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介護士、現状に頭痛を覚える

うん、言質は取った。


きゅっと口を結んでから改めて麗し過ぎるその美貌を見詰めた。


「シャスティン王子、お言葉に甘えて思いつく限り質問させて貰いますよ?」


「勿論だ。貴女は何が知りたい?」




王子ってだけに暇な訳は無いんだろう。


忙しい人の時間を奪ってしまうのは社会人としては褒められない事だけど、ここは敢えて空気は読まない。


現状を把握しないと落ち着けない。


「私の身の上に起こった出来事を改めて教えて頂きたいんです」


決意も新たにそう続ければ、大きく頷いてくれた。


「オリカ殿は私の弟が成した『聖女召喚の儀式』の試行により、この世界に召喚されたのだ。


召喚された聖女は銀の髪と瞳を有すると古文書にあるので、髪と瞳の変色はその為だと思われる」





一度の説明で結構な情報をくれたのに驚きつつ、若返りについては理由を尋ねるがどうも分からないらしい。


「聞き違いでなければ試行って仰いましたよね。ひょっとして……この世界に聖女は必要では無いのではありませんか?」


試行という言葉に引っかかって聞けば、彼は目を瞬かせた。


「この姿では説得力がありませんが、私は35歳なんですよ?それなりに頭は回りますし、初対面の時のあの言葉も……そのせいではないかと思えてなりません」


迎えてくれたのがシャスティン王子だけだったのは、本来あってはならない事柄の対処の為ではないか。


そう重ねて尋ねると、力無く声が成された。


「……貴女は聡いのだな」




 何処から話したものか、と前置きしてから王子は話し始めた。


「このクオーツ王国は、遥か昔に魔王を倒した救世の勇者と聖女を初代の王と王妃に据えたものでな。聖女召喚の儀式もこの国独自のものなのだが、初代の時代で禁忌とされ封印されたのだ。

古文書にその存在が記されているだけで、実際どう執り行ったのかなど詳細は分からなかった」


ツッコミ処は多いが、頷き先を促した。


「それを古文書好きの末の弟が何処からか見付けてしまい、試行してしまったんだ。後見人達もあまり重要視しておらず、止める者など無かったらしい」


それで、やってみただけの儀式で私が召喚された訳だ。


そりゃあ、下手にも出るわな。でも、けしからんと思う!


「余所の人間召喚しておいて、実行させた当人は責任逃れでトンズラですか。結構な事で」




丁寧に話していたけど、腹が立って仕方ない。


召喚されて放置されたのも当然そうだけど。


何が腹立たしいって、お兄さんに対処を任せているその弟の無責任さがだよ。


王族ってそんな人ばかりなんだろうか?


だとしたら、目の前で心痛を隠そうともしないシャスティン王子が報われない。


「シャスティン王子が気を揉む事無いんですよ。腹立ってるけど、これは無責任な弟君に対してだし。

正直宛が無いので、元の世界に帰るまで保護して頂けたら幸いです」


「!当然そうさせて貰うとも。父王にもオリカ殿が不自由なく過ごせるよう尽くすようにと言われている」




萎れたみたいになってたのに、一気に元気になって私の手を取るからつい笑ってしまう。


なんだか跪いてるみたいに見えて落ち着けない。


「ベッドの上からで失礼しました。あちらに見えます長椅子に向かいましょうか」


頭痛は絶えないけれど、とにかく今はこの国を、世界を知る事にしよう。


逃げた王子の事はお任せするしかないからね。


足元に揃えてあった室内履きに足を入れ込み、立ち上がった。


視界に入ってきた色彩に目を細める。


頬を撫でた髪は、やっぱり銀のままだったんだから。




 折角だから、とシャスティン王子が軽食を頼んでくれた。


お皿を見ると、これは……おじやかな?


「リゾットだ。体に負担がかからぬように、な」


「シャスティン様まで同じ物にしなくても」


17、8歳のしかも男性だ。物足りないんじゃないかな?


「オリカ殿と同じ物が食べたかった。最近まともに食事してなかったからな」




ああ、確かにクマがくっきり見えてるわ。


盗み見たその顔は寝不足って書いてあるみたいだった。


「私は何日寝てたんですか?」


「3日間だ」


多分、この人はずっと寝ずに方々に手を尽くしてくれたんだろう。


「面倒をおかけして申し訳ない。出来るだけ迷惑にならないようにしたいので、まずはこの国の事を教えて下さい」


頭を下げる私に大きく頷いてくれた。


「この国でのオリカ殿自身の事を知るには神殿に行く必要がある。神殿に通達は出したから、明日行こう」


「はい!」





 何もかもが日本とは違っているこの世界で、私は生きていけるんだろうか?


考えれば考える程わからなくなってしまう。


「出来る事をするしか、ないんだ」


自分に言い聞かせるように呟いて、掛け布団に潜り込んだ。


香る薔薇の香にうっとりしながら無理矢理目を閉じる。


こうなったら、コンディションだけはしっかり整えないと!






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