表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【旅の始まり】 修練の始まり
21/123

第21話 「包囲戦の対処方法」

『敵対行動が予測される機体数五。ショルダー部機銃のロックを解除します』


「アルテミス。どう動くのが良いと思う?」


『等距離で包囲を狭めて来ていますので、このまま戦闘に持ち込まれた場合、非常に不利な状況が見込まれます』


「どの方向に行けば良い」


『周囲の地形から二時方向に抜けるのが良いかと思います』


 ディーグルの移動速度を徐々に上げながら、時計の時針で言うところの二時方向へと機首を向け相手の出方を伺う。

 様子を見ていると、一機が急加速して正面へと回り込み、他の四機が囲い込む位置へと広がって行く。

 ディーグルを囲い込もうとしているのは間違いない……一体何が目的だ。

 

 包囲を狭めつつ後方から迫る四機が攻撃可能距離に入ると同時に、正面に回り込んでいた機体が銃器を構えるのが目に入った。これで攻撃の意思がある事は間違いない。

 モニターに映る機体は、装甲部分が黒でそれ以外の箇所がオレンジ色で塗装されていた。

 頭にベールを被った様なデザインで、顔にあたる部分は凹凸の無い真っ黒な仮面を着けていて、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。

 ディーグルと同じくらいのサイズの二足歩行型のGDWだけれど、脚部の設地面に無限軌道型のクローラが付いているタイプだ。

 ホバリング機に比べると移動性能は劣るけれど、安定した高速走行ができる高性能の機体。こちらが軍用GWがベースの機体だとしても、囲まれて攻撃を仕掛けられると厄介な相手かも知れない。


『敵対行動確認。迎撃準備』


 アルテミスの声がするや否や、敵機の銃から弾が発射された。瞬時にHUD上に弾の予測射線が赤色で示される。

 訓練を思い出し、機体を射線から(かわ)す位置へとスライドさせる。

 フットペダルを強めに踏み込み、急角度で機体を回頭させ攻撃を躱すとともに、こちらの攻撃可能位置へと機体を滑り込ませた。

 躱された弾が地面へと着弾すると、何かが飛び散るのが見えた。通常の弾ではなく、何か特殊な弾丸なのかも知れない。


『弾種確認……脅威に非ず。リオン、弾丸を避けつつ相手の懐へと飛び込んで下さい』


「分かった」


 最初の言葉が不可解だったけれど、アルテミスに言われた通りに、不規則な動きを繰り返しつつ攻撃を躱し一気に迫る。

 相手はディーグルの素早い動きに翻弄されて、応戦の体勢が取れていない。


『リオン。敵機を制圧して下さい』


「制圧?」


『はい。転倒させて動きを封じて下さい』


 指示された通りに、更にフェイントを掛け、相手に攻撃の的を絞らせずに懐に飛び込む。

 ディーグルの動きに付いて来られない敵機の脚をすかさず払い、転倒した所を踏みつけ動きを止めた。

 その途端、肩の機銃を発射する音が聞こえ、敵機の黒い仮面のすぐ脇に着弾の砂煙が上がる。アルテミスが撃ったのだ。


『ひっ! どういう事だよ!』


 通信機から男の声が聞こえて来た。恐らく踏みつけている敵機のパイロットだと思う。


『敵対行動の理由を述べよ。返答なき場合、即刻排除する』


 アルテミスがいきなり機械的なトーンで話し始めた。高圧的で怖い。


『いや、敵対行動って……。訓練だろ?』


『意味不明。繰り返す。敵対行動の理由を述べよ』


『なんだ、どうした。喧嘩か?』


 囲いを狭めていた後続の四機が、異変を感じたのか銃器を下げて集まって来ていた。

 何だか会話が変だ。喧嘩? どういう事だ?


