だいすきっ!間章 その6
まほろが缶ジュースを買いに行っている間の話である。
「親に捨てられた?」
リリの驚いた表情にまるかはしまった、と下唇を噛む。
「上から聞いてなかったのか……」
「いや、性格に問題のある女だとは散々聞かされてたけどそこまでは」
まほろが孤児だという話は聞いたことが無い。国家魔女の中でも最強を誇る有名人であるにも関わらずだ。
「あたいも幼馴染になって初めて知ったんだけどよ……」
ボソッとまるかの口からでた違和感のある一言はリリの耳に入ることはなかった。
代わりにリリは質問を口にした。
「それであんなに人を試すような真似をするようになったのか」
「そういうこと。年下の女の子ってのが謎だけどな。あんたも気をつけな」
自分は対象にはならないだろう。リリはなんとなくそんな気がした。
自分は女の子らしさ、が無い。まほろのような口調だけの少年っぽさではなくもっと古めかしい女らしさがない。
「あいつはたぶん健気な可愛い女が好きなんだよ」
「まぁ、それはある。けどそれだけじゃないけどな……」
まるかは意味深に言ったがそれが通じるリリではない。
「どうせ上からいずれ聞くだろうけど、孤児院にいた期間は短かったんだ。その後親戚の夫妻に引き取られてな」
「……」
暗い表情にリリは思わず身構える。最悪の想像をしてしまった。
「そこから高校生になるまで、家族にはいい思い出も悪い思い出も、何もなかったらしい」
「え」
「夫妻は親になれなかったんだろうってまほろは言ってたな」
「そんな」
親に捨てられた子どもが過ごす無味無臭の数年間を想像し、口の中が苦くなる。
それならなぜ引き取ったりしたのだろう。
孤児として施設で暮らせばもっと違う日々があったのではないか。
ふと、リリはまほろが孤児院などに寄付をしているという話を思い出した。
ひょっとしたら、と思った瞬間にまるかから語られる物語は運命の瞬間を迎える。
「でもそんな夫妻に子どもが生まれることになって……まほろは高校生の時寮に入ることにした」
リリはハッとする。
「そこで起きた事件は知ってるな?」
「今は行方不明になっている府付ちよさんとの心中事件……。あまりにも大きな力の誕生で詳しいことは国も把握しきれていないけれど」
「……そうなってるのか」
なぜか残念そうにまるかは項垂れる。
「夫妻は最初は鼻高々だったそうだけど……ここからはあたいも知らない。でも国がまほろの過去についてあんたにすら情報統制してるってことは」
「まさか」
まるかは寂しい瞳で自分の手をさすった。
「人間なんて、何をするかわからないもんだ」
「でも彼女は誇り高き魔女だ!」
リリは思わず大声を出しそうになったのを堪えてしっかりした声で言った。
性格の異常さは散々聞いてきたが、その偉業も確かに聞いてきた。
「そうだといいな……」
力ないまるかの声は、祈りにも似ていて、リリにはどうしようもできなかった。




