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だいすきっ!最後のヒロイン? 前編

 不死商人の襲撃から数日。

 誰も僕の致命的な失態を責めなかった。あの僕のせいで正気を失った少女の両親さえ。

 それだけ自分が町の人々から慕われているのだと思うと、悔しさは何倍にも膨れ上がる。


「お姉様。お気持ちは痛いほどわかります……ですが、相手はあの不死商人だったのです」

「いくらまほろ様といえどどうにかできたとは思えません」


 人魚君とくすねは沈痛な面持ちで語りかけてくれるが、僕はいまだに自分の中の慢心を処理できずにいた。

 もっと早く気付くことができたのではないか。

 彼女だけでも逃がせなかったのか。

 もしできていたとしても不死商人は別の手段をとっていただけ。わかっていても納得できない。

 

「あの子はおそらく僕への見せしめで巻き込まれたんだ」

「そうだろうな」


 苦々しい表情で頷いたのはまるかだ。気を遣ってくれたのか彼女は珍しく僕達の家に顔を出している。


「全くふざけた奴だよ。戦いとは無関係な一般人を巻き込むなんて」

「国一の魔女というだけでまほろ様は権力争いとは無縁の無欲なお方。いったいどういう理由でこんなことをしたのでしょう」

「……」


 心配そうに顔を突き合わせる三人。

 これ以上心配はかけたくない。けれどこれはもう国に報告したことだ。いずれ知ることになる可能性はあるだろう。

 それに今後のことを考えたら彼女達は知るべきだ。


「どういう意味かはわからないが、僕はあいつに気に入られたらしい」

「はぁ!?」


 三人が一斉にこっちを見て怒ったような声をあげる。

 無理もない。僕が目を付けられたということは周辺にいる彼女達にも多大な迷惑がかかるのだから。


「どどどどういうことですの!?話が違いますわ!」

「不死商人とかいう汚れた女……ますます気に入りませんね」

「どうする?今から殺りに行くか?」


 可哀そうに人魚君は動揺してしまっている。これからの戦いは彼女にとっては厳しいものになるだろう。対策を考えねば。

 くすねは目が怖い。だけどここまで不死商人相手に闘志を燃やせるのは凄い。とても頼りになる。

 そしてまるか。君は魔法が使えないんだから無茶をしてはだめだ。


「申し訳ないけどまるかは安全を考えて魔女騎士団の人に安全な場所に隔離してもらう」

「はァ?あたいは戦うぞ。なんといっても海賊だからな!」


 訳のわからないことを言っているが魔女騎士団にはすでに連絡済みだ。おそらく今日中には強制的に避難させられるだろう。

 魔女騎士団。戦闘能力に優れた魔女達の警察のようなものだ。

 国家魔女とはまた違った形で人々に尽くす彼らを僕は信頼している。

 きっとまるかのことも守ってくれるだろう。


「くすねは僕と共に町を守ってもらうとして……人魚君、どうする?」

「あたいも一緒に戦う!」

「わたくしは……わたくしはお姉様とこの町のため戦います!」


 人魚君は凛とした声で背筋を伸ばして宣言する。

 その瞳はなんだか射抜かれるようで僕は目が離せない。


「あの……あたいも……」

「はい。では三人で強敵と戦いましょう!まほろ様」


 明るくふるまうくすねに僕と人魚君はぎこちなくも笑って見せる。

 まるかは何というかごめん。気持ちは嬉しいけどこれは一般人を巻き込める戦いじゃない。


「まるか、本当にすまない。でもこれは危険な戦いなんだ」

「うぅ」

「おそらく一般人であり幼馴染であるまるかさんは真っ先に狙われるでしょうし」

「最初に狙われなかったのが不思議なくらいですわ」

「うぅ~」


 本気で落ち込んだ顔に僕は胸が痛む。

 けれどもうこれ以上僕は……僕は……。

 僕はなんだ?


「あ……あれ……」


 ぐにゃりと歪む景色。

 どろりと何か溶けてはいけないものが溶けていく。

 そういえば……ちよちゃん……。




「まほろ姉ちゃん!」

「ん、なんだい」

「今度の大会、絶対出場できるように頑張るから応援して!」

「ははは。僕はいつもちよちゃんを応援してるよ」




 気が付くと白い天井が広がっていた。


「病院?」

「大丈夫か、先生」


 聞きなれない声に横を向くと、そこには魔女警察の制服に身を包んだ女性がいた。

 成人はしているだろうが、肌も声もまだ若い。

 金髪の長いサイドテールが余計に彼女を若く見せているのかもしれない。


「ひょっとしてまるかを迎えに来た……」

「魔女警察。俺は大河リリだ。よろしく、先生」


 お嬢様っぽい見た目に合わない口調に一瞬気をおくれしそうになるが、僕自身も相当なインパクトがあることを思い出す。

 まだ少し頭が痛いのを堪えて僕は笑顔で握手を求めた。


「僕は羽柴まほろだよ。よろしく、可愛い騎士様」

「それ、セクハラ」


 え?


「色々と調子に乗りすぎだろ、あんた」


 そういうとリリはスマートフォンをだして弄りだした。

 まるで僕には何の興味もないという顔で。

 こんなこと……こんなことある!?

 子どもの頃から皆の姉と慕われ国一の魔女と呼ばれるこの僕が!セクハラ呼ばわりされたうえに握手すら……握手すら断られるなんて!

 

「う、嘘だ……こんなこと……」

「フン。こんな奴のなにがいいんだか」


 そう吐き捨てるとリリは部屋を乱暴に出て行った。窓から。

 結局僕はなぜ自分が倒れたのかもわからないまま病室に取り残された。

 え?

 ひょっとして……僕の魅力衰えてる?

 羽柴まほろ三十四歳。

 ありとあらゆる意味で、危機を迎えていた。

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