4話目 ひょっとこの名前の由来は諸説ある
宝箱からひょっとこのお面が出て来た。
「一体これをどうしろと…被れってことなのか…?」
予想外の珍物に、どうすればいいのかわからず途方にくれる。
とりあえず被ってみる。しかし何も起こらない。
ーーひょっとこって、なんの冗談だよー‼︎ こんなもの名刺と同じぐらい使えねーよ‼︎
べしっ、と地面にお面を叩きつける。
すると、お面から『面』と書かれたアイコンが浮かび上がって来た。
「なんだこれ」
浮かび上がって来たアイコンに触れると、そこからさらに新しい画面が浮かび上がり、ばっと文字が表示された。
「うぉ、何々…」
装備品:妙な面
装備することによって火水木土白黒全ての属性魔法を使用することが可能になる。
一方で一度使用すると最低一時間面を外すことができない。
「…待て待て待て、魔法? 魔法が使えるのか? いやそれより、何この一回使用すると一時間外れないって。一時間ひょっとこのお面被り続けるとかとんでもないデメリットなんだが。死んだ方がマシなんじゃないか?」
パリンと音を立てて結界が壊れ、足元の魔法陣がす、と消えていく。
「魔王さま!」
「やっぱ死ぬよりマシだ‼︎」
再びひょっとこのお面を被りそれっぽいポーズをする。
しかしなにも起こらなかった。
「あのー、魔王様?」
盾を構えたヘビのような見た目の生物が、固まったまま動かない公平を見て心配そうに声をかける。
「…なにも起こらないじゃないか…」
ぼそり、と呟く。
「…魔王様?」
「なんでもない!…というか、さっきから君ずっと俺のそばにいるけど俺の味方なの?敵なの? 」
渾身のかっこいいポーズが不発に終わったことで、気恥ずかしさのあまりテンパってなんの脈絡もない質問をしてしまった。
「…え、今更ですか?」
ーーおれも思ったよーー
だが言ってしまったことは仕方ない。それに立場を確認しておくことはこの状況において必要なことだ。
ーーたとえ今更と言われようとも。
「どうなんだ! お前は敵か?味方か?」
「も、もちろん味方ですとも! 貴方様に助太刀するために皆この場に来ております。」
皆、というのが引っかかるが、とりあえずこいつは味方だということにしておこう。
問題はこのあとどうするかだ。
ひょっとこのお面が不発に終わった今、俺に打つ手はなにもない。
おまけに、そこら中に武器を持った危ないやつらがうろちょろしている。
ーーたぶんこの状況で俺は害がないですよー、とか言ったところで通じなさそうだしな…
逃げよう。そう心に決めた瞬間。
「魔王様危ない‼︎」
ヘビのような見た目の生物が声をあげた。
ーーななな、なになになに⁉︎
「お召し物に火が‼︎」
「お召し物に火?」
ぱ、と見るとズボンの裾に火がついて、どんどん燃え上がって来ていた。
ーーやばこのスーツ化繊ーー‼︎
「熱‼︎ 熱‼︎ 熱‼︎ 水ー‼︎」
ぎゃー、と叫び声を上げながら飛び跳ねていると頭上から水がバシャ、と降って来た。
「…鼻に入った…」
だが火は消えた。
心配そうにヘビのような見た目の生物が話しかけてくる。
「大丈夫ですか、魔王様?」
「な、なんとか」
「ちっ、外したか」
すぐ近くにいた黒いローブ姿の男が舌打ちする。
ーーお前か犯人ー!
「魔王様どこへ⁉︎ そっちには味方がおりませんぞ!」
あの野郎、と鼻息荒く向かうと、あっと言う間に兵士に囲まれた。
「…しまった。俺のバカ野郎!」
さっさと逃げておけば良かったと後悔する。
ーーいや待てよ。さっきなんで頭の上から水が降って来たんだ?
あの時、頭上に何かあるわけでもなく、空は晴れわたり、暫定味方のヘビのような見た目の生物が水を持っていたという記憶はない。
「まさか、さっきのが魔法…?」
ーーだとすると一体なにが切っ掛けでーー?
「魔王覚悟ー!」
兵士の一人が槍を振り下ろす。
ーーそうだ! あのとき俺は消火しようと必死で水の事を考えていた。つまり…
振り下ろされた槍はしかし、突然公平と兵士の間に盛り上がって来た土壁によって阻まれた。
「なっ⁉︎」
「危っねー! あと少し反応が置けれたら串刺しだー!」
ーーそういうことか。
今ので魔法というのが、どういったときに発動するのかわかった。
要は想像力だ。今まさに自分と兵士との間に土で障壁を作るイメージをした。
そして、実際にその事象は起こった。
同じように障壁を作りながら、兵士たちの攻撃を塞ぎつつ、ヘビのような見た目の生物がいるところまで下がる。
「…君、味方なんだよね?」
「はい、もちろんです!」
ヘビのような見た目の生物が答える。
「じゃあさ、これからどうしたらいいか教えてくんない? 状況よくわかってないし、さっさとこんなところから逃げたいんだけど、土地勘もないしどうするのが最善かわからないんだ。」
攻撃が飛んでこないように、ヘビのような見た目の生物の方を見ずにどんどん障壁を作っていく。
「これは…」
ヘビのような見た目の生物が気の抜けたような声で呟いた。
「…君?」
「はっ、すみません。…このあとですが魔王様のおっしゃられる通り一度撤退致しましょう。道案内はお任せください。総員撤退だ‼︎ 第一第二部隊を残して全員魔王様をお守りしつつ魔王城まで戻るぞ」
おおー、という声が響き、あっという間に公平の前後左右を化物どもが囲い、猛スピードで彼らが最初に来た方向へ連れ去られた。
「うわぁぁぁー‼︎」
公平の情けない声がこだまする。
たまたまその声を聞いていた者がいた。
結界を壊した姫ーーサリアだ。
「…! 魔王が逃げます! 魔術師は全員なんでもいいから遠距離魔法を放ちなさい! ライトニングランス‼︎」
姫の声に一斉に魔術師が遠距離魔法を放つ。
それは猛スピードで撤退中の公平達の元へいともたやすく届いた。
「うそーん!」
上空を見上げて公平は声を上げる。
そこにはまさにこちらに向かって落ちてくる攻撃の数々があった。特にその中央にある雷のようなものは一際大きくなにやら力を感じる。
ーーさ、流石に数が多すぎ!
先ほどのような土壁では防げそうもない。というか、頭上に土壁ができるイメージをすることができなかった。
ーーイメージしろ! あの攻撃を全て防ぐようなもの…そうブラックホールのようなものを!
その瞬間、公平の頭上を中心に黒い何かが天井を覆った。
全ての攻撃が黒い何かによって吸い込まれ、やがてそれごと全てが消え去る。
「よっしゃあ! なんだかよくわからんが、なんとかなった‼︎」
「流石は魔王様…」
腕を掴んでいた化物のうちの一体が、感嘆の声を上げる。そしてまた猛スピードで走り始めた。
「ぎゃぁー!」
ーーそういえば今の攻撃のとき皆、攻撃から俺を守るために止まってたんだった…
公平は再び叫び声をこだましながら、戦場から離脱した。
「ーーくっ、逃しましたか。こちらも残党を掃討しつつ撤退します。」
姫の声に、はっ、と周りの兵士たちが返事をする。
ーー次は逃がしません。そんな言葉を残して姫は去った。