34話目 スケルトンとの対話
更新遅れました。すみません。
「いやいや、元人間なら意思疎通ができるって言うなら、あのゾンビともできることになるじゃないか。
俺にはとてもそんな風に見えなかったが?」
仮にこのヒースと名乗るガイコツの言っていることが本当だとするなら、先ほどのゾンビは意思がありながら頭からかぶりつこうとしたことになる。
公平はさすがにそれはないと思いたかった。
ーーない、よな…?
「だろうな。ゾンビに意思があるなら、それを殺した俺も困る。
ゾンビに意思はないよ。」
ヒースから肯定の言葉を聞いたことで、公平は安堵する。
「…だったら君が意思疎通できることが不可解じゃないか?
ゾンビに意思はなくて、何故君に意思があるんだ。
…まさかとは思うが、骨になったら意思が戻るとかかい?」
「まさか。スケルトンになったところで意思は戻らんさ。」
ゲラゲラとガイコツが笑う。
どうやらヒースはスケルトンという魔物らしい。
「なんで俺が魔物になっても意思があるかと言うと、元人間という知能が高い種族であることもそうだが、それ以上に勇者だった、ということが大きいな。
魔王に勝つために修行して、肉体以上に精神を鍛えた結果、死んだ時に肉体から精神が離れなかったのさ。」
そんなことが可能なのだろうか、と公平は思った。
でも確かに、別の迷宮の探索中に仲間に似たようなことを尋ねて、中身が空っぽだから意思がない、というのを聞いたことがある。
ーーその時はよくわからなかったけど、中身というのが魂だ、と考えると辻褄が合うような気がするな…
「ちなみに肉体が精神から離れたら、君もあのゾンビと同じようになるのかい?」
たぶんな、とヒースは頷いた。
「精神が肉体から一度離れると、すぐにバラバラになって二度と戻れない。
そうなれば肉体だけが迷宮に操られて、意思なく彷徨うことになるだろうさ。」
公平は、なるほど、と呟いた。
逆に言えば精神が肉体から離れなければ、彼のように意思を残したまま活動できるのだろう。
だが、おそらくそれは生半可なものではないと公平は思った。
先ほどゾンビを含め元々人間であったものが意思を獲得していないことが、それを裏付ける。
魔王を倒すために修行してきたというのは、伊達ではないようだ。
ーーというか、今更だけど俺、魔王なんだよね…言わない方がいいかな?
「さてところでコウヘイ、お前さんは一体何者なんだ?
弱いがただの魔族とは違う…これは黒魔法だな。
さては魔王だな?」
速攻でバレた。
こうなったら洗いざらい話して殺されないように説得するしかない、そう思った公平は今までの経緯ごと話した。
「異世界から突然やってきて、魔王?
ハハハハハ愉快な奴だな。そんなおかしな魔王は初めて聞いたぞ。
しかもレベル1からスタートで、まだ13とはよくこの迷宮に来ようと思ったもんだ。
なるほど、妙な気配はお前さんがギフトボックスから獲得したその面から出たものだな。
ちょっと見せてみろ。」
ヒースに言われ、公平は素直にひょっとこの面を外してヒースに差し出した。
ひょっとこの面にヒースが手を伸ばすが、触れる寸前で青白い火花が散る。
「おっと、制限がかかってるな…どうやら所有者しか触れないようだが…妙だな…制限をかけたのは所有者自身じゃない。別の誰かだ。」
ヒースの呟いた言葉に公平が反応する。
「別の誰か?」
「ああ、おそらくこの面についている念の持ち主だろう。
恨み、ではないようだが、相当強い思念が憑いている。
一体何をどうすればこれほど強い念を憑かせられるの甚だ疑問だ。」
ーー念⁉︎ 思念⁉︎ すごく不穏なワードなんだが…
恨みではない、というのが救いだが、強い思念が憑いている面をつけるのは少し嫌だった。
しかし、迷宮内にいる上、剣がない今これをつけないでいるのは辛いので、公平は仕方なくひょっとこの面をつけた。
「見れば見る程滑稽な面だな!」
つけるとヒースが腹を、と言っても肋骨と背骨だが、抱えて笑った。
公平は、少しイラっとしたが、我慢した。
「はあー悪いな。まあ、滑稽だがお前さんはそれに感謝した方がいい。俺があの場にいたのは、その面から流れてきた強い思念を感じて追ってきたからだ。
じゃなきゃ、ここらに落ちてくるやつはごまんといるからな、普通なら落ちてきた程度で見に行こうとはしねーよ。」
ヒースの言葉に、それなら、と公平は憑いてるひょっとこの面を受け入れられそうだったが、やっぱり何か憑いている時点で嫌だった。
「落ちてくる奴がごまんといるってことは、あれはトラップの一種だったのかい?」
「トラップ…まあ近いといえば近いな。
あれは迷宮が気に入った奴を引き込んでいるのさ。」
公平は首を傾げる。
「迷宮に意思があるのかい?」
ああ、とヒースが頷いた。
「あるさ。なんていったってここは生きている迷宮だからな。」
ーー生きている?
