どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう。
会話文ちょっとしかありません。
誤字脱字報告ありがとうございます!
※1カ所だけ、頂いてから気付いたんですが、その前部分の台詞が間違ってました。実際は核心を突いた台詞にしたかったので、そのように訂正させて頂きました。教えてくださり、ありがとうございましたm(_ _)m
本当にどうしよう。
私は4人の年齢バラバラな女たちと、5人の子供達が並んでいるのを見て固まっていた。
あ、どうも、皆様。お初にお目に掛かります。
どうやら異世界転生をしてしまった前世日本人のアラサーOLです。何が原因で死んだかは覚えてないんだけど、死んだという記憶は何故かある。なんだろね? 突然死? まあいいや。
で、転生した今世は、アーディー王国第一王女にして、バルカン公爵領主ライニールの妻アマーリエ・バルカン。
つまりはバルカン公爵夫人……だったんだけど、一週間前に未亡人になりました。
16才で未亡人とか冗談でしょ? って日本人の感覚なら思うじゃん? マジです。夫ライニールは、一週間前に馬車の事故によって帰らぬ人となりました。しかもよりによって私の誕生日当日に。
それだけでもヤバいってのに、この旦那、馬車に愛人乗せてやがったんですよマジフザケンナ。
貴族なんだから愛人や妾の1人でピーピー言うなと言われるかもしれんが、まずアマーリエ・バルカンという人物を説明しておこう。
アマーリエ・バルカンはこの国、アーディー王国の第一王女として生まれた。父である国王は側室であったアマーリエの母をそれはそれは深く愛し、2人の間に生まれたアマーリエも目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がった。
きちんと王家教育を受けさせてもらったので、幸いなことに性格は歪まず成長。ただ、父母から大事にされすぎて夢見がちな箱入り娘に育ってしまう。それがアマーリエの最大の不幸だった。
アマーリエが13才の時、兄王子の誕生日会で出会ってしまったのが、当時22才のライニール・トリスタン公爵令息。次男坊であった彼は相当な放蕩息子で数多の浮名を流していたが、それに見合う美貌の持ち主でもあった。
一目見て彼の虜になったアマーリエは、父王に彼との結婚を願い出る。紆余曲折を経たが、可愛い娘のお願いに根負け。トリスタン公爵も難を示したが、家庭を持てば落ち着くだろうと思い込んで了承。王家の領地であったバルカン領をライニールに与え、アマーリエは臣籍降下し、晴れて2人は9歳差の夫婦となった。
とはいえ、13才のアマーリエは見た目も中身もまだまだお子ちゃま。夫ライニールはアマーリエが16才になるまで待つと申し出、アマーリエはそんな夫の大人で紳士的な対応に益々彼に惚れ込む。
しかし、ライニールの真の目的は別にあった。自他共に認めるジゴロな彼が、王命や父公爵の命とはいえ結婚したのはかなりの不本意なこと。おまけに相手は、ライニールの好みとは正反対のつるぺったん。成長すれば抱けなくもないが……と、考えついたのがアマーリエが成長するまで待つという作戦だった。
甘い言葉で巧みに誤魔化し、了承も得られたことだからと気兼ねなく再開された女漁り。仕事と偽って女の元に寝泊まりし、たまに帰ればアマーリエを姫のように猫のように可愛がる。アマーリエは忙しい合間を縫って帰って来てくれる夫と信じて疑わず、ライニールに相応しい妻になるために、日頃から自分磨きに勤しみ、16歳になる日を今か今かと待ち侘びていた。
で、一日千秋の思いで待ちに待った16才の誕生日。浮き足だって夫の帰りを待っていたアマーリエの元に届いたのは、ライニールの乗った馬車の転落事故の報。
最初は信じなかったアマーリエだが、運ばれてきた夫の死体を見て、絶望の淵に立たされる。
愛する夫の死に悲しむアマーリエに追い打ちを掛けるように、乗っていたのが夫だけではなく、愛人が同乗していたこと、仕事と偽っていつも愛人と会っていたことを知り、日頃の甘い言動を信じ切っていたアマーリエはダブルショック。
更に、喪に伏して落ち込んでいたところにやってきた3人の愛人+1&5人の子供達がズラリ。
絶望の淵どころか突き落とされて激突のショックで心身バラバラ。マジ再起不能。トリプルショックでぷっつーん、となったこのタイミング! このタイミングで、私は前世を思い出しました。
ぷっつーんした後の無表情してるけど、内心汗ダっラダラ。
だって愛人らはともかくこの子供たち。数年後に私を殺す子たちなのだ。
なんでそれがわかるかって?
