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だいすきっ! とりひきっ

「まほろ様は私の崇めた聖女様の生まれ変わりなのです」


 違います。

 僕はそう言いたかったし、たぶん周りのみんなもそうだろうけど誰も言える空気じゃなかった。

 くすねは宣言できて満足そうな表情だった。


「私は……私はあの時貴方を殺してしまった。だけどそれは仕方のないことだったのですよ」


 慈悲深いような声でくすねは語る。

 とりあえず僕はくすねが人を一人殺していることはわかった。


「みんなが……みんなが貴方を普通の女の子だって……聖女だなんて狂ってるって」


 だめだ。これは絶対にくすねが悪い話だ。フォローのしようがない。

 僕は耳を塞ぎたかったが勝手にくすねは話を進めていく。


「貴方は今度こそ世界を浄化する使命を果たすのです!」


 そんな使命ないです。


「確かにレディの改変能力とは噛ミ合ってまスネ」

「でもまほろは聖女なんてガラじゃないだろ」

「魔女様呼ばわりですらちょっとなぁ」

「みんな、僕今ピンチだからちょっと黙ってて」


 そもそもこの世界は浄化する必要があるようなものだと僕は思っていない。

 僕とくすねは根本で違えている。

 だから伝えなければならない。


「悪いけど僕は生まれ変わりじゃないし、浄化するほど世界が穢れているとも思っていないよ」


 むしろ僕は世界を美しいと思っている。本当だ。


「では、まほろ様。ちよさんの件は?親御さんは?義理のご両親はどんな方でしたか?」


 畳みかける現実。

 そう僕の言うことは何もかも幻のようなものだ。

 僕とくすねと人魚君。三人の関係のように。


「そして最強の魔女になった貴方に、美しい世界は本当に見えましたか?」


 冷たい目でくすねが言う。


「嘘つきはいけませんよ。本当は世界を変えたいんですよね……私もあのあすみとかいう女みたいに調べたんですよ。あのちよって小娘との事件」

「……」


 そうだ。

 もう僕は思い出している。

 ちよちゃんが一人で飛び降りたこと。

 僕が駆け付けた時にはもう息を引き取っていたこと。

 その時僕の魔女の力が覚醒して彼女を転生させたこと。

 ちよちゃんの家族が後を追ったこと。

 そして僕はちよちゃんと二人で飛び降りて、ちよちゃんは家族とどこかへ消えたことにしたこと。

 記憶も現実もそうなっている。

 だけど本当は違うんだ。


「あの女が転生してどうなったかは知りませんけど、少なくとも家族も小娘自体も死んではいるはずです。ひどい世界ですね」

「……」

「さぁ、まほろ様。世界を浄化してください。なんの穢れもない世界に!」


 僕は押し黙った。

 確かに僕の力ならそれは可能なことなのだろう。

 誰も不幸にならない幸せな世界。

 だけど……。


「ふざけんなよ。あんたら何様のつもりだい?」


 もっともな声をあげたのはまるかだった。


「世界をどうしていくかはこの世界に生きるみんなの行動で決まっていくことだろーが!いくら最強の魔女でもそれは侵せないよ」

「もしもお前のいう浄化とまほろの考える浄化が違ったらどうする?また別の聖女様を探すのか?」

「ンンーそレニ、ソンナコトヲしたらアナタの大切な聖女様は力のツカイスギで壊れてしまいますヨ~」


 三人が口々に言う。


「……」


 くすねは鬱陶しそうに、だけど少し心に効いたようではぁ、と深いため息を吐いた。


「やはりだめですね。私すらもこのままでは穢されてしまう」

「?」

「前世もそうでしたね。周囲の声が貴方を穢した。ただの女に貶めた」


 そう言ってすっとくすねが剣を振り上げる。

 僕は瞬間バリアを張った。


「みんな!」

「くっ流石に強いですね。まほろ様。数々の鰐を取り込んだ私でもまだ足りない」

「取り込んだって……」


 その意味を考える暇もなく次の攻撃が繰り出される。


「はぁっ」


 それはまるか一人を狙った一撃だった。


「やぁッ」


 出現させた魔法の槍でリリがその一撃を払う。

 本気の瞳でくすねを睨んだ。


「一般人をわざわざ狙う必要はないだろ!」

「私嫌いなんですよその女。だって……だってどうせあんたが」

「うるせぇ!!!!!うるせぇ!!!」


 急に騒ぎ出したまるかに僕は戸惑うが、不死商人は何かわかっているのか訳知り顔でまるかをなだめる。


「ご安心を。魔法は強力です。コンナトキですら破れない」

「……」

「何か事情があるのか?」

「ご、ごめん。僕もわからない」


 僕達がおろおろしている姿を疎ましそうに見ていたくすねが次の攻撃に移る。

 攻撃の速さから考えていまだに僕との力の差は歴然だ。

 勝てる。

 だけど使い魔であるくすねを魔力を供給している僕が倒すということは、くすねの死を意味する。

 どうしても思いきれない僕に、不死商人は笑いかける。


「……レディ。ココでひとつ提案が」

「え?」

「吾輩のカカエコンデイル取引をまるかサンに引き取っていただけないデショウカ。報酬は魔力で」

「え?え?」


 まるかは冷静な顔だった。


「その話、乗った」


 そしてニヤリと笑った。

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