だいすきっ! だいすき
まるかの一撃は強烈だった。
くすねはあっという間に地面に膝をつく。
「くすね!」
「殺す気でやってないから大丈夫だろ」
ちょっと素っ気ない声でまるかが言う通り、くすねは無事だった。
僕はホッとして彼女の頭を撫でる。
大変なことをした存在だけど、僕にとっては愛おしい人には違いなかった。
「くすね、いけないよ。こんなことをしては……」
「貴方も……大概いけない人じゃないですか」
くすねは苦笑する。その体は消えかかっていた。
僕は驚愕する。くすねとの契約を放棄した覚えはない。
「こんな大罪を犯した使い魔を持っていては国家魔女ではいられません。お別れです、まほろ様」
莫大な魔力を使い彼女側から契約を破棄しようとしているのだ。
聖女様、と彼女は言わなかった。もうくすねは理解している。なのに僕の手から零れ落ちようとしている。
「ちよさんには、負けましたよ。貴方が例え聖女様だったとしても私の物にはならない。あぁ、結局私は貴方が欲しかっただけなんですね……」
「何の話だ?」
心底不思議そうな顔をまるかがする。僕もリリも意味がわからなかった。ただ不死商人だけが沈痛な面持ちで彼女の言葉を聞いていた。
「貴方は聖女様ではないのかもしれません。ですがまほろ様、私の後始末はしていただけますね?」
「わかっている!人魚君はかならず助ける。でもその前に君を……」
堪えきれなくなった感情が僕の瞳から溢れそうになった時、まるかがぶっきらぼうに言った。
「あたいが不死商人もくすねの主も継承すればいいんじゃねーの。どうせ取引は引き継いでるしな」
『えっ』
その場にいた全員が思わず変な声をだす。
重さを理解しているとは到底思えない提案だった。
「くすねを処罰しない代わりに不死商人が善人と代わる。国にとってもいい話だろ」
「た、確かに那波大臣なら受け入れそうな話だ」
リリが苦い顔で頷く。騎士団の彼女はその辺詳しいのだろう。まぁ大臣についてなら僕も大概だけれど。
「よし、じゃああたいとくすねは契約しておくからまほろとリリは人魚のところへ行ってきな!」
「う、うん」
去っていく僕達二人に不死商人は黙って手を振った。浮かべる柔らかい笑顔にはかつての姿はない。力を失った影響だろう。
くすねは複雑そうな表情でまるかと対峙している。
「まるか!」
僕は思わず大きな声をだした。
「ん?」
「僕と幼馴染になってくれて、親友になってくれてありがとう!」
僕の気恥ずかしい言葉にまるかは笑った。
「おうよ!」
その笑顔には何の曇りもなかった。
そして僕は生涯、自分がどれだけ馬鹿か知ることはなかった。