実はこの展開、私がやってた乙女ゲーム《クローバーの約束》の過去ストーリーまんまなんだもん。
お次は《クローバーの約束》……通称クロ約の説明をば。
クロ約はまあ、よくある選択肢やプレゼントあげて好感度を上げ、イベントクリアして恋愛に持ってく学園ものの乙女ゲーム。
主人公は王都から離れた田舎町の町長一家の娘。年頃になったので王都にある学園に通う為に訪れ、そこで3人の高貴な身分の男性と出会う。山あり谷ありライバルありのストーリーを進めていくと、主人公を含めた4人は実は幼なじみと言うのが判明。とある悲しい事件によって見事に離れ離れになり、学園で再会していた……というのが大体の流れ。
んで、この物語のラスボスとして出てくるのが、バルカン公爵領女領主アマーリエ・バルカン。
ええ、そうですよ、私ですよ。
本当、なんで自分を殺す相手たちと出会った時に思い出すかなぁ? もっとベストなタイミングがあったと思うんだけども神様よう! せめて子供時代に思い出してくれてたらヤリチン野郎と結婚しなくて済んだのに。そんな男の為にこの年でバツイチ未亡人とか泣けてくる。
ま、前世では結婚どころか恋人もいないまま終わったけどね! ははは!
虚しい。
「いい加減、現実逃避は止めてもらえるかしら?」
甲高い声が私を現実から呼び戻す。視線を戻すと、ど真ん中にいる化粧の濃い派手な年増女がきっつい顔で睨んできてる。足下には金髪碧眼の美少年が無表情で立っていた。
「うちのケイレブが1番年上で、ライニール様の血を濃く受け継いでいるみたいだし、跡継ぎはこの子で問題無いでしょ? 引き取ってくれるわよね? 勿論、お金は貰うわよ」
「お待ちなさい。金髪碧眼なんてゴロゴロいるわ。あなた、娼婦なんでしょう? 他の客の子供じゃないのかしら? その点、うちのニーヴェルは顔立ちがライニール様そっくりでしょう? お嬢様、この子を引き取ってくださいませ」
横から水を差してきたのは、いかにも安物のドレスに身を包んだ地味な女。彼女は落ちぶれ男爵家の行き遅れ令嬢で、家庭教師なんかをして生計を立てている女性だ。足下の黒髪、赤い切れ長の瞳の少年が直立不動のまま睨んできている。確かに顔立ちはライニールに似てなくもない。
「ええー。でもぉ、その子は目つきはそっくりだけどぉ、それだけじゃあん」
「ふん。あなたの子供なんて全く似てないでしょうに。そんなのでよくライニール様の子供なんて言えたわね」
「あたしのゼオンちゃんはぁ、ちゃあんとライ様の子供だもーん。ライ様もゼオンちゃんをとーっても可愛がってくれてたしねぇ」
苛つく間延びした喋り方をするのは、身綺麗だが頭の悪そうな若い女。彼女は商家の娘で、彼女の背後に隠れるように、赤いふわふわな髪と垂れ目の少年がビクビクと怯えた表情でこちらを覗いていた。
三者三様、見た目も性格も異なる三人だが、共通点が一つある。全員、ボンッキュッボンッだ。分かり易過ぎだぞ亡き夫よ。
ギャーギャーと3人でもめ始めた女たちの少し後ろで、居心地悪そうに立っているのは年老いた老婆。両脇には2人の女の子が不安そうな面持ちで老婆のスカートにしがみついている。勿論、この老婆はライニールの愛人だった訳では無い。そうだったら彼の守備範囲の広さに怒りを通り越して尊敬してしまう。老婆はライニールと一緒に亡くなった愛人の母親で、子供たちは普通の町娘だった女の子供たちだ。
ぶっちゃけ、この中でライニールの子供はこの少女たちだけだったりする。他の子たちは、まぁ、色々なエピソードがあるのだけれどここでは割愛。
ゲーム内のアマーリエは、とにかく愛人と子どもの存在を許すことが出来ず、遺児たちを預かった後に愛人たちを暗殺。子供たちを売る算段が立つまで奴隷のように扱い、酷いトラウマを植え付けた。
で、三年後に子供たちは売られそうになったのを察知して逃走。しかしすぐに追っ手をかけられてばらばらに。その時に主人公の姉は死に、そのショックで主人公は記憶喪失。倒れていたところを町長一家に拾われ、クローバーと名乗り、16才になったので王都にある学園に向かい、幼なじみたちと再会。交流の中で記憶を取り戻し、手を取り合ってアマーリエに復讐って言うのがこのクロ約の勧善懲悪お涙頂戴もののクロ約の物語。因みに私は粗筋に惹かれたパケ買い勢の為、推しはいない。
うん、とりあえず、ちょっと待とう? 確かにアマーリエは酷い。そりゃ私もそんな目に遭ったらやり返すことを考える。
けどアマーリエの立場から言わせて貰えば、アマーリエのことも考えよう? 一途に愛して信じてた夫に裏切られて、しかも複数の愛人と、自分とそんな年の差の無い子供たち連れて来られたらさ、アマーリエの気持ちもわかるでしょうに。
赤の他人の幼気な子供にそんなの分かるわけ無いですね、はい。
兎に角、私はこの幼気な少年少女たちをなんとかしないと、8年後に24才の若さで処刑台送りになる。24って、大学卒業して社会に出たばっかよ? 28で死んだ前世より早い死よ? 初体験も出産も子育てもまだよ? 前世では未婚未出産のままで終わったんだから、今世では優しくしてくれても良くない神様?
