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東方・幻想書紀  作者: 平民
6/9

化物の散歩

んー、そろそろ考えるのがめんどくさくなってきた。

「ねぇ霊夢、ちょっと散歩に行きたいんだけど」

 翌朝、意識が戻った青年は突然霊夢にそう言った。その霊夢は「行ってくればいいじゃない」とそっけない対応。まるで興味が無いようだ。

「……で、どこに」

 否、あるようだ。

「え?」

「どこに行くのって聞いてるの」

「あぁ、妖怪の山?とか地底?とか」

 彼の言う地名にハテナが付くのは、そんな名称を人里で小耳に挟んだ程度のせいである。

「合ってるけど、何でそんなとこに」

 そう聞いた霊夢は「やっぱいい」と青年の返事をとめた。おおよその予想がついたのだろう。

「行くのはいいけど、面倒事は起こさないでよね」

「わかってるって」

 こんな他愛もない話を隣で聞いていた綾華は、霊夢にそれぞれの場所がどんなところなのかを聞いた。

「んー、妙に規律に厳しい天狗がいたり、もうひとつ神社があったりする所と、鬼が集まってどんちゃんしてたり嫌われ者が集まる場所よ」

「へ、へぇ……」

 ストレートな霊夢の説明に綾華は若干引いていた。

 朝食を食べ終えた彼女らは片付けをして、各々やりたいことをし始めた。といっても、霊夢はお茶を啜り、綾華は境内で素振りをするだけなのだが。

「じゃ霊夢、行ってくるよ」

「えぇ、気を付けてね。くれぐれも面倒だけは起こさないでね」

「はいはい。行ってきまーす」

 再び釘刺された青年は軽やかに浮き、妖怪の山の方へと飛んで行った。


 妖怪の山付近


「たしかこっちの方って言ってたようなー……」

 一面山で見分けのつかない景色をキョロキョロと見渡しながら飛んでいると、彼の前方から白い影がかなりの速さで近づいてきた。

「そこの者、止まって下さい。これより先は妖怪の山、ただの人間は立ち入り禁止ですよ」

 それは白い服に犬耳としっぽがある少女だった。

「だめ?」

「だめです」

 前を指さし、行きたい旨を表し打診するが当然の返答。さりげなく横を通り過ぎようとするも、ことごとく止められていた。

「えぇー、この先に興味があるんだけどなぁ」

「興味て……この先には天狗の里と守矢神社しかありませんよ」

 などとやり取りをしているところにもうひとつの影が近づいてきた。

「あやや? 椛さん、と誰ですかね?」

 今度は赤い下駄を履く、鴉のような羽の生えた少女だった。

「あ、文さん。この人がこの先に行きたいって聞かなくて……」

 そんなには言ってないと反論し、彼は文の方を向き直る。

「初めまして。俺は名前がないけどよろしく」

 名前が無いと聞いてしばらく思案する文。そしてすぐに顔を上げた。

「あ、霊夢さんの神社に居候してるって言う男の人ってもしかして貴方ですか!」

「……まぁ、そうだけど。どこで知ったんだ?」

 いつの間にかその手にペンとメモ帳を持っていた文は、得意げにこう答えた。

「私、幻想郷一の情報通ですから! 椛さん、ちょっとこの人借りていきますね!」

「おわ……!?」

 言うが早いか、文は青年の手を取って山の奥へと飛んでいた。

「文さん行っちゃった……。まぁいいか、巡回に戻ろ」

 文が来てから空気になっていた椛は、気に取り直して巡回の任務に戻っていくのだった。


 茶屋~天狗の里~


 周囲から様々な視線を感じながら、青年はペンとメモ帳を持つ文と向き合っていた。

「それでなんですけど、幻想郷へはいつ頃来られたんですか!」

「2、3ヶ月くらい前かな」

「どうやって!」

「えぇ……わかんない。気づいたらここにいた」

「霊夢さんとはいつお知り合いに!」

「ここに来てすぐ」

「どれくらい長いんですか!」

「ずっと一緒にいるからこれも2、3ヶ月かなって待て、付き合ってはいないぞ」

 淡々と答えていた彼だが、濁した質問をする文にとうとう突っ込んでしまった。なにやら舌打ちが聞こえた気がしたが、彼は気にしない事にするらしい。

「うーん、これじゃあ新聞のネタにはなりませんねぇ。 ともあれ、ありがとうございました」

 引き出せる情報の少なさに困りながらペンを仕舞い立ちあがる文。そのまま勘定をして去ろうとする彼女を、青年は呼び止めた。

「ちょっと待って、新聞ってもしかして文文。新聞?」

「おぉ! まさか貴方が知ってくれているなんて!!」

 くるりと反転し目を輝かせながら彼の手を取ると勢いよくブンブンと上下に振った。

「痛い痛い。新聞なんて読まなさそうなあの霊夢の神社の縁側に時折置いてあるのを見かけるから、なんだろうなって」

「てことはもしかしてまだ読んでいないんですね! ぜひ! 読んでください!」

 なおも手を振り続ける彼女に、青年は若干気圧され気味だった。

「分かった、わかったから、まず手を振るのをやめよう?」

「おっとそうでした、これは失礼しました」

 文は言われてようやく気がついたのか、パッと手を離し冷静さを取り戻した。