「何を持って生きているとするんだい?
迷宮のコアがあることか?」
ヒースが首を横に振る。
「コアがあろうがなかろうが、死んでる迷宮は死んでる。
迷宮が生きているっていうのは、外から来た生物を魔物に食らわせ、迷宮が消化し、吸収した力で増殖していくことを意味する。
つまり、年月が経っても様相や階層が変化しない迷宮は死んでいて、変化するのは生きているのさ。」
「うわぁ…本当に生きているみたいだな…いや生きているんだけどさ。
ということは、迷宮のコア、というものは俺たちのように生きて、思考するのかい?」
公平が尋ねると、さてな、とヒースが肩を竦めた。
「生きているのはコアだけじゃねえ、迷宮全体さ。
コアはいわば心臓みたいなもんだ。
だから、コアを取り除けば迷宮がなくなるのさ。
なくなっていなくても死んでいる迷宮、というのは時間が経てば同じように消えていく。
蓄えた力を放出しているだけだ。
思考があるのかは正直俺にはわからん。
だが、肉体が優れている者、魔力が高い者や質がいい者が引き込まれてくるから、本能的に美味そうだとは思っているんじゃないか?」
ーーえ…俺レベル低いし、魔力量も多くないんだけど…質がいいのか?
それはそれでどうなんだろうか、と公平は思った。
「迷宮のことはもういいや。
それよりもここからどうやったら一番上まで上がることができるんだい?
仲間がそこにいるんだ。」
「なんだ一人じゃなかったのか。
だが、上がるのは無理だ。下がることはできるがな。」
何故、と公平が叫ぶと、ヒースが下を指した。
「ここより二階層下に、スケルトンキング、という強力な魔物がいる。
この階層は奴のテリトリーで、あれを倒さない限り上には上がれない。」
は、と公平が呟く。
「なんでそんなことになるんだ⁉︎」
「落ち着けよ…おそらく奴の力でこの一帯だけ別空間に隔離されているらしい。
だから奴がそれを解除するか、倒さない限り無理だ。
元迷宮の守護者なだけはある。」
落ち着け、と言われたので深呼吸して気を鎮める。
ーーここでパニックになっても仕方ない…抑えろ…抑えろ…
「…ふー。
元迷宮の守護者、とはどういうことなんだい?」
迷宮の守護者は赤スライムを含めて何度も見たことがあるが、元、というのが公平にはわからなかった。
「普通、迷宮の守護者はコアを守るために常にそこにいる、っていうのは知っているか?」
公平は頷いた。
「スケルトンキングはそれと同じで、俺が最初に対峙した時には、確かにそこにコアがあった。
だが、次に見にいったときにはスケルトンキングはいたが、そこにコアはなくなっていて、代わりに扉があった。
おそらくコアは更に先の階層を作って移動したと思われる。
だから、俺は便宜上そのスケルトンキングを、元迷宮の守護者と呼んでいるのさ。」
「なるほど…じゃあ俺が上に上がろうと思ったら、そのスケルトンキングを…」
「倒さないと駄目だろうな。
それか、迷宮内で死ねば、俺のように魔物になって、もしかしたら仲間とやらに会えるかもしれないぞ?
お前の自我の有無は知らんがな。
どうするかはお前が決めるんだな。」
ーー倒すか、死ぬか…
絶望的な選択肢に、公平は目の前が暗くなるような気がした。




