3◇とりあえず、俺にとって最重要な問題は解決できたらしい。
「……落ち着きましたか?主様」
「……いやまぁ、正直何も落ち着けてはないんだけど……落ち着いたって事にしておこう」
目の前にいる人間ではない少女を前に、純は色々な混乱を飲み込み溜息をひとつつき、そう述べた。
ふと、少女を横目に何処か何かに既視感を覚える。少し頭を働かせるとその答えは割りと直ぐに顔を覗かせた。
(……そうだ、最近読んだ小説にあった内容もこんな感じだったような……あのストーリーだと確か、最初にあった女の子が……)
そこまで考えた瞬間純の顔色は一瞬にしてさぁっと青ざめる。落ち着いた顔をしたり難しい顔をしたり青くなったりと一人で百面相をする純を不思議に思ったのか、少女はこてんと首を傾げた。
「どうしたのですか、主様。何かお困りごとでも……」
「……頼む!俺を……!」
不思議そうに声をかけた少女の言葉を遮るような大声で純はそう述べる。
更に意味がわからないというような顔をしつつ、少女は純の言葉を待った。
「俺に恋をしないでくれ……!!」
「いえ、全くしていませんが。」
突発的に出た予想外であろう純の言葉に少女は驚くこともなく即座に返答する。
考える隙も無かった辺りさすがアンドロイドと言ったところだろう。純はその言葉を聞くとほっと胸を撫で下ろした。そして安堵からか口ぶりが軽くなる。
「よかったぁ……いやぁ、ごめんごめん。この間読んだ小説がさぁ、異世界で始めてであった女の子が主人公を好きになっちゃって、他の登場人物も皆主人公を好きになって~みたいなハーレム作品で……状況が被ってたもんだからそうなったら流石に困るというかさぁ」
「突然口が回るようになりましたね、主様」
「いやほんとごめん、なんか気が抜けたというか色々もう良いかなっていうか……」
一気に軽くなった口取りでペラペラと言葉を紡ぐ。
そんな純に対し少女は冷静に言葉を挟んだ。
「主様、この世界のご説明をさせて頂いても宜しいですか?」
「あ?あぁ……お前、説明とかできるの、というか俺ってお前にとってどういう存在な訳?突然変な事言い出すおかしな奴って所じゃないのか?」
「……ご自身が変である、という自覚はおありなのですね」
この少女は少し毒舌気味なようだ、今更ながら純は気がつく。
というものの言い返す言葉も無いため、口を噤んだまま少女の言葉を待った。
しかし、少女の口から出たのは予想外の言葉だった。
「……私はあなた専属のこの世界の案内人でございます。主様は私と契約を交わした為、私は主様に付き従うことになります」
「案内人……っておい待て、俺は契約なんてしてないぞ?」
「主様は私に触れたじゃありませんか」
その瞬間純は全てを理解し、思い切り項垂れる。
そう、少女曰く……彼女に触れる事が契約の始まりだったと言う事、つまりあのまま放って置けばよかったと……。
(いや、でも一人でこんな世界に迷い込んでも仕方なかったし……一先ず、状況を把握したい。契約か何か知らないが利用できるものは利用するべきか……。)
「……契約、と言ったな。俺はお前と、なんの契約を結んだんだ?解除の方法は?」
「先程言ったように、案内人として私を受け入れること、それ自体が契約です。私は主様に情報を提供し、この戦いを公平にするために…」
「……待て。戦いって……。」
聞き捨てなら無い単語に目を見開いた瞬間、背後で爆発音が響く。
それと同時に甲高い女性の声が響き渡った。
「見つけましたわ……さぁ、私と勝負なさい!」