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理滅のヴァイオネット  作者: 柊 シュウ
7/7

#006




 虚獣の攻撃を防ぎ安息を得たかに思えたがそれは束の間であった。


 「目標まで距離12000。砲兵隊、撃ち方始め」


 ヘッドセットには、キーロフコントロールからの攻撃命令が聞こえた。

 壁上の砲は、高角砲だの榴弾砲だのは関係なしにそのすべてが砲声をとどろかせる。

 あたりには、濛々とした煙と硝煙の匂いが立ち込める。

 双眼鏡で、目標を見れば虚獣の周囲の土を抉るように着弾している。

 高角砲は、地上を侵攻する虚獣の上空にいるガーゴイルタイプの虚獣に向かって吠えている。

 こちらは、的となる虚獣の数が多いだけに一定数の命中弾を得て確実に虚獣の数を減らしていた。

 といっても、数があまりにも膨大なので全体に与える効果については不明だ。


 「地上標的、依然として前進を継続中っ!!」

 

 双眼鏡を覗くとカテゴリー2のガーゴイルタイプの七体余りが健在で接近してきている。

 ガーゴイルタイプは、カテゴリーが低いものの、その肉体は強靭で高角砲の88?弾程度は、跳ね返してしまう。

 榴弾砲は155?弾であるが、これでも一発では倒しきることは難しい。

 威力と破壊力のある155?徹甲弾でも最低15発は命中させなければ倒すことはできない。

 

 「防衛指揮所より、キーロフコントロールへ。榴弾砲による砲撃開始より十分が経過したが効果なし」


 悲鳴にも似た状況報告が上がっている。


 「対応策については現在検討中。しばしの間は、命中を期して砲撃に望んでもらいたい」


 時速40?/hの速度で侵攻してくるガーゴイルタイプの虚獣には、一体の損害を出すこともできないまま既に砲撃開始時の距離の半分の6?まで接近を許していた。

 それは、地上の虚獣の上空にいるカテゴリー1の飛翔物体に対しても同じことが言えた。

 一向に数の減らないそれも、防壁上まで残り6?に、迫ってきている。

 

 「減らねーぞ。どうなってんだ!?」

 

 リーヴァイスさんが不満げに上空に対して砲撃をしている。

 

 「シン君、心力に余裕はありますか?」


 周囲に漏れずフィリアさんも疲弊の色が濃いが、それでも心配してくれている。

 心装武具のエネルギーたる心力は、行使者の心の状態にかかっている。

 榴弾砲以外の心装武具を含む火器は、防空戦闘が命じられており第一次の攻撃からの疲労が心体ともに溜まっており心力は著しく減衰している。


 「防空戦闘なら継戦可能です」


 心配させないようにそう言うものの、あまり長くは続けられないだろう。

 フィリアさん達は、心装武具が近接戦闘向けなので防空戦闘では役割がないので他の防衛隊の人たちを励まして回っているが、戦わないにしろ周囲の状況は心力に大きく影響する。

 

 「目標まで距離5000!!」


 榴弾砲は、命中弾を得るものの攻撃目標の撃破には至らない。

 

 「防衛指揮所より、キーロフコントロール。攻撃対象、依然として撃滅できず」


 防壁上で戦闘を行っている防衛隊員は顔に焦りを浮かべている。

 ここで、敵を食い止めなければ自分たちの生命が危ういからだ。

 一般市民を守る盾である以上、ケルンがそうであったように後退命令が出されることはないだろう。

 そのとき、ヘッドセットに、キーロフコントロールからようやく督戦以外の声が聞こえた。


 「――防衛隊各員に告ぐ。これよりSSMによる攻撃を行う」


 ※SSMは正式名称でsurface-to-surface missileつまり地対地ミサイルのことで地上目標に対し地上から発射し攻撃するミサイルだ。


 ――直後、短い発射音とともに白い煙が七本空へと上がった。

 それは、山なりの軌道を描きあっという間に着弾――5?あまり先の地上が激しくめくれ上がる。

 閃光に爆風。

 猛々しく吠えていた榴弾砲や高角砲の砲手も、しばらくの間その光景に目を奪われた。


 「キーロフコントロールより、地上の敵は撃破したと判定する。防空戦闘に尽力せよ」


 爆発による土煙が晴れた後、確かにそこにはカテゴリー2の虚獣は立ってはいない。

 高角砲が再び砲声を上げ始め、榴弾砲も目いっぱいまで仰角を上げ砲撃する。

 防壁上のすべての武器が飛翔物体の侵入を阻むべく攻撃するが、それの数が減っているとは思えない。


 「第5高角砲大隊残弾僅か」

 「第7高角砲大隊残弾なし」

 「第13高角砲大隊残弾なし」

 

 ここにきて高角砲の弾薬が切れ始めたのだ。

 虚獣は目に見えて減らず、砲火は目に見え減衰し始める。


 「これはマズい状況ね」


 俺も五秒に一発の攻撃を行い、飛翔物体を撃破しているがキリがない。


 「フィリアさん、これらはどこから湧いてきているのですか?」

 「情報によれば80?東に衝突面があって、おそらくはそこからね」


 80?にわたって、この飛翔する虚獣が空を覆っているとしても元を絶てば勝機が見えるかもしれない。


 「それを塞ぐことは可能ですか?」

 「……本気!?……前例が無いわ」


 ここで座して死を待つよりかはマシだろう。


 「前例が無いのはこの状況も同じだと思います。前例が無いことをやらなければならないこともあるでしょう」

 

 しばらくの間、フィリアさんは何かを考えるように黙っていたが――


 「特装隊第三小隊よりキーロフコントロールへ」


 ヘッドセットから意を決したような声が聞こえてきた。


 「こちら、キーロフコントロール。どうした?」

 「衝突面の破壊または封鎖を提案します。なるべく高速の輸送機の確保をお願いします」

 「……しばらく待て。具体的な攻撃方法を考え――」


 これから作戦を策定して攻撃を行う時間はないぞ。


 「いいえ、その時間はありません。可及的速やかに高速輸送機の準備をお願いします」

 「だが……」

 「一刻の猶予もありません」

 「……っ、了解した」

 

 半ば、押し切るような形で了承を得たフィリアさんは俺の方を向いて


 「これで、いいわね?」


 わずかな笑みをうかべた。

 それは、気概にあふれた笑みだった。


 「第三小隊、続け」

 「何もせずに死ぬよりかはマシだろうよ」


 リーヴァイスさん達も、今回ばかりは可能性に賭けたのだろうか素直にフィリアさんの命令に従った。

 

 「キーロフコントロールより特装隊第三小隊、輸送機をスタンバイさせた。作戦の遂行を期待する」


 

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