だいすきっ!最後のヒロイン? 後編
まるかがいなくなり、リリと僕は魔法を行使し町全てを探すことになった。
だけど見つからなかった。
つまり僕より上の魔法が関わっている。
「不死商人が噛んでるな。あいつ、あんたより上の魔女とか化け物だろ」
リリが吐き捨てる。
だけどこちらには違和感があった。
「直接顔見せならともかく、僕のいないところで一般人のまるかを誘拐なんて……やることがセコすぎて噂に聞く不死商人とずいぶん違うような」
「じゃあ鰐の連中か?魔女の犯罪者集団があの人を攫う理由なんてないぜ」
そう言われて僕は言葉に詰まる。
確かに普通なら魔女の犯罪者の寄せ集め集団がまるかを連れていく理由なんてない。
だけど逆ならどうだろう。
まるかは結構お金稼いでるから鰐の誰か魔女を護衛につけて「これでいいだろ!」なんていう可能性も捨てきれない。
「……」
「なんだなんだ。その微妙な顔は」
僕は正直にリリに予想を話した。
「いや……あの人真面目そうだしいくらなんでもそれはないだろ」
「でもこの町にも森を越えて来たんだよ……?」
「本当か!?」
驚愕の表情になった後、リリはしばらく黙った。
呆れているんだろうか。それとも自分がしばらくまるかと付き合っていかなくてはならない現実と戦っているんだろうか。
「森か。そういえば殺人の被害者の不死商人との取引は森で行われたかもしれないって言ってたな」
「うん」
「でもそこではあんたに何もしてきていない。流石の不死商人も森であんたの相手はしたくないのかもな」
「あー……」
確かに捻じれた森で僕に勝てる魔女がいるとは思えない。
僕に地の利があるということか。
「じゃあ森にはいなさそうだな。今度は魔法じゃなく足で町を探そう。念のため鰐の連中について他の騎士団にも連絡を取っておく」
「ありがとう、リリ」
「仕事だからな」
そう言うとリリはスマートフォンで仲間に連絡を取り始めた。
鰐が関係してこないといいんだけど。
そんなことを考えながら僕も人魚君に連絡を取ろうとした時だった。
「おンやァーッ!?レディ、その御方はどなたデ?」
後ろから聞き覚えのある少女の声がした。
「不死商人!?」
「え、不死商人っ!?」
慌てて振り返った僕と思わずスマートフォンを落とすリリ。
そこには不死商人とまるかがいた。本当に普通に、当たり前のように。
「ンーッこれはコレハ失礼。吾輩不死商人。今日ハお詫びがアッテ参りましタ」
そう言う不死商人の手にはピンクの紙袋があった。
たぶんこの辺にあるデパートの物だ。
「偶然こいつにあったからさァ。不死商人だって名乗るから言ってやったんだよ!お前のせいで女の子やまほろが大変なことになったって」
まるかは厳しい顔つきで言っているが、僕の頭の中は真っ白だった。リリも多分そうだと思う。
偶然とか言ってやったとか、あり得ない言葉が並んでいる気がする。
「吾輩反省反省。ですからァ!あの店員さンの心には再ビ目覚めテ頂きましタ。今お詫びも致したところでス」
「ま、マジかよ……」
リリが呆然と呟く。
一度かき混ぜられた魂をここまで早く目覚めさせることができる魔女の医者がこの世界にどれくらいいるのだろう。
僕はまだ会ったことがない。
それとも目の前のこいつがそうなんだろうか。
「そしてレディ、貴方にモ」
そっと紙袋から取り出されたのはキャラクターの模様のハンカチだった。
見た目通りの小学生らしい行為に逆に恐怖を覚える。
「……」
「無理だよ。まほろはお前を信用してないからな」
まるかの鋭い声に不死商人は露骨に口角を下げる。
「そうですカ……では信頼して頂ク為に一つご忠告ヲ」
今度はニッコリと笑って、不死商人は言った。
「レディ、信頼するなラァーっ!この二人がおススメ」
「は?」
「え」
まるかとリリがそれぞれ戸惑った声をだす。僕も意味が分からない。
「吾輩の存在なンて大しタ問題ではなイのでス!信頼すべキ人を選べバ……フフフ」
「どういうこと……」
「この間ノは事故!ミス!過失!レディ、貴方ノ敵は……モット近くニ」
優しい声で喚く意味の分からない言葉に思わず問い詰めようとしたその時だった。
「お姉様!」
「まほろ様!」
人魚君とくすねの声が近づいてくる。
「おぉッとそれでハ、失礼」
また不死商人が背負っているランドセルが開いたので身構えたが、今度はランドセルの中に自ら入っていった。
「アデュー」
不安の種を残せるだけ残して、不死商人は再び目の前から消えた。
「大丈夫ですかお姉様!」
「アレが不死商人ですか、まほろ様。確かに子どもに見えますね」
駆け寄ってきた二人は汗を浮かべ、本当に心配そうな顔をしている。
だけど僕は一瞬言葉がでなかった。
もしも僕達が本当に幸せな三人だったら……きっと不死商人の言葉なんて何でもなかっただろう。
だけど二人の気持ちを心の中で裏切っている僕には、どうしても棘の様に刺さって抜けない。
ひび割れた幸せの中でも、僕らは笑うことができるんだろうか?