表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

だいすきっ!間章 その4

 時は少し遡る。


 気が付くとある森に封印されていてから、もう何年になるだろう。

 くすねはもう年月を数えてはいなかった。

 ただの女子高生である自分が仰々しく封印されている状況は、悲しくもおかしくもある。

 なんでも自分は町を焼いて回り、国に反逆する恐ろしい魔女らしい。

 もちろん実際はそんなことはしていない。

 くすねは魔女ではないし、そもそも生まれてから殺しは一度しかしていなかった。


「聖女様……」


 いずれ来るその日を夢見てくすねはうっとりと眠る。

 あの子は私の聖女様だった。なのに既に穢れてしまっていた。でも、大丈夫。

 いつか時は訪れ、再び聖女は現れる。くすねはそう信じていた。

 聖女が現れた時、世界は浄化され、きっと自分にかけられた嫌疑も晴れるだろう。

 だから何も恐れることはないのだ。


「……」


 愛する親友……いや、敬愛する聖女を刺したその感触は今でもこの手に残っている。

 彼女を穢した者たちが何より憎くて憎くてしょうがなかった。

 この世界を浄化する聖女が穢れていていいはずがない。

 それなのに奴らは彼女を穢した。

 あの高貴なる精神をただの人間風情に貶めたのだ。

 許せなかった。

 できることなら奴らも殺してやりたかった。

 だけど自分は封印されてしまった。まさかの人違いで。

 おそらく件の魔女、最近ではああいう魔女を鰐というらしいが……その魔女は今でも暴れているのだろう。

 ひょっとしたら自分が目覚める時人類は殆ど滅びているのかもしれない。

 それはそれで浄化しやすくて聖女様も助かるだろう。くすねは少し笑った。


「おーい」


 声が聞こえた。

 それは女にしては低い声で、男にしてはずいぶんと澄んだ声だった。


「酷い状況になっているようだけれど、大丈夫かい?」

「いえ、あまり気にしていませんので」


 突然のことすぎて、くすねは普通に答えてしまった。


「そうかい。君は優しいんだな」


 そう言った声は優しくて、なんだかとても懐かしかった。


「申し訳ないが、僕の調査によると君は人違いで封印されているらしい。本当にすまない」


 どうしてこの人は謝るのだろう。自分が封印した訳でもないのに。


「そこで提案なんだが……どうだい?このまま封印を解いて世を離れるより、僕の使い魔として第二の生を謳歌してみないか」


 あぁ、とくすねは溜息を吐いた。

 いつか時は訪れ、再び聖女は現れる。くすねはそう信じていた。

 聖女が現れた時、世界は浄化され、きっと自分にかけられた嫌疑も晴れるだろう。

 だから……だからやっぱり、何も恐れることはなかった。


「私は……私はくすね。今日から貴方の使い魔です」


 そう言った瞬間、澱んだ視界が開け、緑の森と一人の女性の笑顔が目の前にあった。


「僕はまほろ。羽柴まほろだよ。ありがとう、くすね」


 聖女様。貴方は私を迎えに来てくれたのですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