だいすきっ!初めてのコスプリ
僕は34歳だ。
年よりは若く見えるがそれでも34歳だ。今時おばさん呼ばわりされることはないがそれでも34歳だ。20代の頃とは自覚が違う。
それを二人にはわかって欲しい。
「コスプリ?」
「はい……コスプレをしてゲームセンターでプリクラを撮れるんです!」
僕の疑問に嬉しそうな顔で人魚君が答えた。
コスプレか。通りでくすねがウキウキしているはずだ。
くすねは普段から何かのアニメの女子高生の格好をしているほどのコスプレ好きだ。他にも色んな衣装を着てくれる。
人魚君も年が年だからアニメには興味があるだろう。
一人で行かせるわけにはいかないがくすねと二人で行ってくるといい。
僕は二人が撮ってくるプリクラを楽しみに待ってニッコリと笑った。
「いいね」
「そうでしょう?今日はもうお仕事はないですよね」
人魚君は子どもらしく握りこぶしを作っている。わくわくが伝わってくるようだ。
後ろでくすねも目をきらきらさせていた。
何だかんだ仲のいい二人で本当に都合がいい。僕は心の中で表には出せない顔で笑う。
「うん。ちょうどいいよ」
「じゃあ行きましょうか!まほろ様、人魚様」
「うん?」
「あれ、まほろ様じゃない?」
「まほろ様ってプリ撮るんだ……」
少女達の無垢な視線が刺さる刺さる。
ここのゲームセンター……若い子しかいないんだな……。
近所の高校の制服を着た女子生徒がわいわいする中に僕は棒立ちになっていた。
大量の衣装、大音量のアニソン、試着室。
ここは2階でプリクラ機は1階にある。
階段を上がりきっただけでも褒めてほしい。
「この三人グループの衣装を着たかったんですよねー!」
「やはり記念撮影といえばお揃いですわ」
二人は声を揃え、純粋な瞳を輝かせて僕にキュートすぎる衣装を押し付けてくる。
僕はこういうフリフリの衣装を見るのが好きだ。
女の子に着てもらうのはもっと好きだ。
でも自分が着るのは、ちょっとこう、勇気がいるなァ。
「こ、これは……」
「お姉様、こういうの好きですわよね?」
「胸の大きいキャラクターを前提にしているのでまほろ様でもジャストサイズですよっ」
グッと親指を立ててくる二人に、僕は気が付いた。
これは二人の優しさなのだ。
本当は可愛いものが大好きなのにサイズや年齢の問題で着られない僕に……。
嬉しそうだったゲームセンターへの道中の二人の様子を思い出して、僕の胸は熱くなった。
二人の愛はしっかりと受け取った。
ここで着なきゃ女じゃない!!!
「ひぇ~」
試着室で僕は縮み上がる。
「お姉様?ちゃんと着られましたの?」
「どうかしました?お手伝いしましょうか?」
心配そうな声がカーテン越しに聞こえてきた。
どうする?
鏡に映った自分は凄いことになっている。
少し開いた胸元はフリルで飾られているとは言えはち切れんばかりだ。
白い網タイツは小麦色の肌のムチムチを強調しているとしか思えない。
そして何より、スカートが短いよ!
「あの……」
「まほろ様、サイズ合いませんでした?」
「それともお気に召しませんでしたか?」
重なり合う様に聞こえてくる切ない声。
うん。このままでよう。
僕は腹を括った。二人に喜んでもらえるならばやるしかない。
あえて思いっきり、カーテンを開く。
「ど、ど、ど、どうだい!?」
「まほろ様!」
「お姉様!」
二人の歓声が同時に上がる。
二人とも普段そんなに声大きかった?というぐらい大きい声だ。
そんな二人も僕の着ている衣装の色違いを着ている。
もちろんとってもキュートで狂おしいぐらい愛おしい。
見れば見るほど「これ、僕も着てるんだよな」となることを除いては。
「お姉様っとっても可愛いですわ」
薄緑の衣装に身を包んだ小さなアイドル、人魚君の反応は純粋で君のほうこそ可愛いよ。100点。
「まほろ様、いいですねー。最高ですよ……特にお胸の辺りが」
青い衣装に身を包んだ永遠のアイドル、くすねの反応は欲望に正直だ。正直さは美徳だよ。100点。
「うーん合わせて200点満点!!」
僕は二人をぎゅっと抱きしめた。
もちろん二人は満点の笑顔を見せてくれる。
人魚君がくれる温かさも、くすねのくれるひんやりとした感触もどちらも気持ちがいい。
二人はいつも僕に喜びをくれるね。最高だ。
「じゃあ撮りに行こうか」
「はい!」
僕は二人の肩を抱くと早速プリクラ機に向かう。
まぁ、たまにははしゃぐのも悪くないさ。
そう心の中で笑う僕は、確かに幸せだった。
「あれ。小銭が引っかかっちゃったかな?」
「どうしましょう」
「大丈夫!ここのボタンでお店の人が呼べるんですよー。ポチっとな」
くすねの行動に僕と人魚君がほっとしたとき、悲劇は起こった。
「はーい……ってあァ!?」
「!!!????」
そこに現れたのは偽海賊、僕の幼馴染まるかだった。
ちなみに今日は普段着にゲームセンターのロゴが入ったエプロン姿。つまり、そういうこと。
まるかは愕然とした表情で立っていた。
しかし僕の焦った顔にだんだんとにやにやしだし、大声で話し出した。
「あんた。なんつー格好してるんだァ!?」
「ぼ、僕がどんな格好したっていいだろ!」
僕は必死になって反論するが声にキレがない。
「そうですわ!店員さんがお客相手に小学生男子みたいな煽りはやめてくださいまし」
「まほろ様がどんな格好をするかはまほろ様の自由でーす!バーカ」
逆に二人の怒りは一瞬で頂点に達したのかスピードが尋常ではない。
「す、すみませんでした……」
あっという間にまるかは撃沈した。
子どもにガチ説教はやはりダメージが大きいらしい。わかる。
「まほろ、なんかごめん」
「いや、こっちこそなんか悪いね……」
そう言いながら僕は二階への階段を指さす。
「そういえばここの店員さん……君以外は衣装着てるね」
「えっ」
「この元ネタのグループ、四人目の追加メンバーがいるんですのよ」
「えっ?」
「いやぁ。衣装ありましたねー」
「えぇっ?」
『レッツゴー!』
「ま、待って。待って。待ってくださ、ぎゃ、ぎゃあああああ」
あぁ、やっぱり今日も僕は幸せだ。
今回はほのぼのです。