化け物の露呈
ストック、これで最後なんですよね。今まで読んでくれてありがとうございました。きっとこの先は2年くらい後にしれっと投稿されることでしょう。頑張れ未来の私。
ある日の昼下がり 人里外れの一軒家
事件は突然である
「〜♪ さて、今日は何しようかしら」
そこには、いつかの吸血鬼の少女、エルシィがいた。今日の予定は特にないらしい。
そこへ、コンコンと扉を叩く音が響いた。
「ん、誰かしら。はぁい」
わざわざ外れにあるここに来るなんて珍しい、と彼女が扉を開けたその時。ビシャッと赤い液体が飛び散った。エルシィの鮮血だった。
「え……?」
彼女が状況を理解する間もなく、その場に倒れ伏した。突如斬りつけて来た犯人は、彼女が気を失うより早く、どこかへと姿を消していた。
2日後
霊夢が何やら慌てたように青年のところへと駆けつけていた。
「なに、そんなに慌ててどうしたの」
彼が問うと、霊夢は息を切らしながら答えた。
「あ、あんたが前、保護したっていう、あの子……」
「エルシィだっけ。彼女がどうした?」
「誰かに襲われて、今、里にいるのよ…」
「なんだって? ちょっと様子を見てくる」
彼はすぐに少しの身支度を整え、出かけようとした。
「あんたなら大丈夫かもしれないけど、気につけなさいよ」
「わかってる」
霊夢の心配に短くそう答え、彼は少し急ぎめに神社をあとにした。
同日 夕方 神社までの小道にて
「あー、ちょっと遅くなっちゃったなぁ……なんて謝ろう……」
少女は、神社にいるであろう2人を心配させているかもしれないということを考えていた。
そんな彼女の後ろから、ひとつの影がついてきている。無論、これに気付かない彼女ではないが、もう少し泳がせておくらしい。すると突然、後ろにあった気配はパッタリと消え、何も感じられなくなった。
「消えた……?」
不思議に思い、後ろを振り返ってもそこには誰もいない、何も無い。そして彼女が前に向き直った時だった。
「がはっ…!?」
とてつもない衝撃が彼女を襲い、軽くその矮躯を吹っ飛ばした。ぶれる意識の中で前方を確認してもそこには何も無い。
「な、なんで……っ」
あまりに不可解な状況に、理解が追いつかず、パニックになりかけていた。
彼女はよろよろと起き上がる。しかしそこへまた、強い衝撃が襲った。
「ぁぐっ…!」
彼女は、気配の察知できない相手に翻弄され続け、もはや起き上がることさえ出来なくなっていた。
「っ……はぁ…はぁ…」
朦朧とする意識の中で見えたのは、1人の人の影と一筋の輝き。それは、彼女の刀の刀身が反射した光によるものだった。
黒い人物は彼女からとった刀を振り上げる。
「……っ」
少女は、直後に来るであろう痛みに抗うため、目を固く瞑った。
しかし、覚悟した痛みが来ないことを不思議に思い、ゆっくりと目を開けた。
「え……?」
彼女は驚きの声を漏らす。そこには、刀を持つ人の他にもうひとつ新しい影が、彼女を庇うようにして立っていた。
「どう、して……?」
その体には、深い切り傷が刻まれている。
「……間に合って……良かった……」
彼女を庇った人は、倒れ伏した。それは、吸血鬼の安否を確認しに出た青年だった。
「やだ、やだよ……死なないで、嘘っ……」
少女は震える手で、倒れた青年の身体を揺らすが、反応はない。
刀を持った黒い人物は、次こそはとでも言うように1歩、また1歩と近づいてくる。
少女は今も立ち上がれず、這うようにして逃げる。
黒い人物は倒れた青年を蹴飛ばし、なおも彼女へ近づく。
その目は、彼女の首を捉えた。刀が構えられる。
