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介護士、魔族と獣人族の代表に歓迎される

 何処かふわついた気分で、ドレスを整えてくれている侍女を眺めていた。


「ふふっ、ドレスも用意しておいて正解でしたわ。銀の御髪に夜空の蒼が映えて!

麗しいですわ~~~!」


語尾にハートマークでも付きそうなくらい、セレスさんは上機嫌。


「コルセットも要らないほどの細身!羨ましいわね」


これは王妃様の言葉。


何故か王妃様も私の支度する後ろに佇んでいて苦笑する。


王妃様はと言えば、とっくに真紅のシンプルながらも豪奢なドレスに身を包んでいらっしゃっていて。


困ったように続けた。


「ごめんなさいね、まさか代表者達がすぐに会いたいなんてお仕掛けてくるとは思わなくて」


そう、昼食で国王様と王妃様とご一緒するという一大イベントがあったというのに……


「もっと緊張するイベントが発生するとは思いませんでした」


もう、苦笑するしかなかった。




お昼は王妃様の心尽くしの手作り料理を、緊張しつつも楽しく頂いたんだけど。


代表者達との対面兼晩餐となると、やはりドレスを着るのは必須。


心配要らないと国王様は仰るけど、気にはなる。


もう時間が無いからマナーを教えてもらう訳にもいかない。


「音を立てないようにして、カトラリーは外側から、でしたか?」


「ええ。わかってるじゃない、オリカ」


彼方とこれは同じらしい。気は重いけれどまあ出たとこ勝負だろうか。


あれ、カトラリーってここでも通じる言葉だったんだね。良かった。


「さあ、行きましょうか」




 私は、王妃様と肩を並べて公式な広間に入っていった。


と、甲高い声がしてぐりゅりゅと巻き付かれた。


そう、文字通りやたら長い何かに巻き付かれたのだから他に言いようが無い。

私にボキャブラリーは求めないで欲しい。


「くるるぅ~くるるぅ~」


すっばらしい毛並みが私の頬に触れ続けてくる。


う~ん、いい感触。愛猫並に気持ちいい。


「ず、ズルいぞクルル!俺……いや私だって抱きつきたいのに」




……へ?


思わず顔を上げれば、真っ赤な目の黒い人が居た。


人間じゃないんだろうな、肌が染色でもしたかってくらい黒くってツヤツヤしてる。


黒檀こくたんってあったよなあ、木の。あれみたい。


「言っとくが聖女、コクタンとやらじゃないから」


へ?心でも読まれたのかしら?


「初代王妃は私とクルルの友達だったんだよ。あいつもそんな事を言っててな。

……本当に、異世界の人間なんだな」


「時代はもっと下っちゃう感じでしょうけれど」


クルルと言うらしいやたら毛並みがいい細長い生き物の毛並みを優しく撫でながら、ひとりごちる。


「緊張がどっかいっちゃったじゃない」





「それはよろしゅうございました」


国王陛下達以外の声にやっとそちらを伺えば、精悍な獅子の顔の人物が軽く一礼。


素早く私の前に進み出てきた。

……身のこなしに無駄がなくて見惚れてしまう。


「ご挨拶が遅れました聖女様。私は獣人族の代表リュオン=マール=ディオールと申します。

どうか、お見知りおきを」


恭しく膝をつきそう名乗りをあげてくれた。


「和泉織香といいます。オリカと呼んで頂けたら幸いです」


「では私の事もどうかリュオンと。

素晴らしい魔力と可愛らしさ……代表になれなかった皆も悔しがりましょう」




うん?どゆ事?


