化物の誕生
実に2年ぶりに、2年前からあった原稿をそのまま投稿してみるっていうだけのこと。きっとまたすぐいなくなってはしれっと戻ってきたりを繰り返すのでしょう。
同日の昼、紅魔館内にて。
「広い」
紅魔館は、メイドが能力を使い館内の部屋を広くしている。その上、外側も内側も目に悪いくらいに紅いのだ。
「さて……あの、メイドさん、ついてくるのやめてもらえません?」
「……やっぱりわかるのね」
彼がそう言うなり姿を現した彼女は、もう動揺することもなかった。
「まぁちょうど良いや。主のとこまで案内してくれない?」
「嫌よ。どうして招かれざるものを案内しなきゃならないの」
ちぇ……とかなんとか言いつつ、また、青年は歩き始めた。
「……そこの男、止まりなさい」
不意に、後ろから威厳のある声が響いた。ついてきていたはずのメイドは、いつの間にか声の主の傍らに控えている。
「……今までにない威圧感。そうか、貴女が主(幼女)か」
「えぇ、そうよ。それで、何の用かしら? (今なにか馬鹿にされたような……?)」
主(幼女)のその問に、彼は
「え、暇だから来た」
と、「逆にほかに何かあるの?」といった顔で答えた。これは、館主もメイドも予想していなかったようで、思わず「は?」と言っていた。
「え、暇だからって何?本当に何も用事なんてないの?」
館主は威厳とか諸々を気にすることなく、そう訊いた。
「本当に何も無いんだって」
2人は呆れて何も言えないようで、ため息をついていた。
「……ま、まぁ良いわ。そういえば、名乗っていなかったわね。私はレミリア・スカーレット。レミリアで良いわ」
「私は十六夜 咲夜です」
「俺は、名前を思い出せない。だからよほど変なのじゃなけりゃ、なんと呼んでも構わない」
それを聞いて、レミリアは少し悪い笑みを浮かべたが、青年がそれを気にすることは無かった。
「……あのさ」
彼はレミリアに何かを気にしながら話しかけた。
「なに?」
「下の方から感じるこの狂気は何?」
「!?」
それは、レミリアが最も気にしている問題のことだった。
「ど、どうしてわかるの?ほかの人は、地下に行かなければわからないのに……」
「俺は普通じゃないから、嫌でも、感情とか力とか、わかるんだよね」
「そ、そう……でも、これはあなたには関係ないから、忘れなさい」
彼女はこのことについて、他人には触れられたくないようだ。それもそのはず。この狂気の正体は、彼女の妹のものなのだから。身内の問題に、他人が干渉されたくないというのは、至極一般的な考えだ。それがたとえ、彼女が現状どうして良いかがわからなくても、だ。
「でも、自分じゃ解決出来ないんでしょ?」
「……!」
青年の言葉に、彼女は少し顔を背けた。
「だから、会ったばかりだけど俺が何とかするから」
「本当にあなたに解決できるの!?」
「できるよ。俺は普通じゃないから」
「……」
何故か説得力のある彼の言葉に、彼女はもう何も言い返せなかった。
「……じゃあ、お願い。あの子を……フランの狂気をなくしてあげて」
「うん、任された」
かくして、彼は紅魔館の地下へと、単身で向かった。
同日の夕方、紅魔館地下にて
「お邪魔しまーす」
「……あなたはだぁれ?」
青年が地下室に入るとすぐに、ぬいぐるみを抱えたフランが訊いた。その問に、彼はこう答えた。
「俺は君の遊び相手だよ。フランちゃん」
「?どうして私の名前を知っているの?……まぁ良いや。お兄さん、私ト遊んでクレルノ?」
『遊ぶ』。この単語を聞いて、フランは狂気に呑まれ始めた。
「あぁ、遊んであげるよ。どんな遊びでも、ね」
「アハ、じゃあ、アソビマショ?」
そうして間もなく、彼女は完全に狂気に呑み込まれた。
「内に秘めてるだけで感じ取れたんだ。外に出りゃ、そりゃすごいよな」
「アハハハ、オニイサンナンカツヨソウ! ダカラコレクライヨユウダヨネ!」
