クォーツ王国~国王の部屋にて~
クォーツ王国は大陸の大半を掌握する大国である。
元々は北端に座していたかの王国は、救世の勇者と聖女を新たに据えて荒野と化した大陸を平らげ 今の姿となった。
遥か昔魔族やモンスターとの戦いにより大地は、不毛の荒野とかしていた。
当時の大国達は、クォーツ王国に厄介払いとばかりにそれを押し付けたのだった。
だが、勇者と聖女のパーティーを中心に集まった有志達はそれに反発しなかった。
これを逆手にとって、国土への永久に渡る不可侵条約を結ばせてしまう。
勿論容易くはなかったが、荒れた大地は改良開発を経て並ぶもの無しの大国になったのである。
勇者と聖女は初代国王と王妃になり、今なおクォーツ王国は発展し続けている。
現在クォーツ王国は58代目。
王妃が産んだ5人の王子3人の王女を擁した、比較的穏やかな国である。
クォーツ王国とて一夫多妻は認められているのだが、現国王はそれを良しとしなかったのだ。
己が経験した王位を巡る争いに、ほとほと嫌気が指したから。王自身がそう語っていた。
ロードレオン=クラウン=クォーツ
彼は公平かつ聡明な稀代の名君と呼ばれ、国内外でも知らぬ者は居ないとされている。
そんな彼の執務室に訪問者があった。
よく知っている人物だが、その顔は見た事がない程険しく驚かされる。
「先触れも無く伺って申し訳ない」
生真面目な3番目の息子の言葉に破顔一笑。
彼が妄りにこんな真似をする訳がないのは判りきっている。
立ったままの息子に座るよう手で示した。
「ありがとうございます」
簡単な挨拶の後聞かされたのは、末子ロナウドの不始末だった。
「もう、あれには権利をやる事は出来ないな。だろう?シャスティン」
ロードレオンの呟きに 斜め向かいに座った息子も大きく頷いた。
「召喚されてしまった女性は、実年齢よりも若返った上……髪も瞳も銀に変わったと話してくれました。
まさか、古に忘れ去られた聖女召喚の儀を再現してしまうとは思いませんでした」
全く以て有り得ない。
「召喚されてしまった女性が気の毒だな。我らは帰還の術を模索しつつ、かの人が心地よく過ごせるようにせねばな」
……それにしても。
「済まぬな、シャスティン。本来ならば……」
言葉を濁すのには訳がある。
この場合、全面的に此方に非があるのだ。誠意でもって彼女に対処しなければならない。
5人居る王子のうち、世継ぎである第一王子が対処するのは慣例からして望ましくないのだ。
本来ならばシャスティンの双子の兄の第二王子が向かわなければならないのだが、王城に姿が無かったのだ。
「慣れています。お気遣いなく」
責任ある行為を拒否し避けるのは昔から。2人は溜息ついた。
「話は戻しますが」
シャスティンからの提案に国王は目を和ませた。
「良いのか?」
彼の後見人になっている公爵家は、人材の豊富さと有能さで世界的にも有名なのだ。
「彼女には此方の事を知って貰ってそれから思いのままに動けるよう、後押しさせて貰います」
決意の色を覗かせる息子を思わず抱き締める。
「ちっ……父上っ?!」
「いや、済まん。どうか抱き締めさせてくれないか」
まだ18歳だというのに、世継ぎの長男より空気が読める三男に申し訳なさが募る。
「寝る間も惜しんで頑張っているお前に、無理を言って済まないな。よろしく頼むよ」
足早に退室する息子を見送りながら、国王は思案していた。
「休日は明日だったな……手配を急ぐとするか」
いそいそと机に向かいながら手を一度叩く。
国王の影が膨張し部屋いっぱいに広がり、刹那陰った。
光が戻った部屋で、国王の背後に膝をつき佇む者が居た。
「宰相を呼んで欲しい。……何時も通り可及的速やかに、な」
応えはない。最初から居なかったかのようにその人物は姿を消していた。