介護士、目覚めを齎す
錆び付いたように重い扉が押し開けられた。
室内は清潔に整えられていて、空気も澄んでいる。オルトランを見上げると頷いた。
「はい、私が整えております……」
大切な片割れを自身が見守ってきたのだろう。
「薬師ギルドのこの場所を確保するの大変だったでしょう?」
労う私に頭を振る。
「当時のギルド長が快く許可を下さいました。成人する前からずっとここに通って兄の世話をしておりましたが、兄は成長する事も無く当時のままこうして……」
部屋の中央に向かう視線を追って私もそちらを見れば、ベッドが二台あった。
全く同じものが横並びになっており一つは空。
新しいシーツが準備してある。
「新しいシーツをしてからお兄さんを移動させるのね?」
空のベッドを示して言う私に目を見開いた。
「は、はい!一日おきに違うベッドを使えるように……そんな事迄お分かりになるんですか」
「お兄さんに快適に過ごして欲しかったんだろうなって思ったからね。……皆も直ぐ分かったんじゃない?」
同意を求めてセレスさんを振り返れば苦笑が返される。
「いえその……お恥ずかしながら分かりませんでした」
護衛騎士の2人も居心地悪そうに小さく頭を上下させた。
セレスさんは貴族だし、騎士の2人はリネン交換なんてしないだろうから無理ないかな。
この部屋の空気はとっても綺麗。綺麗過ぎるくらいだ。
成程、これは呪いなんかじゃなさそうだな。
オルトランを振り返り、尋ねる。
「鑑定はかけてるでしょうし【看破】は?掛けてる?」
鑑定じゃ無理でも看破なら違ってくるかも!
思いついて更に聞けば、ノイエが真顔で割り込んできた。
「それは無理ですよオリカ様。看破は私の心悟以上に希少なスキルなんです。
お持ちならばオリカ様が掛けて下さいませんか?」
私の持ってたスキルは結構とんでもないモノらしい。
説明は後でノイエにお願いするとして、とオルトランのお兄さんの事を調べないと。
……と、向き直って見たお兄さん。
「そっか、20年って言ってたっけ。30代のオルトランの双子のお兄さんなんだから10代だよね。12、3歳位かなぁ」
石膏のように真っ白な男の子がそこに横たわっていたのだった。
20年もそのまま眠り続ける彼は、あたかも精巧に作り込まれた彫像の様に見えた。
呼吸さえ伺えないのに、触れてみた額は温かい。
彼は生きてる、そういう事なんだよね。
「……ん?」
触れていた額に色が付いた……ような。
そう私には見えた。
周囲を赤、白、黄色、青、沢山の色彩が筋を引いて空間を走っていく。
「な、に?これ……」
その筋をよくよく見てみると、オルトランのお兄さんを何重にも取り巻いている。
何かの力を具現化した物としか考えられない。
「縺れを解けばいいのかしら」
これで駄目なら看破掛けよう。
決めて私は一番目立ってる色の筋に手を伸ばした。
シャラシャラと軽く音を立てて、筋が消えて……
代わりにオルトランのお兄さんの髪の毛が水色に染まっていく。
これが、お兄さんが持つ本来の色彩って事なんだろう。
「へえ、取り敢えずこの筋消して行けばいいのね」
生命の証をチェックして、ふむと唸る。
ステータスを確認すると魔力が1000減っていた。
「ふふん、いいわ。やってやろうじゃない!」
伊達に魔力100万超えしてないし、思いっきりやってやろうじゃないの。
魔力切れとかになるとかなり危険だって先生方にも教えて頂いてるから……そうだな。
色彩が戻っていくのと、自分のステータスを目視確認しながら筋を消して行こう。
「「オリカ様?」」
「ちょっと長期戦になりそうだから、暫く放置してね」
ノイエとセレスさんにそう微笑みながら言うと、横たわる男の子に手を伸ばした。
最初消したのは赤の筋。
緑、紫、黄色と消していき……シャラシャラ鳴る音は段々増えていって。
真っ白だった男の子は、髪、肌、纏って居た衣服の色まで変わっていく。
彫像のようにぴくりとも動かなかったその体は、呼吸を感じさせる動きをし始める。
「うん、これでおしまい!」
オリカがそういうのと同時に光が弾けた。
「オルフェウス!」
感極まって泣き咽ぶ副ギルド長の腕には円な瞳の少年が抱えられている。
「……お前、オルトランかい?随分老けてしまったね」
澄んだ声が紡ぐ言葉にただただ頷く彼を、居合わせた者は静かに見守ったのだった。
R2/1/24 漸くしっかりと書き直しできました。
R2/11/27 更に直しました




