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だいすきっ!早朝の事件

 僕は自分で思っている以上に薄情な人間だったのかもしれない。こんな時にまで全然知らない女の子の夢を見るなんて。正直どうかしているぞ。

 いつのもの日課で森の様子を魔法で探っているが、集中できない。

 森を見立てた緑の光の地図は今日はいつもより広かった。


「くそ。こんな日に限って森が広がっている。僕がこの調子じゃ何か起きた時対処に問題がお……」


 ふと、独り言と光の地図の上を動かす手が止まる。


「……」


 指が震えそうになるのを抑え、じりじりくる嫌な予感を飲み込む。

 僕は魔女だ。町を守れ。この国を守れ。人々を守れ。

 地図に手をかざしたまま、静かに目を閉じた。


「くすね」

「はい、まほろ様」


 呼びかけに背後からくすねが浮かび上がる。

 その顔は今は使い魔としての表情に変わっていた。


「人魚君に町長を呼びに行かせてくれ……森に死人がでた。普通の死に方じゃない」




 手足の捻じれた異様な姿の死体を人魚君は呆然と見ていた。魔女なら仕方のないことなのだが、これを当たり前にしたくなかった。


「くすね、人魚君を頼む」

「わかりました。人魚様、こちらへ」

「いえ……だ、大丈夫です」


 人魚君の顔は真っ青だったが、よく見るとしっかりと立っていた。僕より肝が据わっているかもしれない。


「わかった」


 死体には何か強力な魔力が働いた跡が残っていた。おそらく何かの術なのだろうが成功してはいないのが厄介だった。これでは何が目的だったのか容易には断定できない。


「……やはり誰かの蘇生を願った契約の代償かしら……」

「そうだね。一般的にはこれだけ強力な魔力が働いた跡があるならそうだろう。でも……」


 だけどどうしても蘇生が目的だとは思えなかった。

 この星に魔法が生まれた後。一部の人間の蘇生が可能になってからというもの、蘇生を試み外道に手を出す人間は後を絶たない。

 彼らのうちほとんどが儀式に失敗し酷い形の最期を迎えている。

 けれどこの死体はそれにしては綺麗すぎる。まるで普通に魔法で嬲り殺したように見える。

 それだけじゃない。死体のよく知った顔を見つめながら僕はぼそりと言う。


「この那波あすみはね、そんな誰かを生き返らせたがるような女じゃないんだ……」

 

 もう目線の合わないその澱んだ瞳は、いったい誰を見ていたのだろうか?

つづく

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