だいすきっ!間章 その5
人魚の親はこの町の町長夫妻だった。
忙しいのはいうまでもなかったが、それが当たり前だったために人魚は特に寂しい思いはせずに成長した。
夫妻が接することのできる短い時間で愛情をこめて育てたということもあるし、人魚自体がしっかりした子どもだというのもあった。
友達は少なかったが親しくしていたし、一人の時は大好きな歌を歌って楽しんでいた。
そんな中人魚が六歳の時、町にやってきたのが羽柴まほろ。成長する森に対応したこの町に属する新しい国家魔女だった。
いつものように人魚は一人で歌を歌っていた。
そんな時だ。空から舞う様に箒に乗った魔女が降りて来たのは。
「やぁ。美しい歌声だね」
美しいのは貴方の方だ。すぐにそう言えていたら、人魚には違う未来があったのかもしれない。
しかし人魚は少女だった。恥ずかしがって何も言えない。
夫妻と魔女の温かな交流から恥じらいは初恋となるのに時間はかからなかった。
「お姉様!」
「どうしたんだい。人魚君」
「わたくしお姉様が大好きですわ」
「うん。僕も大好きだよ!」
明るい笑顔。
まったくわかっていない笑顔。
幼い少女の初恋はまったく相手に通じていなかった。
どうしたらわたくしの気持ちはお姉様にわかってもらえるんだろう。
そう思っていた矢先、使い魔のくすねがやって来た。
くすねは自分よりずっと大人に見えた。
そして自分と同じようにまほろのことが好きだった。
どうしたらわたくしの気持ちはお姉様にわかってもらえるんだろう。
「ねぇ、この未来の魔女さん。アたくし……今代の不死商人と契約してみない?」
人魚は自分に魔女の素養があることをその時知った。
あらわれた女は自分を森のある町の娘ということで興味を持ったようだった。
「あの魔女にはアたくしもちょっかいをだしてみたいの。どう?他人からの愛情に鈍いという属性を付与するというのは」
「は?」
自分の願いと真逆の提案に人魚は目を点にした。
「だってあの魔女から何かを奪うなんて無理ですもの。だったら逆に与えて一時的に誰の物にもできないようにするしかないじゃない。まー大人になった後はアなたの行動次第よ。アたくし、不死商人はもうすぐたったら廃業なの。うまくいけば属性を破棄できるんじゃない?」
なるほど。それなら少なくともくすねや他の人間たちにはまほろを奪われないで済む。
属性も破棄してしまえばいい。
人魚は少女らしく軽く考えた。
そして、愛らしい歌声と引き換えに人魚はまほろを愛情に対し鈍感にした。
それが人間とってどれ程の苦痛を与えるかなんて、愛されている少女にはわからないことなのだ。