そう聞こえた時には既に、彼は弾幕の檻の中に閉じ込められ、上から4人のフランが彼を見下ろしていた。しかし彼は何も臆せず、どこからか取りだした刀で周囲の弾幕を消し、前後左右から斬りかかってきたフランを避けずにそのうちの1人のフランを強引に捕まえて、抱き寄せた。
「ッ!?」
彼女は突然のことに驚きもがくが逃れられない。
「……ずっと、ずっと独りだったんだね……」
しばらくして彼が言葉を発すると、何やらフランの周りに黒いモヤが浮かび始め、それに合わせてフランが苦しみ始めた。
「ァ、ァァ……」
「きっと、誰にも相手にされなくて、寂しかったんだよね」
そのモヤは次第に立ちこめる量が増えていき、微量ずつだが、青年の方へと寄せられていくように見えた。
「ゥゥ、ァ……」
「……大丈夫、君は独りじゃない、邪魔者なんかじゃない。当たり前のように誰かと遊んで泣いて過ごしていいんだ」
「ゥ……オにイサん……?」
「すぐに取り除いてあげるから。こんなもの、君には必要ない」
やがて、モヤは完全にフランから離れ、それらは全て青年の方へと寄っていった。
「あ、りがと……おにい……さん……」
狂気が無くなった反動か、フランはそのまま気を失ってしまった。
青年は、彼女の頭を撫でながらこういった。
「よしよし……もう大丈夫。君は、明日から普通の元気な吸血鬼の女の子だ。だから、おやすみ、フラン」
彼は、フランをベッドに寝かせて、そのまま姿を消した。その時にはもう、紅魔館の中にはいなかった。
同日の逢魔が時、人里の外れにて
逢魔が時。それは、人が人ならざるものと逢いやすくなる時間帯のことを言う。だが、この人里においては、そんなことなどは気にせずとも無事に生きていけるのである。しかし、そこから一歩でも外に出れば、妖怪達が跋扈する場所になるのである。
そんなところに、木造の簡易的な家が建っていた。
「ちょっと想像してたら出来ちゃったぜ。なぜかはわからん」
とは、青年の談である。
そんな彼の家から、微量ながらもとめどなく、妖気が滲み出していた。それをたどって彼の家まできた下級妖怪が、彼の家に入っていった次の瞬間、なにか液体がはじけ飛び散るような音を立てて、開け放したままだった扉の奥から飛沫のように出てきた。周辺は真っ赤に染まり、その下級妖怪は、形を残していなかった。
これをやった本人は、家の中で倒れ苦しんでいた。何があったのかは、彼自身にもわからないがただ一つ心当たりはあった。
それは、フランの狂気。いや、元フランの狂気で現青年の狂気。昼過ぎに取り除いていたフランの狂気は、消えたのではなく、彼が取り込む形になっていた。いや、なってしまった。故に、全ての狂気を取り込んだ彼の精神は壊れ、いくつかに分裂していた。
それからしばらく経って、ようやく落ち着いた彼はいつものように博麗神社へと帰った。
同日、深夜、青年の夢の中にて
「……ここは、どこだ」
青年は、周囲が真っ白な見知らぬ場所にいた。いや、夢の中なのだが、彼はそれを知らない。
「……何も無い、誰もいない。そうか夢か」
……彼としては、「何もなく誰もいなくて、こんな真っ白な場所なんて見たことねぇから、これは夢だろう」という、彼の経験にしか基づかない、しかし納得のできるような理屈での結論だったのだが、確かにここは夢である。
「……汝、我が宿主よ」
そこへ、人語を繰る1匹の狐が現れた。
「ん、何?」
当の彼は狐の呼びかけに驚くことなく普通に返事をした。
「……汝が生まれ落つより長く、我は汝に宿っていた」
「……は?」
狐の急な告白に、彼は流石に驚いた。
「いや、いきなり何言ってんの?」
「……この空間はじき崩れる。故に、あと一言のみ。不可思議な力の正体は我なり」
狐がそういった後、彼のいる空間は崩れ始め、彼が狐に何か言う前にはもう、狐の姿はそこにはなかった。
「はっ……」
青年が目を覚ましたのは、月が沈みかけている頃だった。
「なんだったんだ、今の夢は……」
彼はそんな疑問を抱えながら、もう一度眠りにつこうとしたが、無理だったのでそのまま起きることにした。いつもよりかなり早い時間である。