「獣人族は最低でも一度の出産で5人は生まれますので。

かく言う私も7ツ子の末子でして、生まれ順が三番目なので第三王位権利者とされています」


「獣人族では聖女は救済者だから。会いに行きたい奴多くって大変だったって話だったな。

私に王から話が出たから……な」


横からの魔族の代表の言葉に頷いた。


「はい。シン様にはお力添え頂きありがとうございます」


リュオンは律儀にも簡略に説明してくれた。


今回の獣人族の代表選びに難儀した王様に彼が口添えしたのだ。


未だ確定していない第三位の中で勝負させて、勝利したものを代表者にしてはと。


「って事はリュオンは第三位に確定したのね?」


「はい。ですが、まだオリカ様との対談も済んでおりませんし結果を報告もしておりません」


それゆえに、リュオンの中では確定とは考えていないのだというのだ。


「真面目ねぇリュオン」


「性分ですので。でも、役目を果たせば変われます」


相好を崩すリュオンに思わず笑ってしまう。




「で、だ。オリカ……って呼んでいいか?私も」


割り込むように入って来た魔族の代表に頷いた。


「私もシンって呼んでもいい?」


「この姿の時はな」


「じゃあ、違う姿の時もあるの?」


「ああ、肌が白くなってるからきっと分かる。その時はマンで頼む。私は平民の出だから姓は無い」


リュオンが口元を緩めながら言い添える。


「シン様は叙爵を受けているのですが辞退していらっしゃるのですよ。

ごく普通に暮らせるようにしてくれればいいと仰って家と定期的な給料だけ受け取っているんです」


「まあ、俺は元々冒険者だったしな?今だってフツーに依頼受けてそこそこ稼いでいる」


「ご謙遜を。フェンリルやドラゴンが暴れた時にすぐ平らげていらっしゃるのに」





 リュオンとシンの仲の良さに口元が緩む。


「御前で済まない、ロードレオン王そしてララディアン王妃よ。魔族はオリカを歓迎する」


「我々獣人族は言わずともがな。お二方にご挨拶が遅れ申し訳ない。平にご容赦を……」


スイッチが入ったみたいに公式な挨拶をして膝をついた2人に、国王様が頷いた。


「よく来てくれた、魔族の英雄シン。そして第三王位者リュオン王子。我が国一の料理人に腕を振るわせたのだよ、共に食してくれまいか?」


シンって英雄だったのか……


そんな事を思いながらじっと彼を見ていると、シンが手を引いた。


「勿論私とリュオンの間に座るだろう?」


「いいの?」


「勿論ですとも。……三の君、シャスティン王子の目が少し恐ろしいですが」





言われて気付く。

シャスティン様が食い入るように此方を見ている事に。


考えてみれば、公式な挨拶をする前にクルルが私に巻きついてしまっていて全てすっ飛ばしてしまった感じが無い事もない。


シャスティン様、結構気遣い出来ちゃう人だからなぁ。

場が収まるまで見守って居てくれたんだろう。ホント感謝だな。


私の視線に気付いたシャスティン様。

ぎこちなく口角を上げて微笑むと、少し足早に歩み寄って来てくれた。


「……オリカがしたいようにするといい」


こんな時でも私の気持ちを尊重してくれる。

そんな気遣いが嬉しくて、顔が綻んでしまった。


「有難うございます、シャスティン様」


一瞬、目を見張って。片手で口を覆って横を向いてしまう。


「……え、どうして?」


「そんな顔を向けられると、何を言っていいか分からなくなる。その……オリカ?」


「はい?」


「また後で話したい。いいか?」




シャスティン様の様子は気にかかったんだけど、後は特に変わりがなくって。


和やかに晩餐は終わった。


礼儀作法は左右に居る2人が都度教えてくれて、四苦八苦しながらそれに挑んだ。


「気にする事は無いからな、オリカ」


「皆、初めての事に向き合う時はぎこちないものです。そのうち慣れます」


フレンドリーな2人に嬉しくてにこにこしてしまう。


きっちりその辺学んでしっかりしようっと!




「オリカ、貴女を古の遺跡にあった魔道具の誤作動により招来された聖女として公式に発表しようと思う」


国王様の言葉にシンやリュオンも頷いた。


「髪はともかく、瞳の色彩は変えられませんからね」


王妃様が溜息と共に零した言葉に、内心頷く。


こっちにはコンタクトとか無さそうだし……

魔法があるならそれで出来ないのかな?気になる。


「その……お世話になりっぱなしは心苦しいので働きたいのです。

仕事を得る為にはどうしたらいいのでしょうか?」


そう伺いを立てれば、こう返して下さった。


「そなたはまず神殿に行き、己の存在をこの世界に登録しなければならない。

そこで【生命の証】を授かれば、そなたの能力やスキル、称号が分かる。それから仕事を探すが良い」


但し……と重々しく続けた後。にっと笑う。


「私としてはオリカが城に居てくれたら嬉しいんだが、城に住んで貰えないだろうか?」




直ぐにシンとリュオンが魔族に!いや獣人族に!と申し出て場が荒れたけれど。


全ては神殿での【生命の証】の授与が終わるまでお預け、という事に。


「一緒に行くからな!」

「同行いたしますので」


ノリノリな2人を止める事は出来なさそうだ。


取り敢えず、緊張していた筈なのにすっかり打ち解けられたのは良かったと思う。


晩餐はばたついたけど、成功したって事でいいよね?


「……私も行きたいんだが、いいか?」


シャスティン様が遠慮がちに聞いてきたから快諾する。


「そ、そうか。では大神官に連絡しておく」


神殿に行くのは明日の午後になるとだけ言うと、そのまま部屋に送ってくれたのだった。







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