……ま、なっちゃったものは仕方ない。こうなったら早々に気持ちに切り替えて、死なないよう努力するしかないんだ。
まずは女たちに、受け入れる準備をする言って今日はお帰り願う。多少渋られたが、前金を渡せば嬉々として帰ってった。これからの仕事を考えれば端金よ。
でもって、人を使って4人の過去を探る。私が簡単にお金を出す世間知らずの小娘だと油断してるこの時間が狙い時。私はゲーム全クリしてるから知ってるけど、ちゃんと証拠や因果関係を調べとかないと、周りが納得しないからね~。
王家の元暗部たちは十日ほどで欲しい情報と証拠を集めてくれたよ。流石。
まずは、娼婦マーガレットと息子ケイレブ。実はケイレブ、国で三本指に入る名家であり、宰相であるホーンバック公爵家現当主の一人息子の血を引いているのだ。ケイレブ父は平民であったマーガレットと一緒になるために、金や宝石を持ち出して出奔。しかしケイレブ父はケイレブが五歳の時にこの世を去り、生活苦からマーガレットは娼婦に身を落とす。ライニールは単に客として来ていただけだったが、ライニールの死を聞いてチャンスと思って売り込みに来たらしい。
マーガレットにこの報告を突き付けると、最初はヒステリックに否定していたが、ホーンバック公爵家当主の登場と、ケイレブが父から「困ったときに売れ」と渡されていた家紋入りのカフスボタンで観念したようだ。二人は当主に連れて行かれたが、「意固地になりすぎた自分にも責任がある」と反省する当主の人柄から、悪いようにはされないと思う。
次は落ちぶれ男爵家令嬢サタニア・ヨーキリスと息子ニーヴェル。彼女はとある貴族の家庭教師をしていたときに、馬鹿息子に手を出されてニーヴェルを生んだ可哀想な女性だ。仕事を探していた時にライニールに出会い、仕事を紹介して貰う代わりに愛人となったらしい。
馬鹿息子とニーヴェルは同じ色の目を持ち、遺伝による痣の特徴も一致。これによって親子関係が証明されたが、支援はするが家には迎え入れない方針を取るとのこと。ニーヴェル自身、家を出て騎士になることを望んだ。サタニアはライニールの訃報を聞き、生活苦から仕方なく嘘を吐いたと涙ながらに語られた。まぁ、こっちに害があったわけでもないし、特に罪も罰も与えなかった。なので、サタニア・ヨーキリスは後援と大金を得て幕を下ろした。
ラスト、パトリシア・フーリンと息子ゼオン。バルカン公爵領でも特に富裕層にいるフーリン商会の娘だが、彼女の奔放な男性遍歴は凄まじく、金の力に物言わせてイケメンを取っかえ引っかえしまくっていたようだ。探りに行った密偵も粉かけられて、情報を得るのが物凄く簡単だったらしい。
彼女の取り巻きにゼオンに似た男がいたらしいと言うこと以外、ゼオンがライニールの子か否かの明確な証拠を得ることは出来なかったが、それだけ身持ちの悪い女の産んだ子供を公爵家の嫡男として迎えることは出来ないと言うことで、きっぱりお断り願った。
これで、攻略対象らの対応は終了。
残るは最重要な姉妹だ。祖母ニーナの曰く、ライニールの実家のトリスタン公爵領の町で暮らしていた亡き愛人アンナは、視察と称して町に来たライニールに見初められて愛人になったようだ。とはいえ、彼女は芯の通った強気な女性で、簡単にはライニールに靡かなかったらしい。
簡単に言えばあれだ、『お前、面白い女だな』パターン。
なんやかんやあって結局愛人に収まり、姉のヨツバ、妹のカスミを生む。後に我が身を犠牲にして妹を助ける姉と、物語の主人公となる妹だ。
ライニールと共に亡くなったという事実からアンナが愛人であったということは確かであるし、姉はライニール激似の美少女だ。妹は母親似のようだが、こちらはこちらで可愛らしい容姿をしている。アンナが他の男との関係は一切無かったという密偵からの報告を受け、私は二人の少女と祖母のニーナを公爵家に迎え入れた。
