!』

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