『リオン。別の機体が一機接近中』


 HUDに遠くから砂煙を上げ接近してくる機体がピックアップされ四角で囲まれている。


「ねえ、アルテミス。この人達って敵対しているのかなぁ」


『現在確認中です。但し撃って来た弾はペイント弾です。こちらを殺傷するような意思はないと思われます』


「ペイント弾?」


『はい。訓練用の模擬弾です』


 会話をしているうちに、別の機体が合流して来た。

 囲んでいる機体と変わらないGDWだけれど、装甲部が黒ではなくてグレー色で塗装されていて、どことなくディーグルに似ている。


『おーい。皆どうした。全然来ないから訓練にならないぞ』


『えっ、お前がその機体か? じゃあこの機体は誰だ』


 会話を聞いて、何となく状況が分かって来た。

 この連中は模擬弾を使った訓練で、俺は後から来た機体に間違えられていたらしい。

 機体形状は違うけれど、ディーグルと同じグレー色の機体だ。

 事情が分かり、制圧していた機体を起こすのを手伝う。


『済まない。俺らの勘違いだ。間違えて戦闘行為を仕掛けたのに、殺さずに許してくれて感謝する』


『集団戦の訓練で、敵機役で参加する者が予定より遅れてしまい、偶然通り掛かった貴方と間違えたと言うことです。本当に申し訳ない』


 話を聞いて見れば、ただの勘違い。アルテミスが敵機への本気の反撃をさせなかった理由が分かった。

 彼らは興行の集団戦に参加しているチームで、今日は新機体を敵役にして包囲戦の訓練を行う予定だったらしい。


『しかし、あんたの機体の動きは凄かったなぁ。なあ、良かったら訓練に参加してくれないか』


 何だか褒められている。自分の操縦だったから嬉しい。


『提案了承。模擬弾の銃器を貸して頂けるのでしたら参加します』


『おおっ、もちろんだ、宜しく頼む』


 思わぬ申し入れに対し、アルテミスが勝手に答えてしまった。


「アルテミス。参加するの?」


『はい。練習場のデコイとは違い、実機との対戦は貴重な訓練になります』


 なるほど。確かにそうかも知れない。

 アルテミスの提案通り、集団戦の訓練に参加させて貰おう。何だかワクワクしてきた。




 模擬弾の銃器を借りて、訓練の開始位置に移動した。

 集団戦の訓練だけれども、俺は一機のまま。アルテミスが強気に返答して、なんと六対一の対戦になってしまったのだ。

 しかも、かなり厳しい縛りをアルテミスに課されている。

 機体の上部に着弾しそうな模擬弾は全て左アーム部の盾で受け、それ以外は全て躱すこと。

 六機から同時に撃たれる事は無いだろうが、かなり厳しい条件だ。

 機体性能はディーグルの方がかなり上だけれど過信は禁物。これから高いカテゴリーで戦い抜くためには、更に高レベルの操縦が出来ないといけないから。

 そんな事を考えているうちに、HUDに敵機がピックアップされ始めた。


「アルテミス、敵との位置関係をモニター上部に表示して」


 俺の指示に合わせて、球形モニターの上部に、近隣の地形と敵機の位置がリアルタイムで表示される。


『リオン。どういう攻略が良いと思いますか』


「えっと……各個撃破が理想的だから、囲まれる前に近い機体に一気に距離を詰めて、順に……」


『敵は極力一対一の状況は避けて来るはずですから、リオンがその動きをした時点で、連動して囲いを狭めて来ると思われます』


「つまり、近くに居る機体は(おとり)で。そこに行こうとすると、相対速度を上手く調整されて、複数の機体を相手にする事になると……」


『ええ。当然ですが、敵は包囲しながら優位な位置を取ると予想されます』


「という事は、その裏をかいて……。ねえ、アルテミス。あの作業コロニーの戦いで、敵機が多いエリアに突っ込んで行ったのは、そう言う事なの?」


『ええ。密集地帯になればなる程、敵は相打ちを避ける為に攻撃を止めざるを得ない状況に陥り、隙が出来てしまいますから』


「俺に出来るかな……」


『その為の模擬弾の訓練ですよ』


 アルテミスの助言を受け、敵機の位置を確認しながら様々な動きが頭に浮かぶ。

 どこだ……どの位置に付けて、どの方向に敵を釣り込んで行くのが良い? 

 まず十時方向の一番近い機体に寄せる仮定すると、一時と二時方向にいる機体が迂回しながら背後を狙って来るはず……そうなると、それに対応する為に俺が回頭したところを、十二時方向から散開した三機が一気に距離を詰めてくるから……狙うならそこに進路を向け密集地帯を作らせる事かな。よし、それで試してみよう。


 作戦を決めるや否やフットペダルを踏み込み、ディーグルを一番近い機体へと急加速させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