今度こそ終わる、と彼女は顔を背け固く目を瞑った。
けれど、また、来るはずの痛みは襲ってこなかった。刃の代わりに彼女の肌に触れたのは1枚の桜の花びらっだった。
「花…びら……?」
彼女は恐る恐る目を開ける。
そこで目にしたのは、先程斬られたはずの青年が、黒い人物の腕を掴んでいるところだった。
しかし、そこにいる青年の姿は、普段の容姿に違うものが加わっていた。
「……4、尾……?」
青年はそのまま掴んだ腕を捻じ曲げ、地面に叩きつけるように倒した。しかし相手は瞬時に体勢を整え距離を置く。そして、少女を襲った見えない衝撃波を飛ばし青年の体を吹き飛ばした直後、彼に追いつき首に狙いをつけ刀を振った。
しかしそこに肉を斬り骨を断つ感触はなく、ただ空を切っただけだった。
青年は相手の背後を取り、妖力を練って形作られた刀をその体に深々と突き刺した。それは倒れ伏し、口から血を吹き出して次第に動かなくなり、絶命した。
「……っ」
青年は、糸が切れたようにその場に倒れた。同時に桜吹雪が起こり、少女が見た4つの尾は消えた。
彼の体の切り傷からはとめどなく血が流れている。
「まだ、血が……」
それを見た少女は力を振り絞って自力で立ち上がり、彼の元まで歩み寄ったが、彼女の体もまたボロボロで、意識を保つので限界だった。
彼のことを支えることは出来ず、彼女もその場で倒れてしまった。
彼女が意識を失う直前に見たものは、なにやら不気味な空間と、そこから出てくる1人の女性の姿だった。
神社
「ん……ぅ……」
少女の意識が戻った。うっすらと見えるのはどこか嬉しそうに覗き込む霊夢の顔だった。
「霊夢……?」
「よかった…目が覚めて……!!」
霊夢は嬉しさのあまり、少女を抱きしめようとした。
「いたっ……」
「あっ、ごめんなさい、嬉しくてつい……」
「ううん、大丈夫だよ」
少女は霊夢にはにかんで、気にしてない様子を表した。
「あら、もう目が覚めたのね」
「あなたは……?」
どこかで見たことがあるようで見慣れない人にきょとんとする。
「ああ…こいつは「私は八雲紫。妖怪の賢者などと呼ばれておりますわ」……」
霊夢の言葉を遮って、紫と名乗る人はそう言った。
「紫さん……私は周防綾華です。綾華で構いません。よろしくお願いします……」
少女、綾華は起き上がり、軽く自己紹介と会釈をする。
「そう、綾華ね。体に痛みとか、異常はない?」
「は、はい、なんとも……っ」
そう言いつつ感じた鈍い痛みに、彼女は顔を顰めた。
「あるじゃない。貴女はしばらく養生してなさいな」
「わ、わかりました……。あ、あの、彼は……あの人は大丈夫なんでしょうか」
彼女は横になりながら、紫に問う。
「……彼なら大丈夫よ。よく分からない能力のおかげかしらね。ただ、もしかしたら数日は目を覚まさないかもしれないわ。それと霊夢、ちょっといいかしら」
紫は青年の状態を告げ、霊夢を呼び、部屋から出ていってしまった。
「……私のせいだ……私が弱いから、あの人が……」
「……」
酷く落ち込む彼女を尻目に、霊夢は何も言わず、ただ静かに部屋を去った。
境内
「それで紫、なにか話があるんでしょ」
綾華の部屋から離れるために境内に出た紫に、霊夢はそう問いかける。
「……えぇ、彼のことなんだけど」
1つ間を置き、紫は話し始める。
「彼には、元からよく分からない能力があったわよね」
「えぇ、謎にチートすぎるようなやつがね」
「あれはどうやら、彼の中にいる存在所以のものみたいなの」
霊夢は首を捻る。
「彼は妖怪の依り代……いいえ、宿主と言った方が正しいわね。とある妖怪が彼の中に住み着いているの」
