だいすきっ!三人目のヒロイン!?
「えいっ」
「流石ですわ、お姉様!」
最強の魔女らしく今日も町の外に沸いた魔物達を一撃で倒す。
魔物は僕の魔法に包まれて元いた世界へと帰っていった。うむ、一件落着。
「くすね、どうかな。まだいそうかい?」
「いえ。今日はもういませんよ!」
それを聞いて僕はほっと胸を撫でおろす。
「じゃあ、町長に報告にいこうか。二人とも、協力ありがとう」
「そんな、わたくしは見ていただけですわ」
「今日は私はあんまり出番がなかったですねー」
二人はちょっと陰りのある表情で言う。真面目過ぎるのも考え物だ。
でも確かにこれでは修行にならないし、少し考えたほうがいいかもしれないな。
「うん、わかった。じゃあ……今日はもう少しこの森に留まろうか」
『はい!』
嬉しそうな二人の顔は、健気で素晴らしい。
この森は町の外に広がっている小さくて大きな森だ。つまり空間が狂っている。
この国最強である僕がこの小さな町で暮らすことを認められているのもこれが原因だ。
何が現れ、何が流れ着き、何が起こるかわからないこの森の脅威と恩恵にあやかりながら町の人達は暮らしている。
とは言っても僕の力で交通手段は確保されているからそこまで生活の心配はいらないのだけれど。
「魔物はいないけれど、何かが流れ着いているかもしれない。探してみよう」
「何か、というと危険なものですの?」
「単に変わったものもあるよ」
「ゴミや食べ物が流れ着いていたこともありますよねー」
くすねのその言葉に人魚君が目を丸くする。
「意外そうだね。でも食べたりしないから安心していいよ」
「それはわかっていますけれど、どうしてそんなものが……」
「その仕組みを僕は解明したいんだ」
実は解明する方法がないこともないのだが、最終手段なのでほぼ使えないといってもいい。
だから解明したいという趣味と町のためという実益とを兼ねて僕はこうやってせっせと森に通っている。
「そうだ。流れ着く、ものとはちょっと違うけど……」
「おーい。誰かいるかぁ?」
僕の言葉を遮って森の奥から声がした。人間の女の声だ。
「早速人の声だ。何が起きるかわからないから警戒するように」
「はい、お姉様!」
頼もしい人魚君の声に頷くと僕達は声の呼ぶほうへ向かった。
流されてきてしまった漂流者かもしれないし、何か危険なものが人間の声をだして僕らを誘っているのかもしれない。
様々な可能性を考えながら僕は急いだ。
そして
「よっまほろ。相変わらず胸でかいな!」
無茶苦茶に不満な顔をすることになったのである。
「……ただの訪問客じゃないか」
それはよく見知った顔だった。
燃えるような赤く長い髪。黒縁の眼鏡。眼帯。そして特徴的な服装。
「お姉様、この失礼なお方は?」
「人魚様は初めましてですね。まほろ様のただの幼馴染ですよ」
苦い口調でくすねが言う。くすねと彼女は仲が悪いのだ。
「幼馴染!?でも、なんだかまるで……」
「海賊みたい。だろう?」
はぁ、と僕は溜息をつく。
「失敬な。あたいは本物の海賊だよ!まほろ」
「海賊ですの!?」
「自称ね」
「自称ですの!?」
一々驚く人魚君を可愛く思いながら僕は苦笑する。
この女の名前は火野まるか。僕の幼馴染だ。
「まるか。いい年をして海賊ごっこなんて恥ずかしくないのか」
「ふん。こんな若い子達に懸想してるあんたに比べたら全然だよ」
グサッ。
「あらあら懸想ですって!」
「人魚様。まほろ様が悪口を言われているんですよ!」
「まぁ!なんということでしょう」
二人の愛らしいやり取りは永遠に見ていたい。
「あたいはいつか海にでて自由になるのさ!」
「普通に会社やめて起業でもすればいいだろ……」
まるかは普段は普通の会社員でそれなりの位置にいる。
中高では生徒会長だったし、有名大学をでている。つまり学力的にはバカではない。
でもたぶんまるかはバカだ。
「海じゃなきゃ意味がないんだよ!あんたが箒で空を自由に飛ぶように、あたいは海を自由に駆けるのさ」
うん……。
「今回は長期有休をとってきたからね!わざわ空路を使わずにこの森を超えてあんたの町に来たのさ」
「いや、森で迷ってるじゃないか」
「……あれは森の空気を堪能してたんだよ!」
その時だった。
我慢の糸が切れたかのように、僕達の応酬を見守っていた人魚君が急に割って入ってきた。
「危険ですわ。この森には色々あるんですのよ。森で人に何かあれば町やお姉様の評判にも関わります。町長の娘として、この町の魔女として、そして……貴方という人の安全を案ずる人間として見過ごせません」
しんしんと語る中学生の言葉に、まるかはぽかんとしていた。
「あ、あの……すいませんでした」
久しぶりに見た素のまるかだった。
「マジで怒られましたね」
「うん。いい機会だったと思うよ」
僕とくすねが人魚君の成長を感じてしみじみしていると人魚君は我に返ったようだ。
慌てて僕のほうを見て首を振る。
「ち、違うんですの!わたくしはつい……つい、あの」
「君も魔女としての自覚が芽生えているようで何よりだよ」
「いやぁ、人魚様。褒められてよかったじゃないですかー」
まるかは放って僕らは和んでいた。
「くっ。子どもに説教されたあげくまほろに無視されるなんて~っ」
「転がるな転がるな」
地面を転がるまるかを無視したい気持ちをこらえ、僕達は彼女を連れて町へ帰った。
「じゃ、ここでお別れだね」
僕はひらひらと手を振る。
ここは町の駅だ。ここから皆は町の外に出ていく、逆もまた然り。
「ふ、ふんっ!まだあたいの有休、いや航海は終わったわけじゃない!!!!」
「諦めろ。また中学生に説教されて終わりだぞ」
「中学生!?まほろ、あんたそれははんざっ」
「はははっ。人聞きの悪いことを言うんじゃない」
まるかの口を塞いで僕は辺りを見渡す。うん、誰もいない。オーケー。
念のためくすねと人魚君を待機させておいたのは正解だった。
まるかには大半のことはバレている。
僕の楽しみを台無しにされてしまっては困ってしまう。
「あんた、どうせその糞みたいな性根は直ってないんだろう?いつか罰が当たるよ」
「それはそれで面白いと思ってるよ」
「……」
まるかがしばらく黙る。僕を鋭く、それでいて少し困ったような顔で睨んだまま。
こういうのも偶には悪くない。
「やっぱりしばらくこの町に残る。有休残ってるし」
「そうか」
「あんたがどう死ぬのか。確かめてやるよ」
そう言ってまるかは苦笑した。
帰ると当然家には人魚君とくすねがいた。
庭のテーブルには人数分のコーヒーとお菓子が用意されていて、僕は自分が空腹だということに気づいた。
「あの人残るんですの!?」
「えー。最悪」
二人は口々に文句を言い合う。僕はそれをコーヒーを美味しくいただきながら聞いていた。
さて、この最高の時間を台無しにするつもりはないようだ。
まるかがこの二人にこれからどんな影響を及ぼすのか……見せてもらおうか。
また一つ楽しみなことが増えて、今日も僕は幸せだった。
今回はマジでほのぼのです。サブキャラ登場。