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東方・幻想書紀  作者: 平民
8/9

化物の散歩3

特に言うことはないかな……

 コン、コンと扉をたたく音が響く。重く軋んだ音を上げながら大きなそれは開く。

「おや? 人間がこんなところに何の用?」

 現れたのは赤髪を三つ編みでおさげにした、猫耳の生えた少女であった。

「ここは地霊殿、であっているかい?」

「そうだけど……」

 青年は少女に、散歩できたのだと用件を告げ、中に入れてもらえないかと交渉する。

「ん-、人間は心を読まれるのに抵抗は無い?」

「特にないな……別にやましいこと考えるわけでもないし」

「……そ。じゃあいいと思うよ」

 少女は今一度扉を大きく開き、青年を館に招き入れた。


 ~地霊殿 エントランスホール~

「そういえば、名乗っていなかったね。あたいは火焔猫燐。長いからお燐って呼んでおくれ」

 青年は記憶と名前がないことを言うと、少しホールで待つようにお燐に言われた。

 しばらく後、お燐は薄紫色のボブショートで目玉の付いた管が巻き付いた小柄な少女を連れてきた。

「あなたはただの人間? 散歩で来たみたいだけど」

「お燐が話してくれたのかな。そうだよ、『ただの』人間かどうかは疑わしいけどね」

 少女につながる目玉はまっすぐに青年を見据える。先に言っていた、心を読む、という状態である。

 特に怪しい様子はないと見た少女は自己紹介を始めた。

「ようこそ、地霊殿へ。私は古明地さとり。ここの主。あなたのことはさっき見たから言わなくても大丈夫」

「そうか。ここにはいろんな生き物がいるんだな。ペットというには色物すぎる気がするけど」

 青年の目の先にはハシビロコウがいる。その他にも様々なペットがいるのだが、今この場にはいないようだ。さとり曰く、放し飼いの方が何かと都合がいいとのことである。

「えぇ、そうね。このお燐も、今はいないけどお空も、他の子たちも私の大切なペットよ」

 さとりからのペットたちへの信頼はとても厚いことが、彼女の様子からどことなく察することができる。

「本当に信頼しているんだな。ところで、あっちから視線?を感じるんだけど、もしかして誰かいる?」

 青年は、地霊殿に着く前に感じた視線と同じ感覚を、地霊殿に着いてからも感じていた。彼はホールの真ん中にある階段の踊り場のある一点を指さす。

「あら、もしかしてこいし?」

「おぉ~、私の居場所まで当てるなんて、お兄さんすごいんだね!」

 声が聞こえた場所から、黄色のリボンが付いた黒の帽子をかぶった、閉じた目玉が特徴的な少女が現れた。

「おかえり、こいし。いつ帰ってきたの?」

「お兄さんと一緒にだよ」

 青年はさとりとこいしの2人を見比べる。まるで対称的だとさえ考えた。

「ねぇねぇお兄さん! なんで私の場所が分かったの?」

 なんとなくだよ、と笑って返すがこいしはまだ疑っている。

「え~? ほんとかな~? 確信を持って見られた気がしたんだけど」

「あはは……ほんとになんとなくだよ」

 詰め寄ってみて、なおも返答を変えない彼を見てこいしは諦めたようだ。「そっか~」と落胆した様子もなくくるりと反転して、元の位置に戻っていった。

「さて、俺はそろそろ帰ろうかな。あまり長居するのもね」

「そう。ここは基本的に暇だから、また来るといいわ」

「もう帰っちゃうの~? もう少しいればいいのに」

 何の用か彼を引き留めようとするこいしを、さとりが諭す。

「彼にも生活があるもの。今日は帰してあげなさい、こいし」

「ちぇ~っ」とつまらなさそうにしながらも無理にでも引き留めようという意思はないらしく、それ以上の拘束はなかった。

「それじゃあお邪魔しました。いつかまた会おう」

「お燐」

 出口に向かう彼を見送るように、さとりがお燐に指示を出すとすぐに彼女が青年の後ろに付いてくる。

「あんたはさとり様を厄介がらないんだね。ありがと」

 出口際で小声で伝える。「そんな必要がないから」と彼は答える。

「あたいもまた来るのを待ってるよ。またね」

「あぁ、また」

 軽く手を振って地霊殿を後にする青年をお燐は思案顔で見つめた。




 ~地底、入り口の橋~

「やぁ、また会ったね」

 青年が話しかけたのは地底に来た時にも出会ったパルスィである。彼女は、橋の欄干に腰かけたまま彼を見る。

「えぇそうね。その様子だとまた交友が広がったのかしら。妬ましい」

「手厳しいね。君だって地底にいる彼女らからは信頼されているだろうに」

「それはずっとここにいるからよ。私は地上とあまり関わりがないもの」

 それじゃあ仕方ないと肩を竦め、橋を渡る。

「今日は帰るよ。地底の雰囲気が気に入ったし、たぶんまた来るよ」

「そ、勝手にしたら。貴方は何かあっても自力で対処できるみたいだし」

 どうやら怨霊を鎮めたことを知っているらしい口ぶりでそんなことを言う。

「じゃあまたね」

 飛んで上に向かう彼を、パルスィは特に何も言わずに見送る。彼が見えなくなった後、彼女はぽつりと呟いた。

「こんな所にまた来る理由があるなんて、やっぱ妬ましいやつ」




 ~地上、博麗神社~

 日が暮れ始め空が茜色に染まった頃、彼は神社に到着した。

「ただいま~」

 そんな彼を出迎えたのは霊夢や綾華ではなかった。

「あら、おかえりなさい」

 その声の主は、つい先日まで怪我の治療のために養生していたはずの吸血鬼、エルシィだった。

「あぁ君か…珍しいね、神社に用事でもあった?」

「いいえ特に。怪我も治って暇だったから、たまたま神社に来ていただけよ」

「あのね、うちは暇人の溜まり場じゃないんだけど?」

 エルシィの言い分にたまらず奥にいた霊夢が反論する。しかし参拝客のほぼいない博麗神社は、いつの日もだいたい誰かしらが来る、言ってしまえば溜まり場のように扱われていたりもする。

「ま、おかげで面白い出会いもあったことだし。来てみるものね」

「面白い出会い?」

 彼が聞き返すも彼女は答えず徐に立ち上がり、帰る素振りを見せる。

「教えてくれてもいいじゃんか~」

 わざとらしく抗議していたが、軽くあしらわれるだけだった。

「別に隠すほどのことでもないけど、いずれわかるわ。なんてね」

 それじゃね、と彼女の家に飛び去って行く姿を彼は目にしながら、悪い事ではないなとどこか確信していた。

「霊夢、綾華は?」

 ふと我に返った彼はもう1人の住人の所在を問う。

「まだ帰ってきてないわ。きっと今日も妖夢と稽古してるのね」

 初めて妖夢という名前を耳にした彼は、誰だと聞き返す。

「そういえばあんたは会ったことなかったわね。普段は冥界に住んでいるけど、よく人里に買い物に来る半人半霊の剣士よ」

「なるほど……」

「あんたもいつか会うんじゃない?」

 などと話しながら霊夢たちは夕飯の支度を始めた。

 そんなこんなで、彼の暇つぶしである一日の散歩は幕を閉じたのだった。

さて、なんだか久しぶりで楽しんでいる私がいますね。この先いつまで続くんでしょうね。

未来の私は頑張るんでしょうか。ではでは。

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