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アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~  作者: 磨糠 羽丹王
【ギャラクシードール戦役】 消えゆく希望
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第103話 「ディグアルテミス」

「リーザ機は回収出来たのだな。カークスの方はどうなっている」


「はっ! カークス・バーンスタイン伍長は戦死の様です」


「そうか。リーザ機の戦闘データを至急回してくれ。白の騎士の実力を確認したい」


「はっ! 承知しました。直ぐに」


「リーザはどんな状態だ。生きているのか」


「はっ! 詳細は分かり兼ねますが、分析室に運び込まれて回復中かと思われます」


「分かった。ご苦労」


 敬礼をして立ち去る下士官を見送ると、ロイドボイドはリーザが運ばれた分析室へと向かった。

 彼が分析室に入ると、白衣の者達が一斉に敬礼で迎える。

 答礼で応えると、リーザが横たわる回復カプセルを覗き込んだ。

 リーザはパイロットスーツを身に付けたままの状態で手足を拘束され、露出した箇所に多くのチューブが繋がれていた。


「スーツを着たままか」


「はい。意識を取り戻すや否や覚醒状態で手が付けられませんでした」


「覚醒状態? 薬剤の効果は切れているはずだが」


「理由は分かりません。鎮静剤を打つのに三名ほど医務室送りになりました」


「災難だったな。お前の頬の腫れもそれか」


「はい……」


「手当を多めに出す。こらえてくれ」


「いえ、そのような……えっ」


「……ロイドボイド……」


 鎮静剤で眠っているはずのリーザの目が開き、鋭い眼差しでロイドボイドをにらんでいた。


「ここから出せ! クソ兄貴を殺した奴を八つ裂きにしてやる!」


 リーザは怒りに満ちた表情でカプセルから起き上がろうと藻掻もがく、だが拘束具がそれを許さなかった。


「リーザ。そうしてやりたいところだが、戦闘は既に終わった。オーディンの騎士共は何処にもいない。オーディン宙域に逃げ込んだみたいだ」


「雑魚パイロットどもが、逃がしてんじゃねーよ!」


「俺もお前も敵わなかった相手だ。他のパイロットじゃ無理だとわかるだろう」


「けっ! 絶対殺してやる」


「分かった。その時になったら頼んだぞ」


 ロイドボイドが話をしながらリーザの鎮静剤の液滴量を一気に上げていく。


「殺してやる次は絶対に……こりょ……しゅ……」


 叫ぶリーザの瞳が徐々に光を失い、呂律ろれつが回らなくなると眠ってしまった。


「覚醒した状態が表に出続ける状態になっているという事か」


「はい。何かのショックで弱気の人格が意識の奥底に沈んでしまったのかも知れません」


「なるほど。もしその状態が続くとしたら好都合だな。回復させながら様子を見てくれ」


「はっ! 承知しました!」


 ロイドボイドは分析室を出ると格納庫へと足を向けた。

 機体の修理やカスタマイズを施しながら、CAIフロムンドと戦闘シミュレーションを行っているのだ。次にオーディンの騎士と相見あいまみえた時に、対等に戦う力を身に付ける為に……。


「白い機体の戦闘データが楽しみだな。オーディンの騎士。どこに隠れたのかは知らんが俺は騙されんぞ」


 誰も居ない通路を歩きながらロイドボイドが呟く。


「あの艦隊の動きはCAIの制御だ。どうやったのかは知らんが、船乗りどもを騙せてもパイロットの俺は騙されんぞ。船乗りどもは勝利したつもりみたいだが絶対に違う」


 ロイドボイドは通路の先を鋭く睨みながら、疑似重力のかかる通路を歩き去って行った。


 ────


 赤と黒、そして青と緑のイーリスが一列に並び、その先頭に見慣れない紫のイーリスが駐機している姿がモニターに映っていた。

 そのイーリスの列の後ろには、不思議な色合いのステルス巡洋艦が数隻。そしてその背後に見渡す限りの艦艇の列が続いている。ヤーパン・エルテリア・ドロシア軍の主力級艦艇が並んでいるのだ。

 その艦艇数は約六〇〇〇隻。ドロシア軍の艦艇を除き、軍部の履歴では全て撃沈された事になっている艦艇だ。


 分厚い氷の層に包まれた惑星ディオティネス。

 その地下の空間に広大な軍用施設が有る事を知る者は少ない。

 この様な事態を予見していた訳ではないだろうが、オーディンの提案により数十年前に設備されたものらしい。

 今回の作戦に於いては、この場所に数千隻の軍艦を隠して備えるという事が非常に重要な要件だったのだ。

 ミストルテイン艦隊を迎え撃った三国の無人艦隊は、セントラルコロニー軍の目をあざむきこの強力な艦隊戦力を残す為のおとりだったのだ。




「初めまして天位の騎士様。私がティアでこっちが双子の妹のエルです」


「あ、初めまして。リオンです。君たちが紫紺しこんの?」


「はい。紫紺の騎士です。騎士と言っても戦闘は不得意ですけれど」


 双子で顔は全く同じだけれど、紫の髪色をしているのがティアで、紺色がエルらしい。

 もちろん、彼女達が存在する事は知らされていたけれど、会うのは初めてだ。

 見た目はイツラ姫よりも幼く見えるが、背が低いだけで実年齢は不明だ。

 戦闘をする為の騎士ではなく、オーディンの情報収集や諜報活動に特化された紫紺の騎士。

 実は、今回の作戦に於いては、もっとも重要な任務を担っている。

 