「新聞は今度暇な時にでも読んでみるよ。それと、周囲の視線が痛いんだけど」

「ありがとうございます! それと、周りにはこれを見せるといいですよ」

 と差し出したのは、文印の小さな木の板だった。

「これは?」

「取材協力の証みたいなものです。他の天狗たちに何か言われても、これを見せれば多分黙ってくれると思うので。1人の時はそれを持っていればまず大丈夫ですから」

「なるほど、ありがとう。それと、地底に行ってみたいんだけど」

「……うーん、悪いことは言いませんから、お散歩なら守矢神社に行ってそのまま帰った方がいいですよ」

 親切から、青年を地底へは行かせまいとする文。それほどまでに地底は危険であるということでもあるのだろう。しかし彼は、それでも行くと答えた。

「気遣いは嬉しいけど、興味のあるものは自分で見ないと気が済まなくて」

「そうですかー……じゃあ、そこまで案内しますね」

 そう言って彼女らは浮かび上がり、目的の場所まで飛んで言ったのだった。


 地底へ続く穴~妖怪の山~


 着きました、と穴の近くへ降りる文。

「これを下までずーっと降りていけば地底に着きますよ。でもこの穴の途中で妖怪に絡まれるとか聞きますから、気をつけてくださいね?」

「うん、ありがとう、文。またね」

「えぇ、また」

 文が飛び去るのを見届けてから、青年は飛び降りた。


 穴の途中


 飛び降りてしばらくしたところで青年は何かを察知して上を見た。すると、何やら木の桶のようなものが、彼目掛けて降ってきていた。

「なんだありゃ……」

 彼が少し横に逸れると、それと同じように桶も彼の頭上に位置調整される。

「だめだなこりゃ」

 彼は諦めて、桶が近くなるのを待ち、手の届くところまで近づいたところでその桶を受け止めた。

「ふぅ、危ない」

「はーなーせー!」

 ひょこっと桶から顔を出したのは緑髪ツインテールの少女。青年に腕を振りまわし離せと抗議する。

「君は……鶴瓶落とし?」

「え、うん、そうだよ。よくわかったね?」

「そんな気がしただけだよ」

 彼の返答に、少女はキョトンとしながら「まるで博麗の巫女だな」と呟いた。

「ところで君、名前は?」

「私はキスメ、何故か知ってたみたいだけど鶴瓶落としの妖怪だ」

 キスメの自己紹介に対し彼は名前が無いことを告げ、桶から手を離す。

「ところでお前、なんで地底に? 見たところただの人間じゃないか」

 ふとしたキスメの質問に、彼は「散歩だよ」と短く答え、先へ進みたいと告げる。彼女はそれを聞き、ふわりと上へ浮かんでいく。鶴瓶落としとしての定位置があるのだろうか。

「……ま、死なないようにね。ばいばーい」

「うん、ばいばい」

 キスメと別れてさらにしばらく下へ降りていると、彼の動きが不自然に止まる。いや、止められる、が正しいのかもしれない。まるで何かに絡まったように身動きが取れなくなる。体を動かしてみると、よりまとわりつくような感覚に陥る。

「うーん、これは困ったなぁ……」

 彼が事の対処に頭を悩ませていると、突然頭上から声が聞こえた。

「こんなところに人間がなんの用? あまりに無防備だと食べちゃうわよ?」

 そう言って近づいてきたのは、金髪のポニーテールで黒い服の上に赤いジャンパースカートを着た少女。

「それは困ったな。というか、幻想郷では妖怪は人間に危害を加えちゃいけないって霊夢が言ってた気がするけど?」

 これを聞いた彼女は、肩を竦めて青年と同じ目線の高さまで降りてくる。

「突っ込み所が多くて何から言えばいいやら。あなた、怖がらないのね」

「女の子を怖がっちゃ失礼でしょ。まぁ、ほかにも理由はあるけど」

 まぁ、から先をボソボソと喋って聞こえないようにしながら、そんな調子のいいことを言う。

「妖怪としては怖がられた方が本望なんだけれど。じゃあ、あなたの名前は?」

「名前は思い出せないんだ。気付いたら幻想郷にいて、ここに来る前の記憶がほとんど無くて」

「そうだったの」

 その後も少女の名前など、いくつか他愛のないやり取りをして、ふと青年は思い出す。

「そうだ、お話も楽しいけど、先に進みたいからこの糸、解いてくれる?」

 これを聞いてヤマメは驚く。1度も自身が蜘蛛の妖怪であることは言ってないのに、と。

「どうしてこれが糸ってわかったの?」

「んー、なんて言うか、体を動かすと尚更絡まる感じがして。こんな罠は1つしか知らなかったから」

「へぇ、初見で私が蜘蛛って当てられたの、霊夢以来だわ。あなた、勘が鋭いのね」

「いやいや、そんなことはないよ」

 あまり謙遜しない方がいいと言いながら、ヤマメは糸を取り払う。暫くぶりに体の自由を取り戻した青年は、彼女に礼と別れの挨拶をして、もうすぐ着く底を目ざして、さらに下へと降りていくのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。この先はいつかの未来の私が頑張ります。頑張れ、私。それでは。

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