介護士、神殿に行く
私は生まれて初めて乗る竜車に揺られながら神殿へ向かっていた。
右隣にリュオン、左隣にシン、向かい側にシャスティン様というやたら凄い一行の中……苦笑していた。
獣人族の王子、魔族の英雄、一国の王子と行動するには、ド平民の私は……凄く不釣り合いに思えた。
「私の平凡さがやたら際立つわね」
呟けば、光が弾けた。
『オリカは平凡じゃないよ?』
『うんうん』
『きらきらして、綺麗』
『そう、綺麗』
『私、オリカ大好き』
『あ、ズルい!私もオリカ大好き』
すりすりと、頬を寄せてくるのは闇の妖精ダァム。
何故かとっても懐いてくれているみたいで、ちょっと嬉しい。
私に祝福をくれた妖精達が、また来てくれたのだった。
あまりの可愛いさに頬が緩んだ。
「有難う、来てくれて」
妖精達を迎えて、オリカの緊張が解けたようだ。
黙って見守っていたシャスティンは、内心ほっとしていた。
「オリカ様は妖精に歓迎されているのですね」
今のリュオンは、人の姿になっている。
きらきら輝く金の髪に金の瞳を持つ、シャスティンより頭二つ分程違う長身の大男に。
彼が、何故こんな真似をしたかなんて訊く迄も無い。
「お察しの通り、私は【認識阻害】が使えませんので」
リュオンは、タイミング良くそう言い添えた。
【認識阻害】はスキルのひとつで、誰でも習得出来るが難易度が高いもの。その場に居ても認識させないのだから、便利なのだ。
彼の反対側の隣に座っているシンは、既に【認識阻害】を発動していた。
有名人過ぎる彼も常識はある方だ。
人の出入りが多い神殿に向かう為、竜車に乗り込んで直ぐ発動させていた。
オリカを神殿に送る為に、王族の極秘扱いという形を取っているからそう人目には付かないとは思う。
だが、魔族や獣人族は目立つ。それへの配慮が出来るのは流石と言えるだろう。
竜車は特別な出入り口に案内されていく。
一見通用口に繋がるように見えるのだが、道中有り得ない場所に飛び込んで行くのだから驚かせられる。
「か、べに入ってった?」
呆気にとられてしまうオリカに妖精達がクスクス笑いだす。
『オリカ素直』
『うんうん』
『可愛いね』
『うん、オリカは可愛い』
『これ ちょっとしたまやかし』
『結界だよ、安心して』
6人の妖精は、思い思いに少女に寄り添っていく。
『『『『『『私達がついてるよ』』』』』』
可愛い声が綺麗に揃う。
オリカに慎重に指先で撫でられて寛ぐ彼らに、シャスティンも目を細めた。
入って行ったのは小さいながらも壮麗な石造りの門で、よく見ると細やかな彫刻が施されている。
白と金が基調で、赤が差し色に使われていて精霊による光で割と明るいのだ。
選ばれた者だけが通るこの通路に潜むような無粋者は存在しないのだから。
落ち着かない様子で周囲を見回しながら、それでも足を止めないオリカに見守る者たちは微笑んだ。
「【生命の証】に聖女なんて記載は無いかもねって思ってたりするのよ、実は」
溢れた呟きにシンとリュオンが声を揃えて異を唱えた。
「それはないな」
「有り得ません」
「銀の瞳の聖女以外の存在って居ないの?」
更なる疑問に答えたのはシャスティン様。
「そうだ。瞳が銀色なのは、所有者の魔力の質が極上で膨大な量であるから。そして、その魂が美しいからだ」
思いも寄らない事を言われて思考が止まる。
「疑ってるだろ、オリカ」
ぽんとシンが頭を叩く。
『自信持って、オリカ』
『私達が祝福あげるのは魂が綺麗な人だけ』
妖精達に揃って言われると、それ以上何も言えなくなる。
祝福をくれた彼等を疑う事なんて出来ない。
「……ごめん。とにかく、【生命の証】を授与されないとね」
ちょっとネガティブになった思考を無理矢理上向かせて足を運ぶ。
向かうのは……
「行こうか、聖別の間へ」
シャスティン様が差し出した手を強く握った。