だいすきっ! やばやばのやば!
「本当なのか!?」
「先代を拷問シテ得た情報デスので」
「拷問って……」
しかしそうなると不死商人とラインがあったのは人魚君だったということになる。
僕はショックだった。
くすねと人魚君。どちらも無実であることを願っていたから。
どちらが罪を犯してもおかしくない状況にしていたくせに。
「つまり君に誘導したのも……」
「それはゴジブンでサッシてくダさい」
人魚君が間接的に人を殺していた。
自分がどうかされていたこと以上の衝撃だった。
あれ程までに魔女であることにあることに誇りをもっていた人魚君が。
彼女をいたずらに僕が追い詰めてしまったせいで。
とんでもないことをしてしまったのだと僕は今更ながらに自覚した。
胃の中の内容物がぐるぐると回るのを必死で止めようとする。
だけどどうしても止められなくて僕は嘔吐した。
「コレはコレでアリ!!!!」
「アリってなんだよ。そ、そうだ。でもこの間の言い方だと……」
僕が不死商人を問い詰めようとしたときだった。
「レディ、そろソロ事がオキソウナ予感デス」
「え?」
くるりと不死商人が振り向いた先にくすね、まるかとリリがやってくる。
焦りを浮かべたその表情で何かが起きているのだと感じた。
「どうしたんだい!?」
「に、人魚が……」
まるかの言葉の続きを僕は聞きたくなかった。彼女が魔女としての道を逸れたことは想像に難くなかったから。
だけど予想は簡単に裏切られた。
「人魚が拉致された!」
「おそらく、鰐の仕業です」
真剣な二人の声に僕は唖然とする。
「俺の失態だ。すまない、まほろ。人魚を守れなかった」
よく見るとリリの片腕が負傷していた。おそらく人魚君を守ろうとして傷を負ったのだろう。
僕はリリの腕に治癒の魔法をかけながら話を聞いた。
「どうして僕のテリトリーのこの町で鰐程度にそんなことが……」
「それ程の実力の鰐も存在するということでしょう。信じられない話ですが」
「五対一だったとはいえ俺から魔女を……クソっ」
「ヤヤコシイことになってきましたnえレディ」
僕達の間にしれっと混じった不死商人は珍妙な表情で呟く。
「なんで不死商人が」
「アナタがたはもうわかっているハズ。吾輩ソコまで悪人ではアリマセン」
魔女には優れた勘のようなものがある。確かにしばらく接した結果として不死商人が自分たちの敵だとは思わなかった。
「でも一般人には君の取引は脅威だ」
「吾輩がソコマデ元気に見えルト?」
きゅるん、と返した不死商人にリリは納得したようだった。
「こいつ、もうダメなのか」
「ダメって?」
「魔女には偶にいるんだ。強い力を使いすぎて自分で自分をダメにするやつが」
まぁ、たぶん僕もなんだけどね。あんまり使ってる自覚なかったけど、記憶の改ざんならそんなものだろう。
「くすね、僕の力をより強く分ける。人魚君を助けに……」
「はい。まほろ様」
僕に跪いたくすねは真摯な目で言ってくれた。
くすねはいつだって僕に真心こめて尽くしてくれたし、人魚君のことも尊重していた。
だけどたぶん、それはもう過去のことなのだろう。
僕は言いかけた言葉を飲み込んで、正しく言い直す。
「君に人魚君を助けに行かせるわけにはいかない」
まるかとリリも沈痛な面持ちでそれを聞いていた。
「まさか……私を疑ってますー?」
いつもより軽いくらいの調子でくすねは微笑んだ。
「疑ってるよ」
僕は血反吐を吐くような気持ちで言った。
「だめですよ聖女様が……そんな誰かを、よりにもよって私を疑うなんて……」
ゆらり、とくすねが立ち上がる。
聖女様。
いったいくすねは何のことを言っているのだろう。
「なにもかも貴方達が聖女様を穢したから、こんなことに」
影のように漂うくすねの手に黒い靄で包まれた剣が出現する。
「貴方の魂、私が浄化して差し上げますね。聖女様」
ふわりと浮かぶ天使の微笑み。
僕の全身に鳥肌が立った。
今まで僕はずっとくすねについてわかっていなかったことがある。
この女、ヤバイ。