だいすきっ! 協力しよう!
あれから僕はちよちゃんを探していた。
とは言っても本人は隠れたいのだろうから大っぴらに探すわけにはいかない。
コソコソと人づてに噂話から住んでいる場所を探して回っていた。
「で、なんで僕についてくるんだい?」
「ンンーそれはアなたが一番ワカっているのでハ?」
妙な口調で話す不死商人に、僕は苦々しい気持ちになった。
ここは町の中心、伝説の勇者像の前だ。田舎といえど人は多く、誰も危険な瞳の彼女に違和感を持たないだろう。
「僕に興味があるんだろう。理由はなんとなくわかるよ」
「えェ!トっつテモワカリヤスイ」
なんだか前に会った時より口調がおかしくなっている気がして一瞬心配になったが、こいつは危険な魔女だ。そんなこと心配する必要はない。
ないのだけれど。
「君、なんか大丈夫?」
結局訊ねてしまった。
僕の愚かな問いかけに不死商人は優しい声で返す。
「いいえ。あナたと同等にハ大丈夫でアリマせん」
「……」
同等。やはりそういうことなんだろう。
「僕は自分の魔法で壊れかけているのか……」
「ドウも無自覚に酷使している様子。んッんー!!!吾輩も自己改造を行いすぎましタ」
不死商人が自身をどう改造したのかは知らないが、僕が自身にかけた魔法はわかる。
おそらく記憶の改ざんだ。
しかも周囲の人間に違和感を抱かせないレベルまで現実を変えてしまっている。
「僕が壊れかけてちよちゃんの記憶が戻り始めているんだな」
「オソラク」
「変えた現実は……」
「最強の魔女であるレディより上の魔女がいれば何かワカるかもしれませんガ」
不死商人は首を横に振った。
それは自分はそうではないという意味なのだろう。つまり僕の知り合いに僕より上の魔女はいなかった。
だから僕の魔法が崩壊したとき何が起こるかわからない。
「誰かに迷惑がかかるのは嫌だな……。またちよちゃんを苦しめるのも嫌だ」
「そのちよちゃんなんですガがガガガが」
「!?」
時空の歪すら感じられる違和感。
突然壊れたゲームのようになった不死商人に僕は息をのむ。
「どうやら発言できない様子、これもマタおそらく現実の書き換え……ン~」
不死商人ですら発言に制限がかかってしまう。これはもはや魔法の暴走だった。
だが不死商人レベルなら書き換えられている、ということは認識できるようだ。
「他に頼れる魔女を作っておくべきだった」
「レディ、自分の実力に無自覚デスね。この件に関してはドウも先代もアヤシイので……現不死商人ノ吾輩と協力スルしかないかト?」
僕は即答しなかった。
殺しに関係する魔女と協力するなんて嫌だ。
でもこのままでは自分が原因で誰がどうなってもおかしくない。
いや、すでに取り返しのつかないことが起きているのかもしれない。
不死商人とは協力するべきだ。向こうから申し出るなんてチャンスはそうそうない。
この星に僕と肩を並べるような魔女は数えるほどもいない可能性が高いのだから。
「……」
「ワカってはいるがどうしてもテイコウがあるお顔」
不死商人は僕を責めなかった。
代わりにこう条件を出してきた。
「デハ、協力をキメタラ吾輩レディに必要な情報漏洩しちゃいマス」
「え……」
それは自分が確実に情報を持っているという宣言でもあった。
「……」
「どうしますカ?」
「……」
僕は無言で頷いた。
それは協力の意思だった。
「デハ、吾輩の先代について情報ヲ」
「……」
無言で言葉を待つ僕に叩きつけられたのは、無情な現実だった。
「先代と人魚サン、取引して貴方……レディに魔法をかけてますヨ」