「ふぁぁ……眠いのか眠くないのか分からない微妙なところ……」
そのまま何もすることは無く、日が昇るまでずっと、縁側に座っていた。するとそこへ、霊夢が起きてきた。
「あら、おはよう。早いのね」
「いや、なんか変な夢をみてさ、眠れなくなったから」
「変な夢……?」
「そ。よく分からん奴がよく分からん事を言って消えただけなんだけど、その内容がどうにも気になって」
「何よそれ。まったく説明になってないじゃない……」
彼は、テキトーに霊夢をあしらって、先に霊夢に顔を洗いに行かせた。
「あの夢の内容は、霊夢にだって言えねぇよ」
彼は、己の内に感じる不思議な感覚を気にしながらもそれを表に出す事なく、戻ってきた霊夢と入れ替わり顔を洗いに行った。
それから暫く後、いまだに彼は戻ってきていなかった。
「いくらなんでも遅すぎるわ。何してるのかしら」
と、霊夢が彼のところへ行こうとしたその時だった。
博麗神社の西方から、化け物の方向が轟いた。
「!? どうして今なの! 面倒くさいわね!」
霊夢は若干キレながら、すぐに支度をして、その場所へと向かおうとしたその時、彼女の頭上を何かが豪速で飛んでいった。どこぞの魔法使いではない、新聞屋の烏天狗でもない。彼女の知り合いに、その速度で飛べる者はいない。出来るとしたらただ一人、不可思議な力を持つ青年だけ。その結論に至ってから、霊夢はより急いで、化け物のところへ行った。
朝方、化け物のところ
「おぇ、気持ち悪っ」
青年が着いた場所は、火に包まれ、血溜まりがそこら中にあって、肉が焼ける臭いのする村「だった」所。いたるところに骨やばらばらになった死体の一部やらが転がっていて、住んでいた家などは、ほとんどが燃えてしまっていた。それを見たとき、一瞬何かが脳裏をよぎったがそれが何かは分からなかった。
「やったのは……あいつらか」
彼の視線の先には、5匹ほどの火を使う魔物がいた。おそらく、個々の能力自体はそこまで高くない。
「とりあえず、この力に慣れるための被験体になってもらおう」
誰にでもないがそう宣言するなり、時々見える魔物の核のようなものを、遠くから握って、その手を開いた。すると、その魔物は飛び散った。
これはフランの能力だが、狂気が取り込まれてしまったときに、複製のような形で使えるようになってしまったらしい。それに気付いたのは昨日神社に戻る前だ。
彼はさっさと終わらせるため、残る4匹も同じように殺した。
ここで何も無く終わればよかった。しかしそうはならなかった。彼があの能力を使うたびに、少しずつ少しずつ、精神が狂気に蝕まれていた。それにより、彼の周りには暴走した力のいくらかが放出されていた。だが、それもすぐに良くなり、放出も止まった。
それからすぐに、そこに霊夢が到着した。そして、村だった場所の惨状を見て、俯いた。
「霊夢、終わったから帰ろう。事情説明は後でするから」
青年がそう言うと、霊夢は何も言わずそこから飛び去った。見るに耐えなかったのだろう。何か、別のことを気にしている様でもありながら。
そして、彼も戻ろうとしたとき、また脳裏に何かがよぎった。今度はとても鮮明で、それが何かすぐに分かった。思い出したくない事だった。
火を吐く魔物や鋭い爪を持つ魔物の姿
火に包まれ逃げ場の無い村
泣き叫ぶ子供や女の声
肉の焼ける臭い
燃えて崩れる木造の家屋
耳を塞いでも聞こえる断末魔
そこら中に出来た血溜まり
そして、その中央に佇む4つの尾を持つ妖狐の姿
「っ!? 思い、出した……これは、俺が生まれて、少しだけ育った村の……俺は、魔物の爪を刺されて……けどなんとか逃げ出して、でも、村の外れにあった壊れた祠の前で力尽きたはず……」
_____じゃあ、何故生きている?
それはまだ、思い出せなかった。
彼は、自身の存在に関わる大きな疑問を残して、神社へと戻った。
私自身もうこのお話の展開をどのようにしたかったのか思い出せないので、きっと展開が変わりつつ、次が投稿されることがあれば続いていくことでしょう。