だいすきっ! ずっと大好き
リリの提案は悪くなかった。
僕達は悠然と森に足を踏み入れていく。そこにはもちろん鰐達と人魚君が待っていた。
「お姉様……」
リーダー格らしき鰐の男が仰々しく叫んだ。
「この娘の力を使い、森を乗っ取り、我々はお前を超えた力を持つ!そして世界を……」
「そんなことこの国の国家権力が許さない」
真剣な口調でリリが言う。この国の力が魔女によってどれだけ増大したか、鰐ではわからないだろう。
それが僕やリリ、あの人の悩みでもあるのだけれど。
「人魚君」
「お姉様!わたくし、お姉様に酷い魔法を……」
「それについては後で話そうか」
僕達を囲む森はいつも以上に友好的な空気でなかった。
おそらく鰐達が人魚君を通して魔力を流したのだろう。
考えることはみんな同じだ。
「言っておくけど、森への適正が一番高いのは僕だからね?」
そう言って僕は手を振りかざす。描くは即席の魔法の呪文だ。特に意味はない。おとぎ話みたいでやってみたかっただけ。
おとぎ話の魔女みたいになってみたかっただけ。
「森よ!」
そう言って僕は、自身の全魔力を森に流し、同時に森の膨大な魔力を全て吸い上げた。
「森は僕になり、僕は森になる」
リリの提案は僕も前から考えてはいたことだった。
森と僕の融合。
森の制御のため一番手っ取り早い手段だ。非人道的だけど。
でもどうせ死ぬなら、森を道連れにした方がいい。
そのほうがみんな幸せ、ハッピーだ。
「さてリリ、無力化した連中は捕縛しておいて」
「あぁ。まほろ……」
粒子と化していく僕の姿をリリは悲しげに見ていた。最後は笑って欲しいんだけど。
「大臣への説明は頼んだよ」
「わかってる」
「君に僕の愛する人達の未来を託す」
「あぁ……」
そうして、リリは背を向け去っていった。
さて、僕も別れの時間だ。
僕はただの意識となっていく。人の形を失い、魔女ですらなくなる。
優しい声で呼びかけた。
「人魚君」
「お姉様……」
「一応君の意識はまだここに残しておいたよ。話をする約束だったからね」
「ごめんなさい。わたくし、お姉様が人からの好意に疎くなるよう魔法をかけてもらったんですの」
人魚君の言葉に僕は目が点になる。
「それは凄いな」
「本当にごめんなさい」
謝る人魚君を見ていて僕は不思議だった。
「僕はいつだって君の愛を感じていたのに」
「え?」
「ほらあの指輪とか、プリクラとか、僕はいつだって君の、君達の愛を感じていたよ。きっと愛が大きすぎたんだね」
そう言って僕は笑う。
「お姉様……」
「僕はくすねの信仰にも人魚君の独占欲にも答えられない。だけど二人を愛してる」
「はい」
人魚君はしっかりと頷いた。
「僕達、家族だよね?」
「……えぇ!」
人魚君の瞳から一筋涙が零れる。
そして彼女は現実へ帰還した。




