だいすきっ!ちょっとポンコツ
「言っておくけどこの状態、全部まほろが悪いからな」
「よく今まで刺されなかったなこのクソ女……」
あれから一週間、僕は新しく家に加わったまるかとリリになじられ続けていた。
不死商人は僕や町に敵意はない、と一応判断しあすみの件でのみ追うことになったのである。それでリリはこの家で活動を始めたのだ。
意外だが彼女は僕の話をそれほど上司から聞いていなかったらしい。一応護衛対象であるまるかから僕のゴミカスみたいな性癖を聞いてげんなりしていた。
そして僕は二人から人魚君とくすねがいないときにボロクソに言われることになった。
「可哀想だよなァ、女子中学生と実質女子高生なんだぞあの二人。そりゃあ悪事に手を出してもおかしくないさ」
「まだ手を出したかはわからないよ!」
「不死商人を信じたくはないが、辻褄は合うな。お前のためにあすみを殺されるように不死商人に誘導した」
「……」
確かにそうだ。
僕とあすみの様子を見て先走ったどちらかが不死商人とコンタクトを取り、取引を促した。
ただどうやって神出鬼没ともいえる不死商人とコンタクトをとったのかは謎になるのが救いで、そこはまだ確定といえなかった。
「そう、あの子たちが不死商人と知り合いって可能性は限りなく低いじゃないか!」
「魔女と魔女ならどう知り合ってもおかしくはない。皆がお前みたいに魔女として品行方正じゃあないんだ」
リリにきつい口調で言われ僕は口を噤んだ。
リリは人魚君を強く疑っていた。魔女、という言い方はそういうことだろう。
普段は鰐の連中を相手にしているリリにとっては仕方のないことだけど、人魚君は僕以上に魔女らしい魔女だ。
そんな彼女が不死商人を利用したりするだろうか。
「怪しいのはあの使い魔だろ。あたいのことすら警戒してるからな。あすみなんてどうしてもおかしくないよ」
対してくすねを疑っているのがまるかだ。
長い間封印されていたくすねなら、不死商人の興味を引いてもおかしくはない。
だけど不死商人と他の魔女の使い魔が人の生死に関係することにまで深く関わるというのは聞いたことがない。
それにくすねは僕の使い魔としての誇りがある。他の魔女の力に頼るのだろうか。
という訳で僕はどちらのことも疑いたくなかった。
「はぁ~」
「言っておくが人が死んでるんだからな。被害者の素行には大きく問題があったようだが……それでも殺していい理由にはならない」
「……」
まるかが複雑そうな顔で黙る。
リリの言っていることは正しい。
あすみの為にも、これ以上の被害をださない為にも僕達は危険な人物はかならず見つけなくてはならない。
もしも不死商人を誘導した人物がいるのなら不死商人共々しかるべき処置をすべきだ。
「でも……二人を疑っても納得ができないんだよ」
「それは、確かに……」
二人にそこまでのあすみに恨みがあるとは思えない。
むしろあすみに恨みがあるのは……。
「!」
「どうした」
僕の頭に突然電撃のような痛みが走った。
だがそんなことはどうだっていい。僕は大変なことを見逃していた。
「ちよちゃんだ!」
「え?」
「誰だ。ちよって」
まるかが口をあんぐり開き、リリが訝し気に僕を見る。
ちよちゃん。あの後輩の名前だ。
あれから行方がわからない彼女、あの子ならあすみに恨みがあるだろう。
そして、彼女が関わっていると考えたならあすみの父親が必死にもみ消しを図っている理由もわかる。
今の今まで何故か名前を忘れていた。あの子のことになると僕はいつも以上に鈍感になる。
「ちよちゃんなら明確な動機がある」
「ん……でも一般人か魔女かどっちだ」
「あの時のことを考えたら一般人。だけど……僕が魔女になった原因の子なんだ」
「なるほど。それなら不死商人が興味を抱いてもおかしくないか」
僕とリリが話を進める中、まるかだけが呆然としていた。
「あー……」
「どうした、まるかさん」
「いや、何でもない」
頭をかくまるかを放っておいて、僕とリリはちよちゃん捜索について話し合うのだった。
目の前にいるまるかこそがその『ちよちゃん』だとも知らずに。




