介護士、新たな存在に懐かれる。
何がどうなったらこんな曲解が出来るんだろう?
頭痛が隠せない私の前に輝きが一つ出現しラドグリウス王子に迫った。
『そこまでだ、【愚者】』
そう言うと、光は失せて。
見た事がない小さな存在が宙に立っていた
「やはりか!妖精、その女と組んで何を企んでいる?!」
歪に笑いながら言うラドグリウスに、それは大きく体を震わせた。
『噂は本当だったんだな……残念だよ第二王子』
ふわりとオリカの肩に乗り、続ける。
『知ってるか?聖女とオレは初対面だ』
きらきらと輝く白い髪に緑の黒目だけの瞳に小さく愛らしい容姿。
身を包むのは、ゆったりとした長衣のようだ。
貴族達は初めて見る妖精の姿に釘付け。
2人?のやりとりを見て、驚きに息を詰めてしまう。
『いきなりで悪いな、聖女。オレはテンプス。時空の妖精だ』
「オリカです。あ、向こうの名前も名乗った方がいいですか?」
『いや、構わない。実はオレが一方的にお前には恩義を感じているんだ』
だから会いに来た。
そう語る妖精は、にこやかに笑ってさえいた。
「オルフェウスに魔法をかけた妖精の身内だからでしょうか?」
そう返されて、テンプスは真顔になる。
『分かるのか』
「力が……あの時解いた筋?みたいなものから感じたモノに近いですから」
くくっと喉を鳴らして、今度はオリカの前に飛んだ。
『素晴らしい。頭の回転も申し分ない……なあオリカ』
「なんでしょう?」
『オレの祝福を受けろ。邪魔にはならん』
態と白けた顔をして頭を振った。
「成り行きですから、恩義なんて感じないで下さい」
『ならば、友になって欲しい。祝福はおまけだ』
さらっととんでもない事言い切った妖精に苦笑する。
「然りげ無くとんでもない事言いましたね」
『イヤか?』
「面白そうだからいいですよ。で、今回出てきた理由は?」
愉快そうに口角を上げながら、こう続けた。
『半身を解き放ってくれたお前が、そこな愚か者に煩わせられるのが許せなかっただけだ』
面倒だなとは思っていたんだけど、それを怒ってくれるとは思わなかった。
呆気にとられていたけれど、理由を聞いてふふっと笑ってしまう。
「お気遣い、有難うテンプス。
友達になるのと祝福がセットなのは微妙だけど、是非とも仲良くなりたいわ。いいかな?」
『構わない。ではオリカ、オレからの祝福を受けてくれ』
テンプスが太陽のように輝き始め、それは一気にオリカに向かって注ぎ込まれていく。
見た事も無い光景にラドグリウスも息を詰めて、ただそれを見守った。
『で、【愚者】よ。わが友に対して有り得ない妄想で貶めた事に対して謝罪も無しか?』
厳かに問いかけてくるテンプスに第二王子は青褪めつつも射殺しかねない目で睨みつける。
「ロナウドはっ!こんな女のせいで王籍から除かれたんだぞ?!
何かしら卑怯な手を使って陥れたに決まっているだろうがっ」
まだ分からないのか。
今回の真相は隠してあったのだが、それが裏目に出たようだ。
……あれ、でも王女様がたは訳知り顔だったけど。
ふと愛らしい王女様がたを見れば、三人三様に頷いて返して下さっている。
という事は王族の皆様には話はいってるって事じゃないのかな?違うの?
考え込んでいる私の肩を抱く腕にはっとした。
「いい加減にしろ、ラド。ここに居る皆の胸の内に留めて欲しい。
ロナウドは禁忌とされた聖女召喚の儀式を再現してしまい、オリカを召喚してしまったんだ。
奸計などではない」
「シャスティン様?!」
思わず国王様達を振り返ると、大きく頷いて下さった。
「それの何処が悪いんだ?召喚されたら普通来るだろうに」
ラドグリウスの言葉に居並ぶ上流貴族達もざわついている。
「異世界の人間をいきなり此方に呼びつけるなど、あってはならない。
初代王妃がそう怒り戒め禁忌とした事をしたのだ、これまでの所業も相まって最早王族を名乗らせる事は出来ないのだよ」
国王様が歩み寄りながらそう言い募り、王妃様も頷きながらそれに加わって下さった。
「オリカはロナウドの身勝手には怒りを見せたけれどそれ以外には赦しをくれたのです。
彼女の力を以てすれば、この世界を滅ぼす事など造作もないのですよ?」
「そんな女一人で何ができますかっ」
嘲り続ける彼を近衛騎士達が引っ立てる。
「魔族と獣人族が怒りでもって人族を滅ぼすだろうね。そこは察して欲しいところだが」
オリヴィオ様にそんな言葉をかけられ、広間を後にした。
『最後までお前に詫びなかったな【愚者】のやつ』
テンプスの溜め息まじりのぼやきにオリカは苦笑で返した。
「平行線ってこの事ね」
『ん?』
「何処までも交わらないからね。
最初から分かろうとさえしてなかったじゃない?仲が良かったのかしら」
「ラドはロナウドに構われてたからね、淋しいんだろう」
オリヴィオ様の言葉にシャスティン様が大きく首を振った。
「だからといって、あの言動はあり得ない」
行こう、と手を引くシャスティン様に連れられて広間を後にした。
テンプスは、ちゃっかり私の肩に座って見守ってくれていた。
「いいの?こんな所迄来ちゃって」
『勿論だ。だが、【愚者】の弟と居るのは気に入らない』
睨み合う二人に溜め息。
「シャスティン様は、召還されて目覚めない私に良くして下さってるんだけど。あの人が例外なんじゃない?」
召還の儀式をさせた王子も然るべき処遇をされている話を聞いてから、漸く美しい目を細めた。
『ならば、許さねばならないな。済まなかった』
そう言ってシャスティンの前に飛び、軽く右手を握り左胸に添えた。
「妖精(貴方)の寛容さと高貴さに心から感謝致します」
シャスティン様が神妙な様子で深々と頭を下げた。
張り詰めた空気が柔らかく解けて、思わず肩で息をした。
この日の事は、一部秘匿されたものの後の語り種となる。
魔導具の誤作動により召還されてしまった聖女は、より世界に名を馳せる事になるのだ。
4/12時空の妖精の名前を変更しました。




