#3.5 夢(1)
この作品はフィクションです。この部分は「残酷な描写あり」(一応)なのでご注意ください。
僕はその夜夢を見た。
そこは幼稚園だった。幼稚園なのだが、幼児はいない。いるのは一人の老婆だ。
その老婆は外に出ることが許されず、幼稚園に閉じ込められていた。
僕はその老婆に話を聞きに行かねばならなかった。彼女は老婆というにはまだ若い年齢だったが、顔中に深く皺が刻まれ、ぱさぱさの白髪がおどろおどろしかった。
「あなたはどうしてここから出られないのですか? 自分で出ようとは思わないのですか?」
僕は老婆に警戒されぬよう優しく問いかけた。老婆の回答次第で、ここから老婆を連れ出す権限を僕は持っていたのだ。しかし僕の気持ちなど知りもしない老婆は迷い無く答えた。
「仕方ないの。私は莠コ髢薙§繧?↑縺……」
その意味のわからない言葉に僕は諦めた。もはや人間ではないのかもしれない。それならこちらもやらなければならないことがある。
僕は食品用ラップを手に取った。そして老婆の顔に一巻き、二巻き……グルグルと巻きつける。
老婆は何も言わない。抗いもしない。
僕はラップを巻き続ける。初めは静かだったものの、だんだんと呼吸の音が大きくなってくる。
ヒュー、ヒュー……と、少しでも酸素を取り入れようとするようにラップの隙間から音が鳴る。少しでも命を長引かせるように。
何重にも巻かれたラップの奥から老婆がこちらを見ている。
真っ直ぐ、澄んだ目で……
厚いラップにふさがれた老婆の口は何も語らない。しかしわかるのだ。その視線は僕に何かを言おうとしている。
僕に、
僕に、
「――っ僕にこれ以上何を言いたいんだよ!!」
思わず発した叫びは窓ガラスに当たる激しい雨音にかき消された。
僕は息を整えながら、未だ残る生々しい感触に思わず手のひらを見た。昼間に巻いた絆創膏が手汗でよれて外れそうになっていた。
その夜、僕は久しぶりに夢を見て、久しぶりに泣いた。
お読みいただきありがとうございました。次回は少しお時間いただきます。受付のお姉さんとの回です。