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だいすきっ!お揃いの指輪

創作百合キャラたちをようやく動かしました。

VRoidは

https://hub.vroid.com/users/147848

超短編ゲームは

https://game.nicovideo.jp/atsumaru/externals/thumb/gm15422

ちょっと毒があったりギャグだったりゆるかったり感動だったりする彼女たちの日常を描いていきたいなーと思っています。

 僕は羽柴まほろ。34歳。この国最強の魔女だ。


 18歳の時に力に目覚めて以来、ずっと好き勝手に生きさせてもらっている。

 そんな勝手な僕にも大切なものがあるんだ。

 例えばこの町だ。この僕が住んでいる町を僕はとても大切に思っている。町の人達も僕を慕ってくれている。最高に幸せなこの町。

 そして人魚君とくすね。

 人形人魚はよく僕の面倒をみてくれている人形町長の愛娘だ。とっても可愛い。

 くすねは僕の使い魔だ。とっても可愛い。

 そして二人とも僕を愛している。

 僕は幸せ者だ。

 ハッピーラッキー最高!

 

 これは、そんな幸せな僕の幸せなだけの何の変哲もない物語である。



「お姉様っ!」

「なんだい。人魚君」


 僕はくすねに切ってもらったザクザクのおかっぱ頭を指でいじりながら答えた。

 だいたいどんな用事かは予想がつくけれど僕は彼女から聞きたくてわざとタブレットを触って何も知らないふりをしている。


「お姉様っ。くすねったら酷いんですのよ」

「おぉ、どうしたんだ」


 ふふふ、と心で笑いながら僕は返事をする。


「くすねがお姉様とこの間わたくしが授業だった日デートしたって!わたくしに嘘をつくんですの……」


 満月色の瞳をちょっとだけ滲ませてにんぎょ君が縋り付いてくる。

 それを愛おしく思いながら、僕は彼女の若葉色のショートカットを撫でる。

 14歳の身で魔女の力に目覚め、僕との魔女の修行や仕事で学校に行くことも同年代の友達と遊ぶことも満足にできない。それでも文句ひとつ言わずに頑張っている大切な僕の弟子。そして何よりも師匠である僕を慕ってくれている。

 僕はそんな人魚君が持っている幼稚すぎる独占欲が好きだ。


「すまないね、人魚君。それは嘘じゃないんだ」

「えっ」


 僕はわざと申し訳なさそうな声をだしながらタブレットを滑らせる手を止める。同時に人魚君の時間も止まった。

 じわり、と潤む瞳。きゅっと結ばれた人魚君の桜色の唇に僕はそっと指を当てた。

 タブレットは床に落ちたが、セールで八千円だったからいいや。


 「ごめんよ」


 人魚君は涙がこぼれるのを必死にこらえている。

 彼女は現役の中学生だ。毎日学校に行けるわけではないが、僕は余裕を持って行ける日はかならず学校に通うように彼女に言ってある。

 彼女の知らない僕とくすねの時間。それが僕自身から与えられていることがきっと不安で寂しくて仕方がないのだろう。

 だけど学校に行くことは人魚君は元々大好きだったはずだ。長い目で見ればこれは彼女にとっていい選択だろう。

 そういう建前になっている。


「お姉様はわたくしよりくすねがお好きなのですか?」

「そういうことじゃない。僕は二人を平等に大切に思っているよ」

「じゃあどうして?」


 人によっては面倒に感じるだろう質問も僕はゆっくりと噛み締める。


「可愛い君の妬く顔が見たかったからさ」

「えっ」


 もちろん、くすねにはくすねで別のことを言い含めてある。

 だが人魚君は僕の言葉をあっさりと信じた。そういう風になっている。

 当然のことのように白かった頬を少女らしく染めながら僕にはにかんでみせてくれた。


「お姉様ったら、本当に意地悪」

「あはは。そうだね。でもほら、機嫌を直してくれるようにコッソリこれを買っておいたんだ」

「こっそり?」


 僕はくるりと踵を返すとチェストの引き出しの奥に手を入れた。


「まぁ!」


 僕が何かを言うよりも早く、覗き込んだ人魚君が小さく歓声を上げる。

 それは人魚君の指にも嵌る小さな金の指輪だった。


「僕とペアなんだ。魔法はすでにかけてあるから魔女としての道具も兼ねているよ。受け取ってくれるかな?」

「えぇ、もちろんですとも……」


 うっとりと魅入られるような瞳で人魚君は指輪を受け取った。


「ただくすねが妬くといけないからね。ネックレスにして隠しておこう」

「えぇ!二人だけの秘密ですわね」


 そう言った人魚君は本当に嬉しそうだった。ここまで喜ばれれば僕も送った甲斐があったというものだろう。

 少し大人びた顔立ちの人魚君だが、小柄な体で上目遣いをして笑うと少女らしくてとても可愛い。抱きしめてしまいたくなる、まるでくたくたになったぬいぐるみのような愛おしさだ。


