#005
#005
曇天の空の下、虚獣の襲撃に高まる緊張感を切り裂いて無人攻撃機リーパーは東へと ハネウェル TPE331-10Tターボプロップエンジンを全開にして急行した。
キーロフの防壁の中にある誘導ステーションには、飛行機から送られてくる映像をもとに無人攻撃機の誘導が行われている。
「虚獣との距離、前方10000」
この誘導ステーションで緊張感を帯びた空気を放つのは、二個飛行大隊五十四機ののパイロットとセンサー員の合わせて百八名だ。
「もう少し、距離5000になり次第、各機全弾発射せよ」
偵察機も距離5000までは、侵入できたことから距離5000では虚獣による対空迎撃は、ないと考えてもよいのだろう。
近づけば、それだけ命中精度は上がる。
「目標は、ガーゴイルタイプ」
リーパーから送られてくる映像では、虚獣がモニターを占める割合がどんどんと大きくなってきている。
「距離6500」
「各機、ターゲットロックオン」
最高速度の時速482?/hでは、その距離が縮まるのはあっという間だ。
「距離5000」
カチカチといった音が、誘導ステーションの操縦室を満たす。
各機のモニターには、空対空ミサイルの発射炎が映っている。
モニターには、命中したことによる爆炎が映し出されている。
すべてのリーパーが装備してきた空対空ミサイルを発射し、ハードポイントを空にしている。
324発の空対空ミサイルを打ち尽くしたのだ。
「各機、急速上昇」
不用意に虚獣に近づきすぎないように、戦果を十分に確認することなく上昇をかける。
戦果確認は、偵察機が行うのだ。
「これより、帰投する」
「オブサーバー05より、キーロフコントロールへ」
「こちら、キーロフコントロール」
リーパーによる攻撃から二分ほど経てから、戦果確認の報告が届けられる。
「ガーゴイルタイプの半数が、行動を停止。二次攻撃の要ありと認む」
「了解した。オブサーバ05、燃料はどうか」
「帰投分のみ」
「オブサーバー05も基地へ帰投せよ」
「了解」
偵察機は、残りの燃料がわずかであるからそれ以上の滞空をあきらめ、虚獣の空域を離れる。
キーロフコントロールとオブサーバー05の通信は、第二戦区CS-05キーロフ救援のために空路を行く特装隊第三小隊を乗せた輸送機でも受信していた。
「第三小隊各位、まもなく本機は着陸すべく高度を下げる。ベルトを装着してもらいたい」
輸送機の機長がコックピットの無線機に向かって操縦席で指示を出す。
輸送機は、その速度を落とすと高度を下げ始めた。
機体に設けられた小さな窓から、これから戦場となる防衛都市が見える。
虚獣のいるだろう東の方角は、窓が小さくてみることはできない。
「第三小隊各員、通信機のチャンネルを578と1123の両方にセットして。578は、第三小隊専用の周波数、1123がキーロフコントロールの周波数よ」
俺以外の小隊の隊員たちは、慣れたようにチャンネルを合わせていく。
俺も、周りの様子を見てやり方を学びながらヘッドセットについたボタンを押してチャンネルを合わせていく。
「通信テストをします。私の声が聞こえない場合は手を挙げて」
聞こえてきた声は輸送中に、行われた第三小隊の行動方針を再確認するものだった。
「着陸する。第三小隊各位は衝撃に備え!!」
機長の声が再び聞こえてきた。
しばらくの間の後、下から突き上げるような振動があった。
「ここまでのフライトに感謝を」
俺たちは2台のヴィークルに分乗し、防壁の指揮所へと向かう。
その道中、轟音をたてながら飛んでいく飛行機の編隊を見送った。
低空を飛んでいるため、風を感じる。
これが、あればもしかしたら俺の街は……ティリス……。
「シン君はまだ、無人攻撃機を見たことがなかったわね」
「えぇ、はい」
フィリアさんは、ハンドルを握って進行方向だけを見ながら聞いてきた。
考え事をしていたから、反応に遅れた。
「考え事をしてたの?」
「はい」
「……妹さんのこと?」
「自分のことだけでも手一杯なのに、死んだ人のことを考えてるなんてダメですね……」
「いつか、会える日もきっと来るわ。だから今日は、この戦闘に集中して生き残って、それが会うための第一歩よ」
死んだら会えないからな。
フィリアさんの言うことはもっともだ。
「はい!!」
やがて、防壁の前に来てヴィークルは止まった。
そして人が乗るには、だいぶ大きめなエレベーターに乗って防壁の上へと出る。
防壁の上には榴弾砲、高角砲といった火器が並べられそれぞれ空を睨んでいた。
それぞれの火器は、レールの上に設置されておりレールの上を動かして設置されるのだろう。
心装武具に目覚めた人は心装武具を、目覚めなかった人はこういった武器を使って虚獣と戦うのだ。
「まだ早いけど各隊員は、心装武具を顕現させて臨戦態勢をとって」
リーヴァイスさんたちは、大口径の砲を顕現させ、フィリアさんはソードをアンナさんはランスをイリスさんは両手剣を顕現させた。
「全ての悪逆に滅びの天誅を下せ、今こそ顕現せよ、ディフィート・ライフル!!」
