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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【旅の始まり】 修練の始まり
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第15話 「ココアと女」

『オーディン所属船籍の入国を許可する。こちらの指示に従いランディングを開始せよ』


 自治政府の管制官から着陸許可を貰い、大都市の外れにある砂漠と赤茶けた岩山が広がる荒涼とした地帯に着陸した。

 少し距離を置いた場所に自分達と同じ雰囲気の宇宙船が点々と駐機してあるから、そういう場所なのだろう。

 アルテミスに聞いたら、砂漠地帯の郊外エリアに駐機しているのは、殆ど模擬戦闘興行の参加者の船だそうだ。

 距離を置いて駐機しているのは、偽装された軍関係の艦艇も多く、お互いに干渉して危険を呼び込まないよう配慮しているからだそうだ。

 今は戦争中だけれど、惑星アウグドは自治を認められた中立エリアなので、変ないさかいは起き難いらしい。

 お互いに敵対経済コロニーの者だと知れても、この惑星の自治領内に居る限りは争う事は禁止されているし、もし禁を破った場合は他の経済コロニーの者達から袋叩きに合うという事だった。

 様々な実戦テストを行う事ができるアウグドは、各経済コロニー群の軍開発部にとり貴重な実験場なのだそうだ。

 アウグドは何とも不思議な惑星だ。


 ────


「アルテミスぅ。体が重たいよう……」


 初めての惑星の重力。自分の体がこんなに重いとは思っていなかった。

 イーリスの疑似重力区画で、頑張って筋トレをしていたけれど、その中でずっと過ごしていたわけではないから、やはり何かが違う。一日中体が重たく感じるのだ。


『惑星の重力に体が慣れるまで、しばらくは船内でトレーニングですね』


 耳に装着した通信機からアルテミスの声が聞こえてくる。

 イーリスⅡの船内では、シャルーアに搭載されているアルテミスと、ディーグル用のCAIカードのアルテミスの両方と話ができる。

 最初はどちらと話をしているのか分からなくて戸惑ったけれど、普通の会話まで可能なのがシャルーアのアルテミスで、割と機械的な返答を返してくるのがディーグル用CAIカードのアルテミスだ。

 自分の中では、『シャルアルテミス』と『ディグアルテミス』と密かに呼んでいるけれど、その事を伝えた事はない。

 シャルアルテミスと会話は人間的過ぎて、何だか遠慮してしまうのだ。

 まさか腹を立てる事はないとは思うけれど、何となく人間の女性と話している感じがして気が引ける。

 そういう点では、無個性のCAIイーリスが一番話し易い気がする。

 今まで女性なんか近くに居なかったから、どう接して良いのか分からなくて難しいのだ。




 体が重力に慣れて来た頃、アルテミスの指示で街を見に行く事になった。

 ディーグル用のCAIカードを挿した携帯用のスロットをリュックの中に抱え、陸上移動用のバギーで都市部へと向かう。

 頭の上に広がる青空も砂混じりの風も、作業用コロニーしか知らない俺には全てが未知の世界だった。ゲームの中の世界に飛び込んでしまった気すらしてしまう。

 ゴーグルにパチパチと当たる砂の音を聞きながら、遠くにうっすらと見えて来た都市へ向けて車両を走らせた。

 風で舞い上がっていた砂煙が消えると、都市の全体像が視界に飛び込んで来た。とんでもない大都市だ。


「凄い。本当にこんなに大きな建物って有るんだね」


 都市部に乗り入れると、見た事も無い高さの建物が幾重にも並び、そうかと思えば巨大なスタジアムや煌びやかなホテル街があり、小高い丘の上には豪邸が立ち並んでいた。

 こんなに凄い規模の街は、それこそゲームの中の仮想世界でしか見た事がない。

 既視感が有る様な無い様な複雑な心境になりながら、実物の大都市の迫力に圧倒されていた。

 

 建物がひしめく街中を抜けた先で、厳重に警備がなされている建物の駐車場に車を停めた。

 周囲に警備車両や屈強そうなGWサイズの機体が配置されている。いったい何の建物なのだろう。


「リオン。ここでアウグドの共通通貨へ両替します。小さい方の袋に入った硬貨を持ち出して下さい」


「両替?」


「アウグドは多くの経済コロニー群から人が来ますので、領内で使用できる通貨を発行し、その通貨しか流通出来ない様にしているのです。アウグドが為替レートを一方的に決められる理由や、金融システムの仕組みを知りたいですか?」


「いや、いいよ。良く分からないから……」


「了解です」


 このやや冷たい感じの受け答えがシャルアルテミスとディグアルテミスの差なのかも知れない。

 シャルアルテミスだったら、この会話で『ふふ。じゃあ、また今度ね』って、笑って話してくれるはずだ。

 何だか分からないけれど、本当に不思議なCAIだ。


 物々しい警備の中、建物に入り両替の受付へと向かう。

 かなり分厚いクリアパネルの向こう側に無表情の女性が座っていた。

 変な雰囲気だと思ったら、女性の瞳がチカチカと点滅しているのに気が付いた。アンドロイドだ。


「生体認証クリア。入国審査済み。両替する通貨をボックスに入れて下さい」


 パネルの手前側にあるボックスに、袋から取り出した硬貨を置くと、何かの光のラインを通過しながら、相手側に硬貨が移動して行った。


「通貨確認。変造無し。クリア」


 悪い事はしていないのにドキドキしてしまう。この建物全体の威圧感は何だか嫌な感じだ。

 そんな事を思っていると、一枚のカードがこちら側に流れて来た。


「現在のレートで三〇〇万アウグドルです。ようこそアウグドへ。楽しいご滞在を。なお、領域外へのアウグドルの持ち出しは固く禁じられていますので、ご出立の際は必ずカードの返却と両替を行って下さい。もし、不法に────」


 歓迎されているのか脅されているのか分からない説明を聞き終わり、この嫌な雰囲気の建物を後にした。

 車両を直ぐに駐車場から出して、ディグアルテミスの指示で更に郊外へと向かう。

 しばらく走ると、今までとは違う雰囲気の街並みに変わってきた。

 派手なネオンサインが増え、店に掲げられた看板も『バトル』とか『パーツ&リペア』とか書いてある。

 店の裏手には壊れたSWやGWの様な機体が積み上げられていて、作業コロニーにあったジャンクパーツ買取り所に似た雰囲気だ。

 店の雰囲気もそこに居る人達も、通り抜けて来た綺麗な街に居た人達とは違う。ゴロツキや気性の荒そうな連中ばかりだ。

 俺が作業コロニーの出身でなかったら、怖くて逃げ出してしまいそうな雰囲気が漂うエリア。そんな雑然とした街中にある一件の店の前に車を止めた。

 『BAR』と書かれた艶やかで派手なネオンサインが掲げられている店だ。


「リオン。この店のカウンター席に座り、バーテンに『ココアと女を買いたい』と注文して下さい」


「へっ? いま何て言ったの……」

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