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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【旅の始まり】 修練の始まり
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第17話 「Crash & Boots」

 空に向けて伸びる色とりどりのサーチライトの光。

 大きなスタジアムの屋根の部分には、『Crash(激突)Boots(ブーツ)』と書かれた巨大な電飾看板が掲げられている。

 特に意味は無いのだろうけれど、スタジアムの外周をフラッシュライトが駆け巡り、駐車場から入口までの植え込みには、炎が揺らめく篝火かがりびが並んでいた。

 華やかな雰囲気に引き込まれワクワクしながらスタジアムに入ると、場内の規模に圧倒される。

 スタジアムの中央には、三階まである観覧席に囲まれた巨大な円形闘技場があり、その周りをかなり分厚い透明なパネルが覆っていた。模擬戦闘の開始時間まではまだ時間があるというのに、既に空席の方が少ない状況なのだ。


 入口で渡された画像が浮かぶ半透明のプログラムには、今日の対戦予定と現在の賭けの状況がリアルタイムで流れている。

 対戦表には、出場選手の戦績や搭乗するGDWの姿と簡単なスペックが記載され、そのすぐ下に掛け金をベットするタッチ部分が表示されている。

 プラス・マイナスをタッチしながら掛け金をベットして行き、その脇に表示されるコードに例の通貨カードを接触させれば賭けは完了。

 もし賭けに勝ったら、再び表示されるコードに通貨カードを接触させれば、配当金がカードへと入金される。便利なものだ。


「ねえ、アルテミス」


「はい」


「アルテミスは、このデータを見たら勝敗が予想出来るの」


「いいえ、流石にプログラムに記載されているスペック程度では判断出来ません。試合前のウォーミングアップの動きを見れば、どちらが勝ち易い、もしくは負け易いか、という程度の予想は出来ると思いますが」


「えっ、じゃあ賭けに勝ちまくって、もの凄く儲かるんじゃないの?」


「余り勝ちすぎると目立ちますから、三勝二敗程度の勝ち方で、少し稼ぐ程度に抑えた方が良いと思います」


「そっかあ。なるほどねぇ」


 いよいよ、最初に対戦する機体が闘技場に現れ、観客席から大きな歓声が沸き上がる。先ずは近接武器のみの『ビギナークラス』の模擬戦からスタートだ。

 一機はモスグリーン(深緑)ブラウン(茶色)のツートンカラーの機体。ディーグルよりも更にもっさりとしていて、かなり重量が有りそうだ。

 (たる)の様な胴体に付いているアーム()部が、かなりがっしりとしていて、前後にスライド出来そうな機構が付いているのが見える。その外側に分厚い盾が取り付けられていた。 

 もう一機は、デザートブラウン(砂色)で全体が塗装されている機体。こちらはモコモコのボディアーマーを着込んだ筋肉質の巨人といったいで立ちだ。

 ショルダー部にはアタック用の大きなとげが有り、ひじひざの部分にも尖ったカバーが付いている。

 どちらの機体も分厚い装甲で固められ、どっしりとしたフォルムをしていて、見た目以上に機体は重たそうに見える。

 ビギナークラスは、どちらの機体も強そうには見えない。しかも、両機とも近接武器を持っていなかった。

 どうやら、GDW同士の殴り合い、肉弾戦での勝負らしい。




 両機がスタート位置に付き、スタジアムの巨大な電光掲示板にカウントダウンの表示が流れ始めると、観客席から歓声が沸き上がる。

 そして、カウントがゼロになると、闘技場内に号砲が響き渡り壁際から一斉に火花が噴き出した。

 観客の興奮は一気に高まり、派手な演出でスタジアムは熱気に包まれる。


 合図と共に二機のGDWが駆け出し相手との距離を詰めた。先に仕掛けたのは筋肉質の砂色の機体だ。

 大きな棘が付いたショルダー()部を前方に突きだし、そのまま突進する構えを見せていたけれど、直前でフェイントを入れ敵機の側面に滑り込むと、すかさず(エルボー)に付いているとげを叩きこんだ。

 受ける側になったツートンの機体は、がっしりとしたアーム部の盾でその攻撃を受け止めた。接触部分に火花が散る。

 攻撃が不発に終わった砂色の機体は、一旦後退して距離を取り、ツートンの機体の周囲を移動しながら攻撃機会を伺っている。

 

