異世界へ(2)
ソルさんが歩き出し、後ろを付いていくが
「何故、わざわざ街の外から行くんだ」
「ある方のご意向なのです」
「ある方?」
ソルさんはニコッと笑顔で、それ以上は答えてくれそうにない
歩きながら街を見てると、街全体が赤と金の混ざった《サイコキネシス》の様なモノで覆われてる
…でも何となく、これじゃ護れないと感じる
そう思ってる内に入口まで来た
ソルさんはスル…と自然に門を通る
……、私は入れるのか?
慎重に足を進めるが、難なく入れた
怪しまれない程度に辺りを見渡してると
「痛いよぉ、お母さぁん助けてぇ…っ」
遠目でも分かる、人間じゃない親子
子供は腕を押さえて親に縋ってる
「ごめんね、もう魔力が無いの…っ」
まりょく?…魔力?
親子に視線を向けたまま
「おい、離れてもいいか?」
「何をされるおつもりですか?」
「治す」
ソルさんを見ると、懐かしむ様な表情で
「顔は見られない様にして下さいね」
「分かった」
親子に歩み寄ると、母親が子供を背に隠し
「誰ですか?」
「大丈夫、危害は加えない。傷を治すだけだ」
「…」
母親は恐る恐る子供を前に出す
子供は泣きながら
「だぁれ?」
「遠すがりの者だ、痛いとこを治してあげる」
子供は腕を押さえてるが、全体的に傷だらけだ
何故こんな…
「ひっく…痛いよぉ…」
「大丈夫」
子供に手を翳し《ヒール(治癒)》を掛ける
「どう?」
「痛くない!治ったぁ!ありがと!!」
「どういたしまして」
子供ははしゃいでピョンピョン飛び跳ねる
「ありがとうございます!」
「貴女も」
「え?」
母親の傷も全部治す
「私まで…!ありがとうございます!なんとお礼をしたらいいか!!」
「いえ」
親子がギュッと抱き締め合ってるの横目にソルさんの元に戻ろうとすると
様子を見ていた他の者達が集まり始める
「あの、私も治してもらえないでしょうか?」
「私も、うちの子が酷い怪我を負ってるんですっ」
「俺の傷も治してくれないか!?」
「あ、あの…えっと…」
ソルさんを見ると、苦笑しながら頷くのが見えた
「大丈夫。全員治すから、慌てずに順番に並んで」
「「「はい!」」」
ソルside
シオリ様が傷を治すと言って、泣いている子の元へ行った
…正直
あの方が、シオリ様かはまだ確定していない
赤い左目と顔つきがソックリなだけだ
僅かに懐かしい魔力を感じて、あの方の前に現れたが
少し話しただけでも分かった
警戒されてるにしろ、雰囲気や言葉使いが以前とは随分異なる
本当に、…本当にあの方は…、我々の知るシオリ様なのか
だが、遠くからその光景を見つめてると、そんな思いはすぐに消え去った
シオリ様は、赤い光を出しただけで傷を痕を残さず治した
「…、」
《ヒール》は光属性で、ある特性を持つ魔法だ
特性はあるが光属性の者自体は少ない訳では無い為、特別なスキルとしては扱われていない
その特性と目の前の光景で、不安が確信に変わる
喜びで唇が震える
「…やはり、貴女様で間違い無い様ですね」
少しでも魔力を持ってるか、どれだけ使えるかを確かめる為に街の外から戻ってきたが…
周りの者達に囲まれて困ってるが、私は笑みを抑えながら頷いた
「今の内に、報告しておかなければ…」
あれから住人に囲まれて、数人…数十人と治してる
中には、病気や意識が無い人まで
そんなのまで治せるか心配だったけど
いつもよりも集中して、込める力を増せば治った
これだけ《ヒール》を使ったのは初めてだから保つか心配だったけど
なんとか全員傷痕も残さず治せた
コレは一番精密なコントロールがいるし、気力もだいぶ減る
すると
1人が壊れた道具を持ってくる
「あの、コレとか…、直せたりしますか?」
見事に部品がバラバラになってる
…、保つかな
「任せて」
《リグレッション(回帰)》
バラけてる部品が元の形に収まっていく
「はい」
「! 直ったぁ!」
それを見た周りの者達が
「あの、コレも直せないか?」
「家の崩れた壁とか、どうだ?」
また更に集まってきてしまった
…、ん〜…
よし、やってやる!
ここへ来て、どれだけ経っただろ…
只今、道具や建物を直しまくり中
…私、何でここに来てるんだっけ
周りを見れば、子供が元気にはしゃいでる
……、まあ、いっか
物を直すのに集中してると
「アンタスゲェな!一度に怪我だけじゃなく、物も直せんだな!
俺は魔力が少ねぇから、すぐへばっちまう」
「…あの」
「何だ?」
「魔力…は、ここに居る全員が持ってるのか?」
「物心が付く頃には自然と使えるよ
ここの奴等だけじゃねぇ、この世界の奴は種族問わず皆色々と使えるだろうよ
持ってる量はそれぞれ違うけどな
俺は怪我をいくつか治すだけで疲れちまうんだ
だから、こんだけ魔力を使ってても大丈夫なアンタはとんでもねぇよ!」
「…」
この世界では、この力は普通なのか
でも、何で殆どが使えない状態になってるんだ
「怪我人もそうだが、何故街全体がここまでボロボロに…」
ボソッと呟いたのを、いつの間にか側にいるソルさんが聞いてた
「ここ数年の事です
このジュノには、今は亡き姫様の御加護があります」
「…もしかして、ここを覆ってるアレがそうか?」
「左様です
ですが、長年の時が経ち、弱まってきているのです
ソレを感知し、様々な魔物が襲ってくる様になりました」
「…兵士はいないのか?」
「1年程前に大規模な攻撃をくらい、殆どの兵士が犠牲になりました
今では、ほんの数人しかおりません
街を覆っているアレも、厳密に言えば…ただ形があるだけなのです」
「…」
色んな物を直し終えて一息吐いた途端、急激な目眩や倦怠感が襲う
「…っ」
グラ…ッとよろけると、後ろから誰かに支えられる
「…!」
「…っ!」
周りの声が遠くなっていき
眠気に耐えきれず、私は瞼を閉じた




