第18話 「夢の様な街」
その日から模擬戦闘が行われているスタジアムや、実弾飛び交う『銃器の使用有』の興行を行っているサテライト・カジノを巡るようになった。
サテライト・カジノとは、実弾で観客に被害が出ない様に、郊外の闘技場で行われる模擬戦をライブで放送しているカジノの事だ。
ライブ放送に加えて、無数の飛行型カメラが闘技場を飛び回っているので、観客は自分の好きな場所を見る事ができる。
近接武器を使う模擬戦闘も凄いけれど、銃器が使用される戦闘は更に凄かった。
パイロットを殺してはいけないから、威力はかなり絞られてはいるけれど、高精度の狙撃方法や相手を徐々に追い込み確実に仕留める射撃方法など、パイロットや機体毎に戦術が違うので本当に勉強になる。
逆に相手に的を絞らせない動きや、相手を釣り込み仕留める動き、躱す動作や防御のタイミングなど、これから身に付けないといけない動作が満載だ。
それに、高位の対戦になると見た事すらない武器が次々と現れる。模擬戦闘の興業には、何とも凄い世界が広がっていた。
ある日の対戦で観客が一番湧いたのは、迫撃砲の様に敵の上空にミサイルを撃ち込み、それが敵機の頭上で破裂し無数の爆弾に変化する兵器だった。
その様な武器は、良くある『クラスターボム』と言われる兵器らしいけれど、その対戦では無数の爆弾が破裂すると、キラキラとした破片の様な物が敵機を包み込み、次の瞬間何かがスパークして敵機が動かなくなってしまった。直後に敵機の至る所から煙が立ち上り模擬戦は終了。
この兵器の威力に何故そんなに観客が湧いたのかというと、GDWはもちろんのこと、作業用ロボットが実用化されてから、機体や電装部品のショート防止に関しては相当の研究がなされていて、外的な攻撃で機体内部がショートする事はあり得ない構造になっているはずなのだ。
それなのに、この爆弾は何かしらの技術を使い、機体内部にある各所の電装部品をことごとくショートさせてしまったのだ。
宇宙空間で役に立つのかは分からないけれど、未知の技術が披露され会場は騒然としていた。
ところが、数日後にこの機体の対戦があり、賭けが成立出来ないほどの差が出ていたけれど、アルテミスには敵機への逆張りを勧められた。
結果、正規の通貨カードになかなかの大金が入金されたのだ。
ディグアルテミス曰く「未知の技術など、そう簡単に開発されるものではなく、ちょっとした技術の応用は直ぐに対策される」という事だった。
その詳しい内容が知りたければ、イーリスⅡに戻ってからシャルアルテミスに聞くように言われた。
賭けで稼いだお金で簡単に身なりを整え、夜景が綺麗な高級レストランに食事をしに来た。
理由は分からないけれど、アルテミスから今後の為にそういう場所も経験して、マナーや雰囲気に慣れておいた方が良いと言われたからだ。
案内された席からは、何処までも広がる煌びやかな街の夜景を眺める事が出来た。
華やかにライトアップされる高級ホテルが建ち並ぶエリア。興行が行われているスタジアムから空に伸びるカラフルな光の柱。高台にある豪邸の窓には柔らかな明かりが灯っている。
頼んでいない飲み物を持って来たウェイターに「頼んでいない」と伝えると、微笑みながら「ウェルカムドリンクでございます」と言われ、意味が分からずに戸惑っていると、耳に付けている小さなイヤホンから『サービスです。受け取って下さい』というアルテミスの声が聞こえて来る。冷汗が止まらない。
その後、オーダーを取りに来たウェイターに、メニューの最初のページに載っていた『シェフお勧めのディナーコース』を頼んだ。
やっとひと安心もつかの間、運ばれてくる料理の食べ方が分からずに、アルテミスにマナー講習を受けながらの食事になってしまった。
高級で美味しい料理のはずだったけれど、緊張して全然味が分からなかった。初めての高級料理店での食事はこんな感じで終了した。
この街には本当に全ての娯楽が詰め込まれている気がする。
昼も夜もいつでも大勢の人で賑わい、お金さえあれば、贅沢な食事はもちろんの事、好きな事を好きなだけ出来てしまう夢の様な街だ。
行った事はないけれど、少し離れた街まで行けば、美しい海辺で様々なレジャーを楽しんだり、誰も居ない無人島のプライベートビーチでゆっくりと過ごしたり、大きな客船で大陸を観光して回るような事も出来るそうだ。
俺の生きて来た作業コロニーの生活からは、想像すら出来ない事ばかりだ。
この街で生活をする為の費用は正規の通貨カードを使い、減ってきたらアルテミスの助言を利用してカジノで時々稼ぐ。
これから先の模擬戦に必要な費用や、購入する事になるディーグル用のパーツや修理の金額は、例の別名義の通貨カードを使うよう指示されている。
不必要に疑われない為に、通貨カードの使い分けをしっかりと注意するようにと言われた。
そんな事を伝えて来る時のアルテミスは、何だかお母さんの様だ。
親方のおかみさんとは、俺が小さい時に死に別れたから、母親という存在がどういうものなのかよく分からないけれど、ドラマや映画を見る限りこんな感じなのだろう。
アルテミスに『煩いなぁ、もう』とか言ってみたい気はするけれど、怖いからやめておこう……。