 しばらく睨み合いが続いていたけれど、ツートンの機体が誘い込む様に両方のアーム部を開いてみせた。何か作戦が有るのかも知れない。

 砂色の機体の方はしばらく様子を伺っていたけれど、おもむろに左右にステップを踏み始めた。重量があるせいか、それほど素早い動きではない。

 ツートンの機体は動きに合わせ、常に正面に相手を捉え向きを変えている。

 どちらも攻撃の機会を伺っているけれど、なかなか隙が生じないのか、単調な動きが続く。

 ところが、幾度も同じステップを繰り返すうちに、ツートンの機体が先んじて向きを変える様になっていた。


「あっ!」


 何となく危うさを感じた途端、砂色の機体が同じ方向にステップを二度踏み、ツートンの機体は繰り返して来たステップに釣られ、違う方向を向いてしまったのだ。

 その途端、砂色の機体が弾かれた様に一気に間合いを詰めた。大きな棘のあるショルダー部を突き出し攻撃体勢に入る。

 完全に隙を突かれた状態のツートン機の側面へと突進して行った。

 ところが、完全に逆を取られたかに見えたツートンの機体は、意外にも素早く振り向き、ショルダー部に付いた分厚い盾で突進を受け止めた。ミスをした振りをして誘い込んだのだ。


 重たい機体同士がCrash(激突)する音が響き、ぶつかった箇所から大きな火花が散った。重たい一撃を盾で受け止めたツートンの機体が、勢いで後方へと押し下げられる。

 だが、突進は大きなダメージにはならず、ツートンの機体は素早く反転し、攻撃を受け止めた反対側のアームを振り抜く。まだ体勢の整っていない砂色機のアームの付け根へとパンチを撃ち込んだ。

 しかも、パンチがヒットする直前に、肩の辺りからバックファイヤーが噴き出し、アーム全体が加速され前方へとスライドする。

 射出された様な勢いの重たい一撃。砂色機のアーム部が付け根の部分から破壊され、後方へと千切れ飛んだ。観客から歓声が沸き起こる。


「あのスライドする機構は、そういう使い方なのか。通常のパンチの数倍の威力があるね。あれをまともに食らうと、少々の装甲でも吹き飛ばされちゃうね」


「ええ。でも、あの攻撃は(かわ)されると大きな隙が生まれますから、リスクも高いです」


 俺の頭に付けているゴーグルにはカメラが内蔵されていて、その端子がリュックに入れているディグアルテミスのCAIカードに繋がっている。

 アルテミスはこの対戦も含めて、これから俺が対戦する機体やパイロットの操縦を戦闘データとして取り込んでいるのだ。

 イーリスⅡに戻りシャルアルテミスにデータを渡し、解析後にフィードバックして貰う。しばらくは、そういう情報収集に時間を割くそうだ。


 片方のアームを破壊された砂色機は、アームを吹き飛ばされた衝撃で体勢が崩れていた。

 ツートンカラー機は腕部のスライドが戻る勢いを利用し、反対側のアームを敵機の頭部へと振りぬく。再びバックファイヤーが吹き出し、重たい一撃でとどめを刺しに畳み込んだ。

 誰もが重たいパンチがそのままヒットし、砂色機の頭部が破壊されると思った直後、寸での所で機体を沈み込ませパンチを躱す。

 ツートン機はスライド機構を使った攻撃が躱され、その勢いで機体の側面ががら空きになってしまう。アルテミスが言っていた大きな隙だ。

 砂色機は再び全重量を乗せる様な踏み込みを見せ、側面からツートン機の脚部の付け根へと体当たりを繰り出した。

 ショルダーカバーの鋭い棘の部分が、脚部側面に深々と突き刺さり、ツートン機の脚部がそのままへし折れてしまう。

 片方の脚部の支えを無くした樽の様なBoots(機体)がその場で横倒しになる。

 勝負が決した。デザートブラウン(砂色)の機体の勝利だ。

 巨大な電光掲示板に、勝利した機体とパイロットの名前が派手な演出と共に表示され、観客席から大歓声が沸き起こる。


 これはまだビギナークラスと言われる、模擬戦闘の一番レベルの低い対戦なのだ。この上に『ミドルクラス』、『ハイクラス』、『Sハイエンドクラス』があるらしい。いったいどんな凄まじい戦いが繰り広げられるのだろう。

 始めて見た模擬戦闘は凄い迫力だった。自分があの場に立つのかと思うと、胸が燃える様に熱くなる……。

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