年の近い養子が出来たことによって、最初こそギクシャクして大変だった。姉妹に対しての周囲の誤解、年々美しさを増していく姉への周囲の反応、妹のジェラシー。攻略対象たちとの再会や陰謀、ストーリーを変えたとことによる弊害等々……沢山のイベントをこなしていった結果、10年近く経った今では義理の親子というより姉妹のように仲良く過ごしている。
無事に仲良く学園に通った姉妹は、なんやかんやで婚約者をゲットして、ラブラブっぷりを遺憾なく発揮してきやがる。見せつけてるつもりはないようだけど、めっちゃ見せつけられてて、今だ独り身の私には辛い。
「おっかしーよなぁ」
「何が」
それぞれの婚約者と共に元に出掛ける姉妹が乗る馬車を見送って、私は執事兼友人であるレーガイン・カルシックと共に書類の山を片付けていた。
レーガインは私よりも五つ年上で、実は私を狙っていた暗殺者で、後に暗部に在籍することになった男だ。かなりの切れ者で、新参者ながら暗部の次期リーダーにと推されていた優秀な人物でもある。しかし、前の執事が年齢を理由に引退したのを機に、暗部を辞めてまで私の補佐をする執事に転職してくれたのだ。彼がいなければ領地経営も数多のイベントもクリアに苦労しただろう。彼には本当に頭が上がらない。
「いや、私の恋愛フラグさ。結構いいとこまで行くのに、何故か途中で折られちゃうんだよね」
「そりゃあ、真面目で清廉潔白、曲がったことが大嫌い、誰にでも平等で領民思いな上に武芸の腕も確かと同性のみならず異性からも憧れの的である貴女の、適当でズボラな本性が分かれば誰でも逃げていきますよ」
「本性も何も、最初から最後まで素を出して接してるんですけど」
「有名であれば有名であるほど勝手に期待度を上げられてしまうものです。元王女とは思えない男勝りな行動力と発想力も受け入れ難いのではないでしょうかね」
「えー? みんな大体はそこが魅力的だって言い寄ってきてたんだけど」
「貴女があまりにも想像以上で、自分では貴女は手が余ると身を退いているのでは? 貴女に付いていける男は俺くらいでしょう」
「マジか。苦労かけて悪いね、レーガイン。早く癒しを提供してくれるいい嫁見つけなよ」
レーガインは実は結構男前系のイケメンだ。銀髪とアメジストの切れ長の瞳からか、クールで知的な雰囲気を漂わせている。しかし大体仏頂面してるせいで、周りから冷たそうやら怖くて近寄りがたいとか色々言われてる。実際は世話好きでお節介焼きで良い人なんだけどなー。仕事馬鹿なところもあるから、理解力と包容力のある優しい女性、誰か知り合いにいなかったかな?
「……無駄口はいいので、早くこの書類の山をどうにかしてくれませんか? 次の仕事を渡せません」
「えっ、ちょっ、はぁ!? この件は来週で良いって言ってなかった?!」
「気が変わ、いえ、予定が急遽変更になりました。早急にご対応お願いします」
「え、あの、レーガインさん? なんか機嫌悪くなってません? まさか結婚の話は地雷でしたか?」
「こちらも追加でお願いします」
「ひええ……鬼畜ぅ……」
書類の山をドサドサと遠慮なく置いていくレーガインの顔は、素敵なイケメンの笑顔の筈なのに、鬼気迫るものがある。
私は有無を言わせてもらえず、まだ終わらない一つ目の書類の山を崩しに掛かるのであった……。
くっそー! 仕事が恋人とかじゃなくて、私を好きになってくれる優しくて素敵な男性と出逢いたいよおおー!!
ーーこの時の私には、数々の恋愛フラグをバッキバキに折っていたのが、この男の仕業であったことを、まだ知らない。
ご拝読ありがとうございました!
中編連載版始めました!!