「お姉様がわたくしとお揃いのリングを首から下げていてくださる……幸せでいっぱいですわ。ありがとうございます」

「僕も君から幸せを与えられたよ。ありがとう、人魚君」


 僕はもう一度人魚君の優しい若葉色の髪を撫でた。もう時間は夕方だ。

 夕陽の光に、僕は彼女の笑顔を思い出していた。






「あら、そのタブレット。凹んでしまいましたか?」

「あぁ……そうなんだ。うっかり落としてしまってね」

「安物とはいえ、大事にしてくださいよ!まほろ様」


 人魚君が上機嫌の夕食が終わり、くすねと二人の夜になった。あれほどまでに僕とくすねが二人になることを警戒しているのに人魚君はすぐに寝てしまう。本当に子どもだ。

 くすねは空と海の色の髪を輝かせて、ちょっと叱るような口調で僕に言った。


「くすねの髪は綺麗な色だね」

「そんな、褒めてもタブレットの件はいけませんよぉ」

 

 そう言いながらもくすねの頬は赤くなっている。可愛い子だ。

 この子は15歳で亡くなりこの地に人違いで封印されていた子で、正直どんな怪異になっていてもおかしくない境遇だ。だけれど明るくてとてもいい子で、僕の使い魔になってくれた。そして何よりも助けた僕のことを慕ってくれている。

 僕はくすねの僕への献身的な愛が好きだった。


「そうだ。この間の買い物は楽しかったね」

「えぇ。私、思わずデートだったって人魚様に嘘ついちゃいました!悪いことしたかな?」


 悪戯っぽくにんまりと笑ったくすねに、僕も悪戯っぽく笑い返す。


「本当に嘘?」


 わざといつもより低い声で言うと、戻っていたくすねの頬が先ほど以上に赤くなり肩がびくりと震える。

 それが子猫みたいで可愛くて可愛くて、僕は思わず笑ってしまう。


「はは、ごめん。意地悪だったね」

「もーやめてください!本気にしちゃいますから」


 そう言うとくすねはばたばたと階段に向かおうとする。

 いつもは迫ってくる癖に迫られると逃げ出す。くすねの愛いところだった。


「こらこら。話は終わってないよ」


 僕は離れていく手を取り、少しだけくすねを引き寄せた。

 そしてするりとその手に用意しておいた物を握らせる。


「あっ」

「これ、この間買っておいたんだよ」


 僕がそう言うと、くすねの顔から声にならない喜びを感じた。

 くすねに僕が渡したもの。

 それはくすねの指にちょうどいい金の指輪だった。


「僕とペアなんだ。魔法はすでにかけてあるから使い魔としての道具も兼ねているよ。受け取ってくれるかな?」

「も、もちろんです!嬉しい。まほろ様、私本当に嬉しいです!」


 先ほどまでの軽い口調はどこへやら。

 一転してくすねは恭しく頭を下げ涙を流した。


「まほろ様はいつも人魚様を気にかけていて……。私より人魚様をお好きなんだと……私はずっとそう思っていました」

「そんなことないよ。僕は二人を平等に大切にしている」

「わかっています。でも、でも私、まほろ様が本当に好きで好きで……だから、不安で……」


 潤む空色の瞳にぎゅっとくすねを抱きしめてあげたい気持ちになる。

 だけどそんなもどかしい甘美な思いは味わうように噛み締めて、僕はくすねに微笑みかけた。


「その不安を人魚君に味合わせてはいけない。優しいくすねならわかるね?」

「はい。この指輪は、見えないように首飾りにしておきます」


 きらりと魔法でくすねは鎖を作った。


「どうですか?まほろ様!」

「とてもよく似合っているよ」


 涙の跡が残る顔には静かな笑顔が浮かんでいる。捨てられた子猫のような健気な笑顔。

 まるで夕方の太陽のような温かさで、僕はいとしさに胸がはちきれんばかりだった。

 嬉しそうに去っていくくすねを見送りふと窓に目をやると、あの子の瞳のような満月が浮かんでいた。






「お揃いの指輪だね」


 僕は洗面所の鏡に映った自分の金の指輪を見ていた。

 念のため魔法で認識しあえないようにしているが、お互いに彼女達が見せることもないだろう。

 ああ見えてあの二人はとても仲良しだから。

 きっとお互いを気遣って見せない。見下して見せない。そんな自分に安心して嫌悪してぐちゃぐちゃになる。

 そこまで誰かのために自分の気持ちをかき乱せるのは本当に気持ちがいいだろうな。

 感情がないなんて死んでいるのと同じだから。

 彼女達は今、生きているんだ。

 そしてそんな彼女達の愛情を啜って狂喜する僕もまた生きている。

 

 あぁ。僕は幸せ者だ。

 そしてきっと、彼女達も幸せ者だ。

 これはそんな、とてもとても幸せな僕達の魔法の物語。

すいません。

今回は完全に毒です。

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