紫雲しうん隊による通信網の構築は、順調に進んでおります」


 髪色が違うだけで、顔も声も話す速度も一緒だ。ピッタリとハモったりして、何だか凄い。


「紫雲隊?」


「はい。AAI、いわゆるアンドロイドの実行部隊です」


「そんな部隊があるの?」


「はい。第六世代のAAIで、約一〇〇体のAAIで全てのコロニー経済圏を新たな通信網で繋げる作業を行っております」


「現在、旧ドロシア側勢力宙域が六〇%、セントラル勢力宙域が三〇%、ヤーパン・エルテリア宙域は一〇〇%の設置状況です」


「そのAAIが設置して回っているの?」


「いいえ。研究用測定機器設置という名目で民間業者に委託しています。AAIは業者との交渉及び設置後の通信監理を行っています」


 ティアとエルのハモったりハモらなかったりする報告を聞きながら、この計画が動き出すまでには、かなりの時間を要する事が分かった。

 とにかく、まずは旧ドロシア連合側の宙域が一〇〇%の設置状況にならなければ動きが取れない。

 その間、ここに集まった三国の艦隊は待つ事しか出来ないのだ。

 惑星ディオティネスの分厚い氷の下にある軍事施設。

 セントラルコロニー軍の監視網を潜り抜けながら活動を続け、備蓄された食料とエネルギーを頼りに長い時間を耐えて行くしかない。


 オーディンが人類に託した未来。

 各国へ宛てられたオーディンからのメッセージは厳しいものだった。


『オーディンはあくまで中立性を保つ。人類の未来は人類によって築かれるべきものである。助力は惜しまないが選択肢は人類が選ぶべきであり、その為の提案を下記に記す』


 セントラルコロニー群による支配を受け入れるのか、それとも自治独立の国家運営を取り戻すのか。どちらを選択するのかは人類が決めろという事なのだ。

 ヤーパンとエルテリア、そしてドロシアはセントラルコロニーには屈しない道を選んだ。一旦占領されるという耐え難い状況を受け入れるという形で。

 俺達は人類の希望の光を灯し続け、占領下にある人々が起ち上がる力にならなければいけないのだ……。


「リオン。そろそろイツラ姫のリュウグウに各国の代表団が集まる時間だ。船外はかなり寒いからしっかりと着込んで行くんだぞ」


「はい。急いで用意して来ます。ティアとエルも一緒に行こう」


「はい! 天位の騎士様!」


 明るく笑顔で返事をする二人を見ていると、直ぐ傍らに頬を膨らませた女性が立っていた。赤毛の綺麗な女性だ。


「あら、リオンちゃんは新しい女にもう目移りかしら。誰か忘れてない?」


「まさか! セシリアさんは、どんな時だって一緒だと思っていますから。寒くないように暖かい格好をして下さい。お持ちでなければ僕の防寒具を使って下さい」


「り、リオンちゃん……あふっ」


 セシリアさんが変な声を出してしゃがみ込んでしまった。どうしたのだろう。


「セシリアさん。どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたも、腰が抜けちゃったのよ。起こして」


 腰を抜かした理由が良く分からなかったけれど、笑顔で両手を差し出すセシリアさんの手を引いた。

 そして、助け起こすと同時に頬にキスをされてしまった。大分慣れて来たけれど、やっぱり嬉しい。

 セシリアさんに緑色の瞳で見つめられるとドキドキしてしまう。本当に優しくて綺麗な女性だと思う。


『リオン。出発前にエウバリースに来てください』


 部屋に着替えに行こうと思っていたら、アルテミスから通信が入った。

 急いで格納庫へ赴きコクピットへと乗り込む。


「来たよ」


『はい。実はリオンにお話があります』


「うん。改まってどうしたの?」


『この艦隊が動く日が来るまで、スリープ状態に入らせて頂いても宜しいでしょうか』


「えっ、どうして……」


 アルテミスの突然の話に驚いたものの、胸にチクリとするものがあった。


『リオン。本当は気が付いていますよね。私の事』


「……」


『この先にもっと大事な戦いが待っているはずです。その時に万全の状態でリオンの傍に居たい……』


「アルテミス……」


『大丈夫です。ちょっとエネルギーを節約したいだけですから』


「うん……分かったよ」


『その間はファイネリングにCAAIを任せて下さい。翡翠ひすいのトリシューラに騎乗する事になりますが、リオンなら問題ありません』


「ファイネリングって、母さんが騎士見習だった時のCAAIだよね」


『ええ。彼女は再製したのでアマリティー様の記憶は有りませんが、リオンが騎乗する事はとても喜ぶと思います』


「分かった。でも、俺が騎乗してしまって良いの。機体の生体認証の事とか後で困らない?」


『うふふ。貴方はオーディンの最上位権者ですよ。全ての権限を超越する存在で有る事を忘れないで下さい。貴方に権限未達事項なんて、もう存在しないのですよ』


「あ、そっか。まだまだ実感が湧かないよ」


『貴方らしい……。リオン。ひとつだけお願いがあります』


「うん」


『私のCAIカードを……常に傍に置いてくれませんか。目覚めた時に全て知りたいから』


「もちろんだよ。いつだって肌身離さず持ち歩いて、ディグアルテミスと話すさ」


『ディグアルテミス?』


「あ、目覚めた時に話すよ」


『はい。では、貴方に起こされる時を待ちながら休ませて頂きます。ほんの一時……』


「ああ、お休み。アルテミス……」

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