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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【旅の始まり】 修練の始まり
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第23話 「戦争の状況」

「僕ちゃん。模擬戦闘の興業では頑張っているみたいね」


「えっ……」


 セシルさんがいきなり模擬戦闘の話を持ち出し驚かされた。

 いくら裏稼業でこちらの事を多少知っている相手とは言え、用心した方が良いのかも知れない。


「何のことですか」


「ふふ。僕ちゃん、あの店に換金に来て模擬戦闘に関わって無いなんて事はないでしょう」


「え、ああ。そうですか……」


 完全に見透かされている感じだ。


「うふふ」


 セシルさんが顔を寄せ艶やかな表情で覗き込んで来た。動揺が隠し切れず、思わず赤面してしまう。


「あの後、突然現れた急成長のチームがいるわね。パイロットはリオンだったかしら」


「……」


「うふふ。最近は貴方に賭け続けて良い感じよ。時々ポカして負けるのはご愛敬ね」


「いえ、自分はメカニックなので」


「僕ちゃん嘘が下手ね。こんな高級店で食事しているメカニックなんて『Sハイエンドクラス』のトップメカニックくらいしかいないわよ」


「……」


「あら。別に僕ちゃんの正体を暴こうだとか思っていないから、そんなに警戒しなくても大丈夫よ」


「はあ……」


「そうだ、何か飲んでも良いかしら」


「え、ええ。どうぞ」


 セシルさんが綺麗な指を軽く上げると、ウェイターが洗練された所作で注文を取りに来た。 

 しばらくして運ばれて来たカクテルグラスには、ドレスと同じ様な赤く澄んだお酒が入っていて、セシルさんはひと口飲むと、また艶やかな眼差しを向けて来た。

 お酒が付いたのか、真っ赤なリュージュを塗った唇を、彼女の舌が小さく舐める。

 思わず凝視してしまい、大人の女性の色気に目が逸らせなくなってしまった。


「ただ、貴方が負ける時はミスに見せかけているけれど、何となく故意に負けている感じがするから、気になっているのよ」


 鋭い指摘だった。勝ち過ぎて上のランクに早く昇格してしまうと、十分な訓練が出来ないからだ。

 アルテミスが優秀過ぎて、俺の致命的なミスは防いでくれるから、基本的に今のクラスでは大破したりして負ける事はない。

 けれど、極力アルテミスの補助を排した自分の操縦で勝たなければ意味が無い。だから時々最小限の機体破損を受け入れてわざと負けている。セシルさんはその事を指摘しているのだ。


「そ、そんなことはありませんよ。自分の技術の無さです」


「あら。名前がリオンでディーグルのパイロットという事を認めたわね」


「あ……」


「うふふ。大丈夫よ。取って食べたりしないから……多分」


 この人は、いったいどんな人なのだろう。

 あの裏稼業のお店の只の従業員とは思えない。


「あ、あの、セシルさんって……むぐっ」


 唇に指先を優しく押し当てられて、それ以上話すのを制されてしまった。


「お互い秘密が多い方が楽しいでしょう。うふふ」


 セシルさんは、俺の唇に指先を押し当てたまま起ち上がった。


「じゃあね、僕ちゃん。またね」


 セシルさんは立ち上がると、艶やかに微笑み、そのまま立ち去ってしまった。

 店の外に出ていく彼女を、姿が見えなくなるまで目で追ってしまう。頭の中はセシルさんの赤色でいっぱいだ。


 ふとテーブルの上を見ると、どこかの経済コロニーの見慣れない硬貨が置いてあった。セシルさんの飲み物の代金だろうか。


『リオン。その硬貨を持ち帰って下さい。何かのメモリーの様です』


「えっ」


『リオン静かに。周りに悟られない様にポケットにしまって下さい』


 何の事だか分からなかったが、ぎこちなくならない様に手に取り、直ぐにポケットに収める。

 アルテミスはメモリーと言っていた。この硬貨に一体何が収められているのだろう。



 

