表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

介護士、緊張頻りの昼食をとる

 緊張に遅くなる足を心で叱りながら、前へ前へと歩き続ける私を。


「オリカ?」


シャスティン様が笑顔で振り返ってくれる。って、殿取ってくれたのかぁ嬉しい。


向かう先にあるのは国王夫妻の個人的な客室。


そこで、昼食を取りながら話をしようと提案されたのだ。


「いえ、ご挨拶をって考えていたのに食事会になってしまって。本当にいいのでしょうか?」


気がかりで仕方ない私にシャスティン様は頷いてくれた。


滑舌までおかしくなってる気がするけど、これは仕方ないだろう。


「両親は寧ろ挨拶と謝罪に伺いたいと言っていたんだ。だから貴女からの申し出は本当に有難かった。

殊に母が、食い気味なんだ。相手になってくれると嬉しい」


ここまで言ってくれているのだし、もう覚悟は決めないと。





レオ君やセレスさんは用があるらしく、帰ってしまった。


妖精達も姿を見せないし、なんだか心細い。


でもまぁ、もう部屋の前まで来てしまったのだから行くしかない。


意を決して、扉を開けて待ってくれているシャスティン様に続こうと足を速めて……


凄い質量のある柔らかい物にぶつかってしまう。


「母上!」


「ようこそオリカ。美味しい物をいっぱい用意したのよ。さ、さ、中に入って」


耳に柔らかい美声に顔を上げれば、すらりとした長身の女性がそこに居て。


私はなんと、その人の豊満すぎる胸に伸し掛られていたのだった。


手を引くその人の姿を目で追って気付く。この人が、男物着てるのを。


「母上は騎士の名門の出で、個人的な時間はドレスより騎士の服で過ごす方が多いんだ」


耳打ちされて、ほうと溜息ついた。


「動きがきびきびしてて格好いい……見習いたい」


零した言葉を拾って、王妃様が金の髪を靡かせころころと笑い転げた。


「ふふっ、有難う。可愛い事言うわね、貴女」





 案内されたのは長方形のテーブル。


その上には、意外にも素朴な料理がこれでもかと乗せられていた。


てっきりテーブルマナーなど、気を張る食事会になるのではと思っていたので肩から力が抜けていく。


「異世界から来たばかりだっていうし肩肘張るのは困らせちゃうでしょう?だから今回結婚前よく作ってた物にしてみたの。お口に合うといいんだけど」


椅子を掌で示されて恐る恐る腰掛けた。


「ふふっ、隣はわ~たし!」


シャスティン様が唖然としているのを尻目に、王妃様が私の隣にストンと座り……


「では、此方には私が座るとしよう」


国王様が、なんと私の向かいの椅子に座ったのだった。


ってか、陛下は何時部屋に来たんだろう?


「おお、驚いているな?済まぬ。椅子の後ろに隠れて居たのだよ」


聡明さが見て知れる国王陛下は、にこやかにそう明かしてくれる。


「……二人共、オリカで遊ばないで下さい」


呆れを隠しきれない様子で言うと、シャスティン様は残った私の斜め前の椅子に座った。


「可愛いから愛でたくなったんでしょうが、度が過ぎるようなら暫く会わせませんよ?」


「それは横暴だろう」


「そうよ、シャスティンったら狡いわ!」





3人のやりとりを見ているとなんだか王族のやりとりって感じがしない。思わず笑ってしまう。


シャスティン様が凄い気遣いが出来る人だから、ご両親ともなるとやはり気配りが出来ちゃう方々なんじゃないかな。


家庭料理を用意して下さった事といい、よく見ると国王様も王冠していないし堅苦しさを感じさせない言動をして下さってる事といい。


お二人共30歳は過ぎてる筈なのに、外見的に20代って凄すぎる。


「ご歓談の最中、申し訳ない事でございます両陛下」


敢えて空気を読まずに国王様、王妃様それぞれに頭を下げた。


「この度は、直接ご挨拶する機会を頂き誠に有難うございます。異世界から罷り越しました、和泉織香いずみおりかと申します。オリカとお呼び下さいませ」


振る舞いに不安はあるけれど、伝えたい事をきちんと言葉にしてみたかったんだ。


「可愛いわあ~~~」

「可愛いぞ、オリカ」


直後お二人から抱き着かれたから、言葉にならなかった。


や、外見的にはそうなんだろうけれど、苦笑いするしかない。




 王妃様の実家は、週決まりで休みには持ち回りで昼食を振る舞うらしく、今回用意された食事もその時によく作っていたらしい。


緊張抜けたと思っていたけど、そう簡単にはいかなかったみたいだ。


でも、世間話ばかりというのもあれだからと切り込んだ。


「実は妖精達に祝福を頂いておりまして、聖女の事を幾つか教えられたんです」


聞かされた内容を口にすると国王様は重々しく頷いて下さった。


「オリカは魔族や獣人族に会いたいかい?」


「私の世界には居なかった存在ですから、純粋に興味があります。直接会って話してみれば、分かる事もある筈だと思うんです」


彼らは人間に不信感があるようだ。


禁忌である聖女召還で来てしまった私を心配したからだろうと、推測している。


だから、当人である私が話してそれを和らげられたら。


そう思うのだ、と。




ふう、と王妃様が溜め息ついた。


「怒ってない訳じゃないでしょうに……そこまで考えてくれたのね」


有難う、と深々と頭を下げるから慌ててしまう。


「ロナウドを先程捕らえたと報告があってね、そこでこの人が対応してたのよ。出遅れた理由が理由でしょ?本当にごめんなさいね」


「本当にな」


「して、今は?」


「塔に幽閉した。手続きを終え次第辺境送りにする」





話の内容が理解できず反応が鈍い私に、王妃様が教えてくれた。


「王子としての地位と権力、後見人の剥奪を行うの。王族の籍を抜き、ただの人として一生を過ごす事を義務付けるわ」


思わず総毛立ち、ごくりと唾を飲み込んで王妃様の顔を食い入るように見てしまう。


そりゃ、もう元の世界には戻れないとは聞いているんだけれど。かなりの大事になっていて困惑する。


「そうでもしないと貴女を案じている魔族や獣人族に合わせる顔がないわ。殊に魔族の代表は……初代王妃の親友だった方でね。禁忌の聖女召喚を行ったこの王国にご立腹なのですよ」


どんだけ長生きしてんだ、その代表って。


内心そうツッコミ入れながら、不承不承頷いて見せた。


責任を果たそうともせず逃げたんだから当然。そう自分に言い聞かせて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