俺も、誓詞を唱えて自分の心装武具を顕現させる。
銀色の粒子が手元に集まりそれが長身の銃の形となり粒子が消えるとそれは、確かな重さとなって手元に残った。
そのとき―――
「対空戦闘用意っ!!」
ヘッドセットに、緊迫感に満ちた声が響いた。
とっさに上を見上げると―――
「gruaaaaaaaaa!!」
自分たちの上空に白い壁が出現し、そこから次々に飛翔する虚獣が現れていた。
「これはっ!?」
誰かのその問いに答えるよりも早く、リーヴァイスさんたちは飛翔物体に向かって砲弾を撃ち出しており、周りの火器も少し遅れて砲声を轟かせる。
次々と飛翔する虚獣は粉砕されていくが、数限りなく白い壁の中から出現してくる。
レシプロ機がダイブブレーキ音をたてて降下するような甲高い音をたてながら迫ってくる。
「機銃座、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
高角砲に比べて、細い火箭が伸びていく。
その密度は、けして濃いわけではないがそれでも有効だった。
虚獣は、次々と細切れになるか体に穴を穿たれ墜落を始める。
しかし、全てを防げるわけではない。
「市街地に、何体か向かったぞ」
「防空陣地を抜かれた」
といった声がヘッドセットからは聞こえてくる。
「私たちが行くべきね」
フィリアさんとアンナさんイリスさんは、市街地に向かうべく物資運搬用のエレベーターに向かう。
「シン君も来て」
「あ、はい」
そのあとを急いで追いかける。
「シン君は、私たちに援護射撃をしてくれればいいわ」
エレベーターが地上で止まると、手近な虚獣へと駆けていく。
俺もスコープを覗いて狙いをつけ引鉄を引く。
リロードにかかる五秒の間をおいて引鉄を引く、引く、引く――
斬り込んだ、フィリアさんたちが集中して戦えるよう彼女たちの死角や上空にいる虚獣を次々と屠っていく。
大きさ3mほどの虚獣が、引鉄を引くごとに粉砕されていく。
斬り込んだフィリアさんたちもそれぞれの得物で次々と切り裂き、虚獣たちを虚無へと還していた。
「こちら第三小隊第二班、07地区の虚獣の無力化に成功」
「キーロフコントロールより防衛隊各員へ――地上の虚獣は、そのすべての無力化に成功した」
ほかの隊の戦闘も終わったらしく防壁上空にあった白い壁は消え失せ戦いは、やっと数えられるほどに減った虚獣の残存個体の掃討に移行していた。
リーヴァイスさんたちと合流するために再び防壁の上に登る。
東の方角を見ると黒い点が接近してきていた。
それは、煙を吹いているものもあればヨタヨタと飛行しているものもある。
黒い点のひとつが赤く明滅する。
やがてそれは、煙を吹きながら爆砕した。
「おい、リーパーが襲われてるぜっ!!」
リーヴァイスさんは双眼鏡を覗きながらそう言う。
その声を聴いてフィリアさんも双眼鏡を覗く。
「ほんとだわ」
再び明滅――このキーロフを飛び立っていったときよりも大幅に数を減らした無人攻撃機が一機一機と、虚獣に落とされていた。
上に乗られてバランスを崩す機体、機首を下に向けられ地面に衝突する機体。
回避機動をする隙を虚獣は、与えずがっしりと足でホールドしている。
俺のスコープでもその光景がはっきりと見えた。
あれがあれば、虚獣の侵攻から街を救えるはずなのに。
無人攻撃機の存在をさっき知ったばかりの俺でも何となくそれは分かった。
「高角砲は、射程距離に入っても撃つな。機体にあたる」
指揮所からの命令ではそうなっており、ただ砲身は東の空をにらんだまま沈黙している。
正確な射撃ができる武器はないのか――。
手にあるどっしりとした重み。
そうか―――。
「照準開始、距離10000風は微風」
「シン君、何をしているのっ!?」
わきからフィリアさんの声が聞こえる。
「目標の未来位置はこんなところか」
無人攻撃機はこの壁とほぼ同じ高度を飛んでいる。
高度は、おそらく虚獣が調整しているのだろう。
この壁に機体をぶつけて防衛陣地ごと壁を壊そうという考えか。
何をしているか――
「弾道よし」
正確に虚獣だけを撃ち抜けるように祈る。
その問いの答えは―――目標のみを正確に撃破することだ。
引鉄を引く。
赤い一条の火箭がまっすぐに伸びる。
撃ち漏らしたときの保険として、同じターゲットの未来1に目標を合わせる。
着弾―――
虚獣は、後ろにのけぞるように落ち無人攻撃機は壁への衝突を防ぐべく高度を上げる。
あと五体。
照準を合わせ引鉄を引く、引く、引く、引く、引く。
そのすべてが狙い過たず虚獣の顔、翼の付け根などに命中し貫く。
カテゴリー4を貫くその威力は、カテゴリー1の虚獣には大きすぎた。
無人攻撃機のすべてが頭上を通り過ぎる。
無人攻撃機六機を生還させたのだ。
「誘導ステーションより、防壁上の勇者へ―――リーパーの帰還への支援に感謝する」
ヘッドセットから、感謝の声が聞こえてきた。
リーヴァイスさんは、面白くなさそうに舌打ちをしたがそれでも虚獣のこ攻撃を一時的ではあるがしのぐことができたことへの安心感は大きかった。