『セントラルコロニー群との連合表明はウルテロンコロニー群とパナフィックコロニー群。ドロシア共和コロニー群への連合表明はロドリアンコロニー群にユーロンコロニー群』

『以下セントラルコロニー連合側はCUP、ドロシア共和コロニー連合はDREと表記』

『エルテリアコロニー群とヤーパンコロニー群は今戦争に関する連合の意思は未表明』

『オーディンの旗色は不明も、DREの作戦行動にオーディンのGWギャラクシー・ウォーカーらしき機体を確認。詳細不明』


 セシルさんが置いて行ったコインの中には、今起きているコロニー経済圏の戦争についての情報が詳細に記されているデータが入っていた。

 イーリスⅡに戻りアルテミスと共にデータの内容を確認すると、そこには戦争を仕掛けたDRE側の侵攻ルートや戦略分析、CUP側の防衛状況や連合戦略についての分析が為されていた。

 俺はこの世界の情勢についてなど全く知らなかったから、これまでセントラルコロニー群の軍事力や経済力が圧倒的だと思っていた。でも、現実は違っていた。

 豊かな資源惑星や衛星を経済圏に収めているコロニー群の方が、いつの頃からかセントラルコロニー群に勝るとも劣らない力を持つ様になっていたそうだ。

 特に距離的に最も遠いドロシア共和コロニー群は、中央集権を維持しようとするセントラルコロニー群に対し、経済力・軍事力を高め完全独立の地位を固めて来たらしい。

 これまでも度々衝突は起きていたそうだが、今回の様に大規模な衝突は初めてという事だった。

 

 未だどちらの経済群に付くのかを表明していないエルテリアコロニー群とヤーパンコロニー群は、やや辺境エリアに有る為に直接的な戦闘には巻き込まれていないが、それも時間の問題らしい。

 そして権限未達事項で詳しくは教えて貰えなかったけれど、オーディンの動きを探る為に、セシルさんを通じてどちらかのコロニー群が接触して来たのだと説明された。


「アルテミス。オーディンはDRE側なの」


『いいえ。オーディンは常に中立の立場を取ります』


「でも、オーディンの機体がDRE側にって」


『ええ、その事は貴方にも深く関わっている事だけれど、今はまだ詳細は話せません。ですが、オーディンはこの世界に対して常に中立の立場を取るという事を忘れないで下さい』


 自分の事に関わると聞いて、本当は詳細を知りたかったけれど、権限未達事項は絶対に教えて貰えないから仕方がない。


『リオン。もうひとつ気になる記述があります。DREの機密部隊が、このアウグドに差し向けられた可能性があると言う事です』


「えっ、この惑星に?」


『はい、十分にあり得ます。アウグドには各経済コロニー群の最新の技術が集まっていますし、巨大な企業体のトップの家族が戦争を避けるために避難していたり、この戦時下で各コロニー群の外交官による盛んな機密外交が行われていますから、そこを抑えに来る可能性は有ります』


「大軍で攻めて来るかも知れないということ」


『いいえ。大部隊の移動は他国に感知されますから、少数の精鋭部隊が投入されると思われます』


「直ぐに?」


『いえ。距離的に恐らく三ヶ月は余裕があると思われます』


「だったら、他の経済コロニーの軍に知らせる訳にはいかないの」


『アウグドにはどこの軍も偽装して駐留しているので難しいでしょう。ですがこの事を予測して応戦や撤退の準備は進めていると思われます』


 その後、俺はてっきりアウグドから立ち去るのかと思っていたら、このまま滞在して模擬戦闘への参加を続ける様に指示された。

 少しでも戦闘の技術を身に付け、パイロットとしてのレベルを上げる事が優先らしい。

 そして、セシルさんから再び接触が有った時に渡す様にと、こちらからの返答が入ったコインを持たされている。

 内容は『オーディンは中立を保つために、為すべきことを為す』という一文が入っているだけだそうだ。

 俺にはオーディンの全容や何故他のコロニー群から接触が有るのか分からないけれど、余計な事は考えずに、今は自分のパイロットレベルを上げる事だけに集中しようと思う。

 三日後には『ハイエンドクラス』の『銃器使用有り』の対戦が控えている。今度の相手は初めてだけれど、かなりレベルの高いパイロットだ。

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