「つまり、あいつはただのチート人間じゃなくて、むしろ妖怪に近い存在ってこと?でもあいつからは妖力なんて感じられないわよ?」
紫の言葉を飲み込み解釈したが、彼に違和感の感じられない霊夢はそう聞き返す。
「その解釈でも間違いではないわね。彼から妖力を感じられないのは、普段はその妖怪が、彼の奥底で眠っているからよ」
続けて彼に起きたことの推測を述べる。
「それが今回、彼が1度死にかけたことによって、妖怪が表に出ることで脅威を取り除き、一時的に血が流れるのを止めていたみたいね」
「ふぅん……ま、私はあいつが生きてるならなんでもいいわ」
面倒くさくなったのか、嬉しさを隠すためなのか、素っ気ない反応を摂る霊夢。
「あら、霊夢もしかして彼のこと意識してるの?」
「ばっ!? そんなわけないでしょ!? そこそこ長く居座ってる同居人に死なれなくて安心しただけよ! これで死なれたらさすがに気が病むじゃない!」
彼女の必死な弁明を紫はクスクスと笑いながら見守り、落ち着いた頃にスキマを開いた。
「それじゃあ、私はそろそろ帰るわね。彼の世話、頼むわよ」
「うっさいわかってるわよ! 早く帰れ!!」
ふふふ、と微笑みながら、紫はスキマの中へと消えていった。
「はぁー、なんなのあいつ……」
ブツブツと文句を言いながら、霊夢もまた神社の中へと帰るのだった。
青年の夢の中
「馬鹿な真似をしたな……」
天狐は少し怒気を孕んだ声でそう言った。
「得物を構えて間に入るには間に合いそうになかったから……」
「汝においそれと死なれては困るのだ。もう少し合理的な判断をしろ。それとも我が汝の身体を繰ろうか?」
「それは困るな。でも今回は助かった、ありがとう」
「そういうことではなく……もうよい、白けたわ。」
天狐は呆れたように明後日の方を向くが、彼は少し姿勢をただし真面目な顔をしてこれに向かう。
「天狐、お前の力をこれからも貸してほしい」
「何を言うか。今までも散々使っておったろうに……」
彼は「そうなんだけど……」とこめかみをかく仕草をする。
「宿主に易々と死なれるならば貸すが、我の力は強大なり。呑まれぬよう用心せよ」
快諾、ではないが天狐は彼の意思に逆らうつもりは無いようで、力を使うことに否認はしなかった。
「我は疲れた。しばし休むが力は好きにせい……」
そういいながら天狐はどこかへと消えていった。
数日後 明朝
「っ…………」
意識を取り戻した青年は、静かに上半身を起こした。そこへ、心配そうな顔をうかべた綾華がやってきた。
「あっ、やっと起きた…! よかった……」
「……あぁ、ごめん、心配をかけたね。何より無事そうでよかった」
微笑みながらそういう彼を見て、彼女は目じりに涙を浮かべ、その場に座り込んでしまった。
「っ、あ、あのっ……ごめ、ごめんなさいっ……!! わた、わたしのせいっ、で……ごめんなさいっ……!!」
彼女は、彼が重傷を負ったのは自分のせいだと考え、ずっと自分を責め続けていた。その思いから、嗚咽混じりに、何度も、何度も彼に謝った。
「気にしないでいいよ。君が無事で何よりだ。ほら、俺は不思議な力があるから、あれくらいじゃ死にゃしないさ。だから泣かないで」
綾華を安心させるため、彼は軽口を叩いてみせ、彼女の涙を拭ってやった。
「う、ん……ぐすっ……」
彼は、彼女の頭を泣き止むまで、ポンポンと優しく撫でるように叩いていた。
もしかしたらこのまま息を引き取るかもしれませんね。この作品。だって展開とか思いつかないですし。ここまで読んでくれたあなたの今日が、良い1日とならんことを。では。